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第三十四話





 それから数日間、将和はニコライ一家と共に過ごす事になる。将和は第一次世界大戦の話をニコライ二世と息子で第一王子であるアレクセイ・ニコラエヴィチに話したりした。軍隊生活を好むアレクセイは将和の話を熱心に聞いたり質問したりする。アレクセイは将和に上等兵で呼んでくれと言ったりり飛行機に乗らしてほしいと懇願した。流石にアレクセイが飛行機に乗りたいと言い出した時には将和も慌て、次姉であるタチアナ・ニコラエヴィチに止められている。


「ミヨシ大佐、止める時は止めてください」

「申し訳ありませんタチアナ皇女」


 怒るタチアナ皇女に将和は頭を下げて謝るのであった。そして代わりとして再びアクロバット飛行をする事になる。


「全く……皇帝一家のために飛行するとは思わなんだよ……」


 将和はそう呟きながらアクロバット飛行をする。それを地上で皇帝一家が見ている。


「やはり中々の腕前だな」

「凄い凄い!!」


 ニコライ二世はそう呟き、アレクセイはアクロバット飛行に興奮している。


「凄いですね御姉様……御姉様?」


 第三皇女のマリア・ニコラエヴィチの問いかけにタチアナは何も答えず、ただじっと将和のスパッドS.13を見ている。そして将和が急降下をして高度五十で引き起こして上昇していくのをハラハラと見ていた。


「……あらあら♪」


 それを見たマリアは嬉しそうにするのであった。そして将和が帰る日、ニコライ二世は改めて将和に感謝の言葉を述べる。


「わざわざ我々のために済まなかった」

「いえ、楽しい数日間でした」

「ミヨシ大佐、また御話を聞かせてください!!」

「分かったよアレクセイ上等兵」

「……気を付けて(ボソッ」

「はい?」

「……何でもないわ」


 そう言うタチアナ皇女である。そして将和は東京に帰還するのであった。自宅に戻った将和に夕夏は将弘と出迎えて将和に笑顔で告げた。


「三ヶ月です」

「……ヒヤッホォォォウ!!」

「?」


 夕夏の言葉に喜ぶ将和だが将弘は何が起きているのか分からない顔をしていたのであった。一方、東京は東京で伊藤達の密談が行われていた。

 伊藤は現在78歳であるが、国内の評判もまずまずなのでもう少し続投する事にしている。既に密談で次期首相は内務大臣をしている原敬に密かに内定はしている。


「後藤さん、イギリスの了承は取れたかな?」

「えぇ、ウラジオストクを首都にする事でイギリスの了承は取れました」


 伊藤の言葉に外務大臣の後藤新平は頷いた。


「ただ、どうにも煮えきれないのがアメリカです」

「ふむ……アメリカは対岸の火事としか考えていないからな……。だがイギリスの了承を得ているなら何とか大丈夫だろう。ニコライ二世には?」

「明石大将を通して話しています。向こうも乗り気であります」


 内閣書記官長の児玉秀雄(児玉源太郎の嫡男)がそう答える。


「……よし、では始めよう」


 九月五日、日本はウラジオストクを首都にしたシベリア帝政国の樹立を宣言した。その初代皇帝にはこれまで軟禁していたと思われていたニコライ二世が即位した。この建国にイギリス、フランス等が支持をした。


「何!? ニコライ二世だと!?」

「馬鹿な、日本に助けられていたと言うのか!!」

「くそ、これは盲点だったな……」


 まさかのニコライ二世という切り札にレーニンは焦った。


「どうする同志トロツキー?」


 レーニンは赤軍の創始者であるレフ・トロツキーに問う。


「兵力は集められる事は集められます。しかし武器弾薬類が不足しているのが難点です。既にウクライナやポーランドと戦争していますので」

「うむ……」

「ですので他所から武器弾薬類を補給してはどうでしょうか?」

「他所からだと?」

「ドイツから武器弾薬類を格安で購入するのです」

「ふむ……ドイツも賠償金の支払いも出来るというわけか」

「支払いは武器弾薬類が全て届いてからにしては如何です?」

「……そこは判断次第だな。兎も角ドイツに話を通してみよう」


 そしてドイツとソ連はイタリアのラパッロで非公式の会談をする。賠償金の支払いをしたいドイツとしてはソ連の申し出は渡りに船だった。これにより十月一日に第一次ラパッロ条約が成立するのである。

 ドイツはヴェルサイユ条約にて記された兵器の盲点をついて余剰兵器を格安でソ連に売却したのであった。フランスやイギリスはこの行動に感づいて非公式でドイツへ抗議したがドイツはドイツで「条約に課せられた賠償金を支払うための一環である」と返答した。

 ヴェルサイユ条約で記された賠償金の支払いのためとなら二国も強く出る事はなかった。この兵器類はシベリアへと渡り日本も砲火を交えるのであった。

 ニコライ二世がシベリア帝政国を建国して以降、ウラジオストクに赴きシベリア帝政国へ加入する多くの皇帝派の者が現れていた。その中の一人にかつて日露戦争で日本と戦った事があるアレクセイ・クロパトキンがいた。

 クロパトキンは故郷のプスコフで教師をして余生を過ごしていたが皇帝一家が日本に助けられている事を知るとプスコフから家族と共に西回りの経由でウラジオストク入りをしたのである。


「陛下、最後の御奉公に参りました」

「……ありがとうクロパトキン」


 クロパトキンの言葉にニコライ二世は涙を流すのであった。また、ピョートル・ヴラーンゲリやコサック等もイギリスらの手引きによりシベリア入りを果たすのであった。

 十二月、遂にシベリア帝政国はウラジオストクから外に出た。シベリア帝政国は三十万しかいないが兵器類ははフランスや日本から購入する形である。また、日本はシベリア帝政国を支援するために二個師団と三個航空隊の義勇軍を編成、派遣を決定する。そして十二月二十日までにシベリア帝政国はハバロフスクを占領した。


「ニコライ二世も元気だなぁ……」

「動いちゃ駄目よ貴方」


 将和は自宅で夕夏に耳掻きをしてもらいながらそう呟いた。


「あ、そこ……」

「大きいのがあるわね」


 カリカリと耳掻き棒が将和の耳を自在に動き回る。


「はい、これで良いわよ。ふぅ」

「おぅ。ありがとう」


 最後に息を吹いて耳掻きが終わる。


「それでシベリアに行くの?」

「言われたからなぁ。とりあえず今月までは内地にいる」

「そう、将弘も少し寂しくなるわね」

「……済まん」

「良いのよ。分かっているから」

「そうか……。行く時に花壇から少し持っていっていいか?」

「良いわよ」


 庭には夕夏が育てている花壇がある。今は水仙等冬の花が咲いていた。


「年越し蕎麦、楽しみにしといてね」

「あぁ」


 そして十二月三十一日、もう後三十分もすれば一月一日だが将和と夕夏は年越し蕎麦を食べていた。


「うん、美味いな」

「ありがとう。頑張って作った甲斐があるわ」


 ズルズルと蕎麦を啜る夕夏。食べ終わる頃には一月一日を迎えようとしていた。そして――。


「「明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します」」


 十二時になると二人は頭を下げるのであった。一日の朝、三人はスペイン風邪対策でマスクを付けて新年の挨拶で夕夏の両親を訪ねた。


「そうか、シベリアへ行くのか」

「はい。その間は家を開けますので……」

「分かった。二人の事は任せなさい」

「ありがとうございます」


 権蔵に頭を下げる将和だった。一月五日、将和はシベリアへ向かうのであった。


「行ってくるよ」

「身体は大切にね。それとはい、押し花で作った栞よ」

「あぁ、御守りにするよ。将弘、良い子にしてるんだぞ?」

「あー」


 頭を撫でる将和に将弘は笑う。夕夏へのキスも忘れずに将和は家を出た。


「……帰ってきてね貴方」


 夕夏はそう呟いた。一月二十日、将和は再編成された第一航空隊の飛行隊長に着任した。


「隊長、お久しぶりです!!」

「おぅ皆」


 再編成された第一航空隊のパイロット達は元第一航空隊のパイロットの半分が在籍していた。残り半分は新しく創設した飛行学校の教官をしている。


「また皆と戦うが宜しく頼むよ」

「はい、皆で隊長の背中を守ります!!」

「期待してるよ」


 再編成された第一航空隊だが、司令官には高橋三吉大佐である。


「君が世界の撃墜王か。噂は聞いているよ」

「は」

「私は砲術を専攻していたので航空機に疎いが精一杯頑張るよ」

「はい。自分も司令官を支えます」

「うん、ありがとう」


 最初の接触はまずまずだった。後に高橋は第一航空戦隊司令官になるがこの経験を買われての事だった。航空隊の編成だが第一航空隊は主に欧州で使用していたスパッドS.13が主力だった。しかし、第二航空隊はフォール教育団の影響でニューポール24を装備していた。またもう一つの航空隊は日本陸海軍初の爆撃隊であり、イギリス軍が使用していたハンドレページO/400を十八機揃えていたがパイロットが不足しており実際には八機が使用可能である。


「さて……向こうはどう出るかな?」


 支給品のウォッカ(日本酒)を一口飲む将和だった。


「うわ、やっぱ度がキツイ」







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