第二十七.五話
うん・・・なんかね、色々調べすぎて頭痛い(白目
年齢=いない歴なんだよこっちは。振られた歴史しかねーよ(愚痴
それはパッシェンデールの戦いが始まる前の六月下旬の頃だった。六月はイタリア王国とオーストリア=ハンガリー帝国が六月二十五日までオルティガーラ山の戦いを繰り広げ、六月十七日には鈴木商店(後の味の素)が設立された月である。
「最近眠気が強い?」
どちらも奥手で中々次に行けなかった将和と夕夏だが、人目を気にしては二人で密会をしたりと恋人らしくなってきたこの頃である。(なお、パイロット達の賭け事は続いている模様)
「そうなの。昼間でも眠気が強くて今でも瞼が重いのよ」
夕夏はそう言ってふぁ〜と欠伸をする。本当に眠たいようである。
「……じゃあちょっと寝ておいた方がいい」
将和はそう言って夕夏の頭を膝にこてんと乗せる。男女逆ではあるが膝枕である。
「……少しは大胆になったものね」
「まぁね(大人の階段登ったらそうなると思う)」
内心、そう思う将和である。
「他には何かあるか?」
「……此処だけの話よ」
「うん」
「……便秘なの」
「お、おぅ」
「それとね、何故かご飯の炊ける臭いが嫌になるのよねぇ」
「……え?」
「それにお腹が空くとむかむかしたり吐き気がしたり……」
「……ちょっと待って」
「どうしたの?」
将和の言葉に夕夏は首を傾げる。
(いや確かにあの時したよ。でもあの時が夕夏の……でも確かに辻褄は合う)
唸る将和である。
「将和さん?」
夕夏の声に将和は決心した。
「夕夏さん、ちょっと医務室に行きましょう」
「え?」
「いいから早く!!」
「は、はい」
そして二人は医務室にいる軍医の元に駆け込んだのである。
「出来とるよ」
将和が懸念した通り、軍医はそう述べた。
「出来てるって……?」
「そりゃあ子どもだよ。というより三好大佐、何孕ましてんの?」
「……すみません」
軍医の言葉に土下座をする将和である。
「儂に土下座するより土下座する人がいるでしょ?」
「……夕夏さん。申し訳ない!!」
将和は夕夏に見事な土下座をした。それは見事な土下座だった。(軍医談)
「え、いやあの……」
将和の態度に戸惑う夕夏。当然の事であろう。なお、軍医はちゃっかりと退避済みである。
「えっと……やっぱりあの時よね?」
「まぁ、あれ以降してないので恐らく……」
「その……将和さん? 私は嬉しいわよ」
顔を赤らめてもじもじと指をまさぐる夕夏。とりあえず将和は決断して夕夏の手を取る。
「その……順序は色々違うけど。夕夏さん、いや夕夏!!」
「は、はい!!」
「俺と……結婚して下さい」
「……はい。喜んで」
将和の言葉に涙を流しながら了承する夕夏だった。
「あ、終わった? 終わったなら司令に報告しておけよ」
「「………」」
見計らったように医務室に入る軍医だった。そして将和と夕夏が何れ結婚する事が直ぐに第一航空隊の中へ広まる。
「隊長と風原さんがマリルするだって!?」
「賭けに勝った!!」
「今すぐ司令の部屋から日本酒をギンバイしてこい!! 今日は祝杯だ!!」
「あの時に着弾させるとか隊長どんだけ飢えていたんですか?」
「司令からウィスキーをくれたぞ!!」
こんな感じに騒ぐパイロット達である。そして数ヵ月後の日本では……。
「あなた、夕夏から手紙が来ています」
「おぉ。全く、いきなり看護婦に志願するなど型破り過ぎるわ」
東京の本所区にある小さな町工場の隣にある二階建ての家、そこは夕夏の生家である。夕夏の父である風原権蔵は妻の風原しのから手紙を受け取り文面を一目する。
「……な!?」
「どうしました? まさか戦死……」
「違う。あの戯け、海軍の佐官の子を孕みよったわ!!」
「まぁ」
怒る権蔵にしのは喜びの表情を浮かべる。
「良かったではありませんか。あの子を娶る男がいたという事です」
「確かにそうだが、親に恥をかかす気があやつは!!」
「ではあの子に幸せはないと?」
「違う。軍の佐官だぞ、旅順で戦死した賢一のようになるかもしれんのだぞ」
「それは……」
「だが子を孕んだのなら仕方ない。戻り次第、その佐官とやらと会わねばならん」
「……跡取りですか?」
「次男でも構わん」
権蔵の言葉にしのは何も言わなかったのであった。一方、海軍では東郷と加藤が話をしていた。
「直ぐに風原とやらの身元を調べるでごわす」
「勿論です」
「……何事も無ければ良いのでごわすが……」
そう呟く東郷だった。そして翌年の二月十一日、夕夏は第一航空隊の病室で男児を出産したのであった。出産にはフランス人の医師も応援として携わっていた。
「ゆ、夕夏!?」
出産後、将和の入室が許可されると慌てて夕夏の元に駆け寄る将和。
「……男の子よ」
「うん……うん……」
夕夏の言葉に将和は静かに泣いていた。
(未来人の俺が血筋を残していいのかと思っていたが……実際に子を見ると残してもいいかと思うな)
将和は子の小さな左手を握る。強く握れば痛がって泣くかもしれない。
(……やってやろうじゃないか。子のために、夕夏のために)
そう決断する将和だった。
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