第三十三話
僅か一月で大韓帝国を占領した日本だが、併合などはしなかった。あくまでも保護国として扱った。そのため二代目皇帝は純宗のままである。しかし、全権は新たに内閣総理大臣に就任した李完用が握っていた。
「とりあえず大韓帝国は今まで通りという事ですね」
「軽工業や農業の育成を強化して日本への密入国を防ぎましょう」
「重工業はどうするかね?」
「正直、今の日本にそんな余力は無いでしょう。我々はまだ途上国です、大韓帝国は今のところは軽工業まででしょう。日本は人材教育の為、日本の学校に留学生受け入れたり、朝鮮の学校に教師を出したりして教育の支援をしたり有識者を派出して、朝鮮人に色々教えるのが良策かと思います。金は日本が朝鮮の鉱山等を担保にしながら低利で融資かと。日本がいざとなれば担保を貰って負担するという形で韓国に外貨供給して、韓国のお金を保障する。未来で言う通貨スワップですね」
「うーむ。その手くらいしかないか……」
「日本は朝鮮の学校と銀行になりながら、自立して学び考え成長してもらうのが最適かもしれませんね。領土にしたら全て日本が金を出さないといけませんから、味方として自立してもらう事です」
「分かった。その方向で行こう」
(まぁ後は上手く舵取りするしかないよなぁ……)
そう思う将和だった。そして大韓帝国は日本の方針で身分解放等史実の政策を導入させるのであった。かつての支配層等は幾度となく日本との併合を望んだが日本は常に併合拒否の姿勢を崩さなかったのである。
日本ではこの出来事を「第二次朝鮮出兵」「半島出兵」等と言われるようになる。
「ほ〜ら将弘〜」
「キャッキャ」
麹町区の貸家で将和は疲れを癒していた。今は晩飯前であり夕夏は台所で夕食を作っている。なお将和は将弘と遊んでいる。
「貴方、夕食が出来たわよ」
「おぅ、今行く」
将和は将弘を抱っこして茶の間に向かう。既に夕夏が卓袱台に夕食を並べていた。夕食は麦飯に豆腐の味噌汁、塩しゃけに白菜漬けである。
「白菜漬けは隣の片原さんから貰ったの」
「ほぅそうか」
そして二人は食べ始める。ちなみに将弘は母乳である。
「……うん、味噌汁は大丈夫だな」
「もう、それはやめてよ」
将和の言葉に夕夏は恥ずかしがる。実は二人が住み始めた最初の夕食時、味噌汁が出たのであるが味噌汁を飲んだ将和は少し気になる事があった。
「……おい、何を入れた?」
「え、勿論味噌よ」
「……鰹節とかは?」
「え?」
「え?」
このような事があり、しのに味噌汁は勿論食事の作り方を教わりに行く夕夏であった。ちなみに、将和はカレーやコロッケくらいは作れるのである。
「もう、そんな事言うとご飯取り上げるわよ?」
「それは勘弁して」
「キャッキャ」
怒る夕夏に謝る将和を将弘は面白そうに笑うのであった。
「それで、また明日から展示飛行に行かなくちゃならないんだ」
「それはそうねぇ。今回はどの地方なの?」
「北海道だ」
「今回は遠いわねぇ」
「仕方ない。敵機を落としまくって気付いたら撃墜王だからな」
そう話す将和である。そして翌日、夕夏に熱いキスをして北海道に旅立つのであった。
帰国してからの将和の仕事は各地で編隊アクロバット飛行等を行うサーカス等をしていた。全国で世界の撃墜王を一目見たいという声が海軍に届けられた結果である。今回は北海道の札幌、函館、旭川、釧路、根室の五ヶ所を回る予定である。
展示飛行は大体一時間程度だが五ヶ所には多くの北海道民が駆けつけて将和に記念写真をねだってくる。また、海軍航空隊も欧州での戦果を受けて三個航空隊が開隊していた。
無論、それまで砲術や水雷等に従事していた人間が回されるのだがその中にはかつて日本海海戦で将和と三笠艦橋にいた長谷川清も含まれていた。史実だと在アメリカ日本大使館附海軍駐在武官補佐官になる予定だが東郷に「そういやあの時、三笠艦橋に長谷川がいたでごわすな」と思い出して航空隊に回されるのであった。
「まぁあの時一緒にいた三好大佐がいるなら……」
と長谷川は納得して将和の元にいる。ちなみに将和は戦時昇進で大佐となっている。最初は大戦も終わり戻そうとしたが、「戻したら海軍批判が来そうではないか?」という声があったのでそのままとなる。その代わり大佐の時代が長くなるのである。
「さぁて、今日も頑張るか」
将和は飛行服に着替えてスパッドS.13に乗り込み、市民の歓声を受けながら離陸するのであった。そして五ヶ所目の最後は旭川へ赴く。
いつもの通りに編隊アクロバット飛行をしている将和だったがふと、臨時飛行場に集まった市民の少し離れたところに十数人の人間が市民から避けるように将和らの編隊アクロバット飛行を見ていた。
「………」
少し気になった将和は列機に合図をして浅目の降下をして十数人の人間に近づくと、日本人と外国人がいた。
「へぇ、旭川に外国人とは珍しいな」
そう呟く将和だったがその十数人の人間はというと……。
「ほぅ、今のがミヨシマサカズ大佐か」
「海軍航空隊の撃墜王であります」
「成る程……話は出来るかな?」
「話……ですか?」
「欧州の戦争がどのような事だったか、当事者に聞いてみたいのでな。出来るかな?」
「は、出来ると思います」
「申し訳ないが頼むよ」
展示飛行が終わり機体を整備していると将和はとある場所に呼ばれた。
「会食ですか?」
「まぁそのような感じだが……驚くなよ?」
新司令官の言葉に将和は首を傾げつつも旭川近郊にあるロシア風の家へ赴いた。
「君がミヨシ大佐か」
「は、三好です」
「おぉ紹介が遅れた。私はニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフ。ニコライ二世と呼ばれるよ」
「……は?」
流石の将和も唖然とした。それを見てニコライ二世の後に入ってきた明石大将が笑う。
「はっはっは。流石に世界の撃墜王も予想外の人物だったか」
「は……何分。皇帝一家の事は軟禁されているとしか聞いておりませんので……」
将和の言葉は表向きな言葉である。ソ連は皇帝一家の行方を探していたが表向きは軟禁としか公表していない。
「実は君から欧州での戦争の話を聞きたくてね。無理を言って頼んだのだよ」
「は、小官であれば……」
それから夕食も交えてニコライ一家と将和達の会食が始まるのであった。
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