第三十六話
五月、ソビエトは攻勢に出た。春の第一次攻勢である。兵力は集めに集めた五十万、本来なら百万近く集める予定だったがポーランド・ソビエト戦争もしているのでそちらを先に片付けて返す刀の感じで大軍を用いて帝政国を打破すると決定された。
『Ypaaaaaaa!!』
ハバロフスクの郊外、ニコラエフカでシベリア帝政軍はソビエトを迎え撃った。彼等は塹壕を掘ろうとしたがシベリアの冬で土は硬く、精々五十センチ程度だった。そのため、木々を切り倒して丸太を楯にした防御陣地の構築をしていたのだ。
「来やがったなPKKAめ」
「全て残らずシベリアの地に沈めてやる」
シベリア帝政軍の兵士達は口々にそう言ってマキシム機関銃やモシン・ナガンに弾丸を装填して突撃してくるソ連軍に照準する。
「アゴーイ!!」
野砲陣地からはM1902 76ミリ野砲、M1900 76ミリ野砲が次々と砲撃を開始して榴弾をソ連軍に叩きつける。それでもソ連軍は突撃を止めない。
「アゴーイ!!」
急造陣地は射撃を開始してマキシム機関銃、PM1910重機関銃がその能力を発揮する。七.七ミリと七.六二ミリ弾がソ連軍兵士の身体に無数に突き刺さりその兵士の生命をこの世から無理矢理終了させる。
「撃ちまくれェ!!」
「弾です!!」
まだ若い兵士がマキシム機関銃の弾丸とPM1910重機関銃の弾丸が入った箱を持ってきては置いていく。だがソ連軍は機関銃弾の雨にも怯えずに突撃してくる。そして遂に防御陣地に取り付いた。
『Ypaaaaaaa!!』
「負けるな!! 押し返せ!!」
『Ypaaaaaaa!!』
たちまち両軍は激しい白兵戦を展開する。両軍の銃剣が両軍の兵士の命を刈り取る。そこへ飛行機の爆音が響いてくる。
「ヤポンスキーの戦闘機だ!!」
「ミヨシだ!!」
シベリア帝政軍は日の丸を付けた戦闘機群に歓喜する。一方、上空を飛行する将和の飛行隊は敵ソ連軍戦闘機を探していた。
「……敵戦闘機はまだ来ずか……」
そして小隊を率いていた山口多聞大尉と大西瀧治郎中尉に指示を出した。
〈大西と山口の小隊は地上のシベリア帝政軍を援護せよ〉
〈〈了解〉〉
山口と大西は小隊を率いて降下して機銃掃射を行いシベリア帝政軍を援護する。ソ連軍は戦闘機からの機銃掃射に多少の混乱はしつつも直ぐに建て直してシベリア帝政軍に白兵戦を挑む。
「ち。なら――」
将和は全機で降下しようとした時、列機のパイロットがある方向を指差す。じっと睨む将和は何かを感じとる。
「いやがるな〈全機上昇、降下して敵戦闘機を駆逐する〉」
その方向から十数機の敵戦闘機が徐々に現れた。幸いにも敵戦闘機の方が高度は低かった。
「まだいるかもしれんな〈塚原の中隊は待機。新たな敵戦闘機を見つけ次第迎撃せよ。残りは俺に続け〉」
将和は塚原大尉の中隊を待機させ、自身は残りと突っ込む事にした。将和は後方にいる列機を見る。配属されたばかりの吉良俊一中尉はぶんぶんと頷いた。
「よし、突撃!!」
将和のスパッドS.13は敵戦闘機群に突撃するのであった。一方、地上では新たな展開が訪れていた。
「側面から敵戦車群です!!」
「何だと!?」
前線にいた政治将校は報告に驚いた。側面から多数の砂埃が現れていた。
「くそ!! ヤポンスキーか!!」
側面に現れたのは日本義勇軍の第一戦車隊だった。
「小隊長殿!! 敵はわんさかといますな」
「うむ。だが燃えてくるな」
「そうですな」
操縦手の言葉に牟田口中尉はそう言う。一方、第一戦車隊を率いる井上幾太郎少将は後方で指揮を取りつつ前線の指揮は永田少佐に任せていた。
「第一小隊と第二小隊はシベリア帝政軍の楯となり援護せよ!! 残りはこのまま側面からソ連軍を食い破れ!!」
第一戦車隊のルノーFT-17二十両はピュトー二一口径三七ミリ戦車砲と改造三年式機関銃に換装した機関銃型を駆使して出しうる速度でソ連軍の側面を食い破る。また、新しく新編された第六師団も第一戦車隊と行動を共にしていた。
「突撃!! ソ連軍を叩き潰せ!!」
三十年式銃剣を着剣した三八式歩兵銃を手に日本義勇軍が突撃を開始する。僅か一個師団の側面攻撃だが錬度が低いソ連軍には効果は抜群だった。
「ソ連軍が怯んだぞ!! 我々も総攻撃だ!!」
『Ypaaaaaaa!!』
シベリア帝政軍も盛り返し、ソ連軍の攻勢は完全に失敗したのである。
「退却だ!!」
チタの司令部で戦況報告を聞いたブリュヘルは攻勢失敗を認めて後退を指示したのであった。
「ソ連軍が撤退していくぞ!!」
「ざまぁみろ!!」
撤退していくソ連軍にシベリア帝政軍、日本義勇軍はそう言い合って喜ぶのであった。ハバロフスクで報告を聞いたクロパトキンは安堵の息を吐いた。
「……そうか。だが奴等は何度でも来るだろう、警戒態勢はしておくのが得策だな」
そう指示を出すクロパトキンである。その頃、将和はハバロフスクに開設された飛行場に着陸をしていた。
「隊長、一機落としました!!」
「自分もです!!」
「よくやったな二人とも。エースパイロットまで後三機だな、頑張れよ」
「「はい!!」」
山口と大西にそう言う将和だった。
「隊長、写真でも撮りませんか?」
「お、いいな」
将和は吉良の勧めで自機の胴体を写すような形(胴体を枕にうつ伏せの形)で写真を撮る。胴体には多くの八重桜の絵が描かれた撃墜マークが描かれていた。その数は実に130以上である。
「隊長、マーク描きましょうか」
「お、済まないな」
絵を描くのが得意な整備兵がペンキを持ってきて胴体に新たな八重桜のマークを二つ書き記す。
「皆さんも写真を撮りましょうか?」
「いいな。皆も来い」
将和は近くにいたパイロット達を呼び寄せて写真を撮る。集まったパイロットの中には塚原、山口、大西、吉良の若き頃のパイロット姿が撮されており今日でも人気の一枚である。そして数週間後、東京にいる夕夏の元に将和から手紙が送られた。
「将弘、お父さんは元気みたいよ」
「うぅ?」
夕夏の言葉に将弘は首を傾げる。手紙の中には三枚の写真が同封されていた。二枚は上記の写真だが残り一枚は将和と一人の女性が写っていた。
「……フフ、あらあら♪」
「………」
夕夏が目を細めて笑うがその顔を見た将弘は泣きそうな表情をするのであった。
「……あれ? 皇女と写った写真が無い……?」
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