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第二十六話



「クソッタレ!! あっという間にバラバラになっちまった!!」


 将和はニューポール17を操縦しながらアルバトロスD.2の後方に回り込む。しかし、別のアルバトロスD.3が将和の後方に回り込もうとしていた。


「くそ!!」


 将和は舌打ちをして直ぐに離脱する。


「ニヴェルの野郎……攻勢なんぞしやがって!! まだ早いんだよ!!」


 将和はそう罵倒しながら左旋回をして新たな敵戦闘機を追うのであった。時間は少し前へと遡る。

 1917年四月、連合軍は大規模な攻勢――ニヴェル攻勢――を展開する。ニヴェル攻勢は多くの高官達から反対はあった。だが、アリスティード・ブリアンから史実より早くに首相に就任した民主共和同盟のアレクサンドル・リボはフランスの主導権を握るためにニヴェル攻勢へ賛同した。

 これにより史実通りにニヴェル攻勢は四月十六日に開始される。遣欧軍はカナダ軍と共にヴィミーの尾根の戦いに投入される。また第一航空隊もイギリス軍と共に行動するが、フランス軍へ配備していたニューポール17十二機が渡される。


「何で取り上げられるんですか!? フランス軍にはS.V7が配備されているんじゃないですか!!」

「俺も詳しい事は分からんが、どうやらフランス軍の方にドイツ軍の戦闘機隊が多数いるみたいだ。そこで第一航空隊のニューポール17をフランス軍に回す方針だ」

「ですが……」

「新型のS.V??はまだフランス軍の全部隊には配備されていない。此処は向こうの言う事を聞くしかないだろう」


 結果的に第一航空隊にあるニューポール17は全部で十二機となり、残りはニューポール11である。なお、これは後に誤報と判明する。将和は部下にニューポール17を譲ろうとしたが部下達は拒否する。


「隊長はニューポール17のままでお願いします。我々には11で十分です」

「だがな……」

「隊長は新型機で撃墜数を増やしてください。漸く七十にまで数を増やしているんですから」

「……分かった。無茶はしないでくれよ」

「勿論です。風原さんと隊長の結婚式には呼ばれたいですからね」

「ば、馬鹿野郎!! お、俺と夕夏さんは別に……」

『(その反応だけでバレバレですよ隊長……)』


 そう思う部下達である。ちなみに将和と夕夏の関係は今のところは、二人で話し合ったりする関係である。オタクだった事もあるのか将和はその次の関係に踏み出せない。夕夏自身もやきもきしてるのかは分からない。だが互いに好んでいるのは確かである。


「隊長、そろそろ頼みますよ」

「いい加減ローソク立てましょうよ」

「俺なんて二円も賭けているんです!!」


 どうやら賭け事の対象にもなっているようだ。それはさておき、ニヴェル攻勢の始まりだが航空戦は劣勢だった。何せドイツ軍の戦闘機はアルバトロスD.2とD.3であり、連合軍の戦闘機隊が装備しているのはエアコー DH.2、F.E.8のような時代遅れの推進式戦闘機やフランスのニューポール 17などであった。アルバトロスに対抗できるのはS.V7、ソッピース パップ、ソッピース トライプレーンのみであったが、これらはまだ数が揃わず、しかも戦線全域に分散しているという有り様だった。連合国側の新世代戦闘機はまだ準備が整っておらず、唯一、RFCの第56飛行隊がS.E.5を装備して稼働可能なのみだった。


「中島!!」


 将和は視界に映るニューポール11の中島機を助ける。先程までアルバトロスD.2に追われていたからである。


(俺の後方につけ)


 将和の指示に着任したばかりの中島少尉は頷いた刹那、彼は後方からの銃撃に頭が吹き飛ばされた。


「中島!!」


 将和は反射的に機体を左旋回をした。中島機を銃撃したアルバトロスD.3が航過する。


「畜生ォ!!」


 将和はD.3に追い縋りヴィッカース機銃の七.七ミリ弾を叩き込んだ。D.3は右翼のワイヤーが弾け飛び、右翼が千切れ飛んだ。D.3はそのままクルクルと回転しながら落ちていく。


「……済まない中島……」


 将和は落ちた中島少尉に敬礼をしてその場を後にするのであった。結局、第一航空隊は中島少尉機を含む八機を喪失した。


「……時代を先取りするが仕方ない……か」


 将和は翌日、パイロット達を集めた。


「敵機には出来る限り二機一組で対処する。新型機が配備されるまで単機で行動するな」


 将和の訓示にパイロット達は頷くのであった。そして四月二十四日、第一航空隊はアラスの戦いに投入された。将和らは偵察隊の護衛任務である。


(敵機発見)


 不意に第三小隊の石原機が前に出て機体をバンクして上昇する。上空からアルバトロスD.2、D.3らが降下してくる。


「散開!!」


 聞こえるはずないが将和は叫んで左旋回をして銃撃から逃れる。偵察隊の空域に顔を向けるが数機が白い煙を噴いて墜落していく。


「くそ!!」


 将和はB.E.2複葉偵察機に迫ろうとしていたD.2の後方について機銃弾を叩き込む。D.2はエンジンから炎をチラチラと噴かせて落ちていく。

 前席にいた偵察員は将和に手を振る。将和も手を振り辺りを警戒する。空戦はドイツ軍が優勢だった。


「ち、何とかしないと……」


 不意に将和は殺気を感じて回避機動をする。将和が先程までいた空域に機銃弾が虚しく貫く。B.E.2複葉偵察機は既に逃げていた。将和が後方を振り向くと赤いアルバトロスD.3がいた。


「赤いアルバトロス……まさか!?」


 そのまさかである。赤いアルバトロスD.3にはマンフレート・フォン・リヒトホーフェンが乗っていた。


「ヤーパンの戦闘機……落とさせてもらおう」


 リヒトホーフェンは将和を落とそうと将和の後方に追い付き7.92ミリ弾を叩き込む。


「レッドバロンと空戦してるとか……夢みたいだがまだ死にたくない!! 畜生、絶対に生きて帰る!!」


 7.92ミリ弾数発が胴体に突き刺さるが、将和は気にせず水平飛行から左斜め宙返りをしてリヒトホーフェンの後方に回り込み、機銃弾を叩き込む。だがリヒトホーフェンはスローロールで機銃弾数発を右翼に命中されるも回避する。そして速度が出過ぎた将和の機がリヒトホーフェンの前に出た。


「しまった!!」

「落ちろォ!!」


 将和は咄嗟にフットペダルを左に思い切り踏んで操縦桿を逆方向に倒して右横滑りをする。機銃弾の多くは回避出来たが二発の7.92ミリ弾が将和の右上腕二頭筋と右腕撓骨筋を掠めた。


「ガッ!?」


 将和は痛みに耐えながら右横滑りで回避して雲に隠れる。


「む、隠れたか」


 リヒトホーフェンは雲を警戒しようとした瞬間、殺気に気付いて左急旋回をする。雲に隠れた将和は一旦降下してリヒトホーフェンの下後方から銃撃してきたのだ。機銃弾はD.3の右上部の翼をもぎ取る。飛行が怪しくなってしまいリヒトホーフェンは戦闘を断念する。


「残念だ……」


 戦闘を断念したのを確認した将和はリヒトホーフェンの左を飛行して編隊となる。


「「………」」


 二人は互いに敬礼をして離れるのであった。将和は痛みを堪えて編隊を整えて帰還して無事に着陸する。


「隊長!?」


 将和が負傷していた事に気付いたパイロット達が将和を操縦席から引き摺り降ろす。将和は無事に着陸出来たのかホッとしてそのまま気絶している。


「将和さん!!」


 駆け付けた夕夏は右腕が血だらけの将和を見て涙を流す。パイロット達は急いで医務室に駆け込むのであった。


「いやまぁ掠ってるだけだから」


 軍医は何もないようにパイロット達に言う。


「ほれほれ、大丈夫だからさっさと報告に行かんか」


 軍医はパイロット達を外に出して治療する。治療が終わると夕夏に任せて外に出てしまう。


「あんまり無茶はするなと言っといてくれ」


 将和が目を覚ますのは二時間後の事だった。


「無茶は駄目ですよ!!」

「す、すいません……」


 起きた将和は夕夏に正座をさせられて怒られていた。既に三十分は経過している。いつしか夕夏は嗚咽していた。


「だから……だから死なないでください……」


 将和が顔を上げると夕夏は泣いていた。


「貴方が死んだら私……私……」

「……すいません」


 顔を手で被う夕夏に将和は抱き締める。夕夏が顔を見上げる。涙ぐんだ夕夏の顔に将和はソッと口を合わせる。


「……やっとですか将和さん?」

「面目ないです。今の関係が崩れるかと思って……」

「……将和さんは馬鹿ですよ」


 そう言って夕夏は自分から将和にキスをする。


「私、嫌な顔してますか?」

「……してない」

「それが答えです」


 夕夏はクスリと笑う。夕夏の笑みに将和は強く抱き締める。


「……次の関係に移ります?」

「……良いんですか?」

「構いませんよ。……初めてですけど」

「俺も初めてです」

「あら、初めて同士は嬉しいわ」


 夕夏は将和のベッドに入り込む。やがて、部屋から夕夏の喘ぎ声が聞こえるのであった。





「看病しろとは言ったけど、誰が風原君をクライングさせろと言った?」

「「……すいません」」


 軍医から仲良く怒られる将和と夕夏であった。





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