第三十五話
大神隊長よりかはいないから(意味深
一方、ソビエトはソビエトで反撃の機会を探していた。だがソビエトもソビエトでポーランドとポーランド・ソビエト戦争を展開しており兵力は少なかった。それでもソビエト軍は二十万を集めてハバロフスク奪回を企んでいる。
「我々の目標は皇帝一家を捕虜として皇帝を我々で裁判にかけて処罰する事である」
史実より早期に建国された極東共和国の人民革命軍総司令官になったヴァシーリー・ブリュヘルはそう訓辞する。チタに構えた司令部でブリュヘルは早期の増援を要請していた。
「早めにシベリア帝政国を叩かねば脱走者が増える」
一部の皇帝派はシベリア帝政国に参加するために脱走をしたり亡命をするので士気は低下していた。レーニンらもそれを分かっていたのでシベリア方面に新たに五万の兵力と三個航空隊を増援として派遣させた。
特に航空隊は日本義勇軍に将和が航空隊にいたのでソビエトでも選りすぐりのベテランパイロット達を派遣したのである。
そしてシベリア帝政国はハバロフスク攻略後、コムソモリスク・ナ・アムーレやアムール川下流に軍を出して攻略していた。これは万が一、ウラジオストクに帰還出来ない場合を想定して樺太に逃げ込めるようにしていたからである。これにより沿岸州は完全にシベリア帝政国が手中に治める。
日本だが義勇軍は今のところはウラジオストクでの治安警備やシベリア帝政国の新兵の訓練をしていた。航空隊もシベリア航空隊の訓練をしており、将和は拙いロシア語でヒヨコパイロット達を指導していた。また、それを見るためにタチアナ皇女がこっそりと御忍びで飛行場に来ていたりする。
「またですか……」
「あら、何か悪いかしら?」
「いえ……」
帰ってきたらタチアナ皇女と護衛の兵が自室の前で待ち構えているのは何度もあったりする。今日もそうであった。護衛兵は扉前で警備だがただ単に二人は他愛ない話をするだけである。そして皇女は一枚の写真を見つけた。
「これは……?」
「あぁ、出しっぱなしでしたね。それは妻と子どもですよ」
「え……?」
将和の言葉に皇女はズキッと何かの痛みがあった。
「へ、へぇ〜。貴方にも妻と子はいたのね」
「まぁ世界大戦の時に出来てしまったので……初めて子を抱いた時などは涙が出ましたよ」
「……そう」
その後、皇女は終始頷いてはいたが将和の言葉は頭の中に入ってこなかった。その後、仮皇宮に戻ったタチアナ皇女は部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。
「……何よ……」
その言葉は何を意味をするのかは皇女自身も分からなかった。それから数日後、ニコライ二世はハバロフスクにて負傷した兵士達の面会をする事にしてタチアナ皇女も同行した。その際、将和らの第一航空隊も戦線の参加のためにハバロフスク飛行場へ駐屯する事になり将和は一足先にハバロフスク飛行場へ降り立っていた。そしてハバロフスクにニコライ二世が現地入りをした事を知ったブリュヘルは航空隊にハバロフスク爆撃を命じたのである。
航空隊はドイツから格安で購入したアルバトロスD.3戦闘機やフランスから購入したスパッド7等が主力であり爆撃機はこれもドイツから購入した双発重爆撃機ゴータG.4であった。かくして戦闘機二八機、爆撃機十四機はスミドビチの飛行場から離陸して一路ハバロフスクへ向かう。一方、負傷兵達と面会したニコライ二世とタチアナ皇女は飛行場を訪れて航空隊の見学をしていた。
「ふむ、流石だな」
そう頷くニコライ二世だが、横にいるタチアナ皇女の顔は優れなかった。
(むぅ……ミヨシ大佐と何かあったのか? 何かあったらただじゃ済まないぞ……)
そう思うニコライ二世だが飛行を終えた将和はニコライ二世に敬礼する。
「ところで大佐、あの穴は何かね?」
「あれはタコツボです」
「ふむ、話には聞いていたが一人か二人ぐらいしか入らないな」
「これは空襲に備えて掘った物です」
「成る程」
「………」
ニコライ二世に説明する将和を横目にタチアナ皇女は将和を見ていた。そして複数の飛行機音が聞こえてきた。
「ん? まだ着陸していない機が――」
飛行機音の方角を見た将和は徐々に大きくなる複数の飛行機に驚愕した。
「あれはドイツの爆撃機!?」
「な――」
「皇帝陛下は早くタコツボに!!」
将和はニコライ二世と護衛兵をタコツボに入れて自身もタコツボに入る。ズン、ズンと聞こえる爆弾の音に将和はスッと頭を出すとタチアナ皇女が地面にペタリと座り込んでいた。
「皇女!! 早くタコツボに!!」
「こ、腰が……」
タチアナ皇女はいきなりの事で腰が抜けて立ち上がれなかった。そうするうちに爆撃の音は近づいてくる。
「くそ!!」
将和はタコツボから這い出てタチアナ皇女をお姫様抱っこをする。
「ちょ――」
「口は閉じて!!」
将和は反論しようとするタチアナにそう言ってタコツボに入り込みタチアナの頭を自身の胸に寄せる。
「大丈夫、大丈夫」
「………」
怯えるタチアナに将和は抱き締めながら頭を撫でる。その上ではソビエトの爆撃隊が爆弾を落としていく。飛行場も爆撃目標に入っており時折、爆発で砂が巻き上げられて将和らの頭に降りかかる。だが十分もすれば爆撃は収まり辺りは待機していた戦闘機が破壊されている等の被害を出していた。
「大丈夫ですか皇女?」
「………」
声をかける将和だがタチアナは顔を真っ赤にしていた。
「皇女?」
「あ、はい」
将和の声で漸く我に返ったタチアナは服を整える。
「タチアナ!!」
「御父様」
「怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」
「皇帝陛下、此処は念のために避難を御願いします」
「しかし負傷した兵もいるかもしれぬ」
「それは分かります。ですが皇帝陛下が倒れれば勢いづくのは向こうです」
ニコライ二世とタチアナは護衛兵に護衛されて退避した。タチアナは将和の方に視線を向けていたが……。一方で将和は反撃しようとしていた。
「無事な戦闘機はあるか?」
「全部で十機しかありません」
「それで十分だ。司令、これより敵戦闘機を駆逐して参ります」
「うむ、頼んだぞ」
十機のスパッドS.13戦闘機は離陸して爆撃隊の後を追いかける。そして爆撃機の速度が遅かったもありスミドビチの手前で追い付き、空戦を展開した。
「落ちろォ!!」
ヴィッカース七.七ミリ機銃弾をゴータG.4のエンジンに叩き込む。エンジンから火が出たゴータG.4はグラリとひっくり返って落ちていく。将和の後方にアルバトロスD.3が回り込もうとするが将和は操縦桿を前に倒して急降下して難を逃れる。
「爆撃機は生きて帰すな!!」
結果として戦闘機三機、爆撃機七機を撃墜して被害は無しだった。
「泥沼にならなきゃいいけど……」
帰還してから将和はそう呟くのであった。
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