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第二十九話

電波の受信がある限り早期投稿は続く(フラグ




「とすると今は九三機も落としているのかい?」

「昨日で九五機になったよ」

「そいつはめでたい事だ」


 それから将和とラッセルはよく話すようになった。リヒトホーフェンと対決して死にかけた事や負傷した事等を話すとラッセルは目を輝かす。


「もう一度リヒトホーフェンと対決したいとは思わないのか?」

「乱戦になるなら対決すると思うけど、死にたくないからな。でも同じ仲間としてなら一緒に飛びたいね」


 将和は素直にそう言う。日本の新聞だと多少脚色されるので将和はあまり日本の記者には答えなかった。その点、ラッセルは将和が話した事を脚色せずにしているので好感はあった。


「ミヨシキャプテンとしてはこの戦争の行方はどうなると思う?」

「まだ分からないね。ま、アメリカ軍が来た事だから有利になるのは確かだよ」


 将和はそう言って飛行眼鏡を取る。出撃前の軽いインタビューをしていたのだ。子を抱える夕夏に将和は声をかける。


「行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」


 そして第一航空隊は出撃する。第一航空隊はイギリス空軍の応援でソンム方面にいたのだ。時に四月二十一日の事である。


「敵機!!」


 第一航空隊のスパッドS.13十二機とイギリス空軍第209戦闘機中隊ソッピースキャメル十一機はフォッカーDr.1とアルバトロスD.V混成二十機あまりとモルランクール丘陵付近を流れるソンム川周辺上空で激しい空中戦を展開した。


「貰った!!」


 ヴィッカース機銃をアルバトロスD.Vに叩き込む。しかし当たり所が悪く落ちなかった。


「ち、もう一撃でも……」


 その時、視界に赤いDr.1が映る。リヒトホーフェンのDr.1だった。


「リヒトホーフェン!!」


 将和は赤いDr.1に向かう。リヒトホーフェンは機銃の故障離脱をしようとしていた第209戦闘機中隊の新人パイロットであるウィルフリッド・メイ中尉機を落とそうとしていた。しかし背後から迫る将和のスパッドS.13に気付いた。


「ヤーパン……ミヨシか」


 ドイツでも将和の事は騒がれていた。リヒトホーフェンはニヤリと笑う。


「相手に不足はない!!」

「一撃で離脱して雲に隠れる……そうしよう」


 やる気満々のリヒトホーフェンだが将和は逃げる思案をしていた。しかし、直ぐに頭を振る。


「……いや、何れまた出会うかもしれない。なら此処で白黒決めてやる!!」


 そして将和は戦う決断をする。将和は降下しながら機銃を放つがリヒトホーフェンはそれを回避。そして将和を追おうとした刹那、リヒトホーフェンは後方から忍んできたアーサー・ロイ・ブラウン大尉のソッピースキャメルがヴィッカース機銃をDr.1に叩き込んだ。


「え……?」


 火こそは出なかったがリヒトホーフェンの赤いDr.1は高度を落としてビート畑に不時着をするのを将和は確認して思い出す。リヒトホーフェンが戦死する時に交戦した戦闘機がソッピースキャメルだったという事を……。


「……これで……これで終わりかよレッドバロン!!」


 将和の叫びは誰にも聞こえてはいなかったのである。飛行場に戻ると将和はコップを二つ用意して日本酒を注ぐ。一つは自分の、もう一つはリヒトホーフェンのために……。


「パイロットなんていつ死ぬか分からないもんだな……」


 そう呟く将和だった。五月、アメリカ遠征軍(AEF)師団が初めて前線に投入されて勝利を収める。そして夏までには毎月三十万命もの兵士がアメリカから輸送されてくる事で総兵力二百十万になり均衡だった西部戦線に変化が生じるのである。


「アメリカパネェわ」


 報告を聞いた将和はそうボソッと呟くのも無理はなかった。またドゥラーズ会議において英仏軍は指揮系統の統一に同意して連合国軍最高司令部が設置されて総司令官にはフェルディナン・フォッシュが任命されている。

 七月、第二次マルヌ会戦は史実通りの勝利を収める。その時にも航空戦が発生して将和も参戦して遂に人類初の三桁撃墜を記録した。


「こいつで百機目だ!!」


 アルバトロスD.Vにヴィッカース機銃を叩き込む。機銃で左翼を吹き飛ばされたD.Vが地上に落ちていった。


「隊長!!」


 将和の撃墜を確認した部下のパイロット達が将和の機に近寄る。手を振るパイロット達に将和は照れ臭そうに手を振るのであった。


「そうか、百機撃墜したか」


 帰還後、山崎司令に報告すると山崎司令は将和は日本酒を渡す。


「これくらいしかないが、皆で一杯やってくれ」

「は、ありがとうございます!!」


 司令室から出ると将和は記者達に囲まれる。


「三好大佐、百機撃墜おめでとうございます!!」

「今の感想を!!」

「まだ実感がないです」

「今後も戦闘機に?」

「命令が無い限りは戦闘機に乗るつもりです」


 記者達の追撃を振り切り食堂の前に行くとラッセルがいた。


「おめでとうミヨシキャプテン。こいつは祝杯のブランデーだ」

「ありがとうラッセル」


 ラッセルからブランデーを受け取る将和。


「今日は流石にインタビューは出来んだろう。また後日頼む」

「分かった、済まない」

「良いってことよ」


 ラッセルはヒラヒラと右手を振ってその場を後にするのであった。そしてその日はどんちゃん騒ぎだったが、こっそりと将和は宴会場から抜け出して夕夏と子――将弘の家族水入らずで過ごすのである。

 翌日、欧州の各新聞は将和の百機撃墜の報道を一面で伝えるのであった。フランスなど『日本軍のパイロット、遂に撃墜数を三桁に』とまで報道している。だがその頃、連合から離脱していたロシアである事が起きていた。

 七月十五日の夜半、ウラル地方のエカテリンブルクのイパチェフ館を密かに包囲する集団があった。


「……どうだ?」

「そろそろ効果が出るでしょう」


 十数分後、イパチェフ館の外を警備する兵士達が次々と地面に倒れていく。


「山田隊長」

「分隊ずつ行動せよ」


 部隊長の山田乙三大尉の命令で数個の分隊がイパチェフ館の出入口に取りつく。


「……眠っています」


 扉を開けて中を見ると床で寝ている兵士達が多数いた。


「全隊、イパチェフ館に突入せよ!! ニコライ皇帝一家を救い出せ!!」


 近くの農家の納屋で報告を受けた明石大将は発令させた。それを受けた特殊部隊「忍」がイパチェフ館に突入する。途中、まだ薬が回っていなかった兵士らがいたがナイフや四四式騎銃等で処理していき、ニコライ皇帝一家を保護して納屋にまで移動させた。


「ニコライ皇帝一家ですな?」

「如何にも。貴官は……」

「これは失礼。私は日本帝国陸軍大将明石元二郎です。ニコライ皇帝一家を救いに参りました」


 明石大将はニヤリと笑うのであった。





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