第二十四話
ヴェルダン戦は少し修正します。それと将和を霧島艦長から艦長代理に変更します。
ユトランド沖海戦から九日が経過した六月十日、梅雨入りした帝都の海軍省の大臣室に海軍大臣の加藤友三郎と元帥海軍大将の東郷平八郎がいた。
「良かったのですか東郷さん? 三好君を霧島から降ろして……」
「こいで良か。三好大佐はまた飛行機に乗ってもらう」
加藤の言葉に東郷はそう返した。
「はぁ……私には三好大佐をどうするのか分かりませんが……」
「加藤。三好大佐の裏は聞いておるでごわすな?」
「はい。俄に信じられませんが……やはり日本が滅ぶというのは……」
「良か良か。それが普通の反応でごわす」
東郷は苦笑する。
「……三好大佐には日本の犠牲になってもらう」
「……殺すのですか?」
東郷の言葉に加藤はそう返した。しかし東郷は首を横に振る。
「日本という国家の礎になってもらうでごわす」
「礎……ですか?」
「そうじゃ。今の日本はまだ子どもでごわす。その子どもを躾、成長させるために三好大佐は必要でごわす」
「……我々だけでは足りませんか?」
「足らんのぅ。儂は使えるものは何でも使おうと決心しちょる」
「……大変ですな三好大佐も」
「最終的には国を率いてもらわにゃ困るでごわす」
東郷はニヤリと笑うのであった。
「……そうですか。陸さんも何やら裏でしているようですが……」
「明石大佐が指揮する部隊が何かするとまでしか分からんがのぅ」
そう話す二人だった。
「ブェックシュン!!」
「あら、風邪ですか三好さん?」
「いやぁ……多分誰かの噂でしょう」
七月下旬、二ヶ月という霧島臨時艦長の任を終えた将和は骨折かは復帰した霧島艦長に後を譲り、出戻りした飛行場で将和は夕夏と話をしていた。
「案外山崎司令官かもしれませんよ? 三好さんと同格になっているんでしょう?」
「あー、山崎大佐にはちゃんと説明してるしそれに山崎大佐ももうじき昇進するよ」
そう話す二人を見守るように遠巻きから他のパイロット達が見ていた。
「良かった…良かったよ飛行隊長」
「いいかお前ら、隊長を絶対に死なすんじゃないぞ?」
「勿論だ」
意気込むパイロット達だった。そして彼等の安息日は終わり、空の戦いが始まるのであった。一方で遣欧軍の主力も八月に到着した。
本来は五月に到着予定だったが、先遣隊の壊滅と生き残った東條参謀の具申により新たに編成し直したのである。
遣欧軍
第四師団
第八師団(追加)
第十一師団
第十二師団(追加)
第十六師団
重砲二個連隊(四五式二四サンチ榴弾砲十六門)
野戦重砲五個連隊(四年式十五サンチ榴弾砲二四門及び三八式十五サンチ榴弾砲三六門)
総司令官 上原勇作大将
参謀長 秋山好古大将(昇進)
参謀 井上幾太郎少将
参謀 白川義則少将
参謀 東條英機大尉
参謀 永田鉄山大尉等々であり遣欧軍所属には畑英太郎、畑俊六、杉山元、小磯国昭、岡村寧次、小畑敏四郎、阿南惟幾、梅津美治郎、乃木保典、山下泰文、小松原道太郎、今村均(上原の副官)、本間雅晴、牛島満、飯田祥二郎、樋口季一郎、石原莞爾といった面々も連ねていた。乃木は日露戦争で片腕切断をしていたので戦闘に加わらず分析・情報佐官としていた。また、航空隊の補充パイロット十二名が便乗していた。
「ウエハラ大将、陸軍総司令官のフィリップ・ペタンです」
「上原です。早速ですがペタン総司令官、我々はヴェルダンに行きたいのです」
「……分かっております。日本遣欧軍はヴェルダンに向かうよう調整をしています」
ペタンに言わせれば一種の贖罪かもしれない。先遣隊が壊滅後にヴェルダンで戦闘を指揮していたのはペタンだったからだ。なおニヴェルの後を継いだのはフェルディナン・フォッシュである。
「感謝しますペタン総司令官」
上原は秋山とペタンに敬礼してその場を後にするのであった。
「復讐に燃える日本軍か……矛先がドイツ軍で良かったものだ……」
ペタンはそう呟くのであった。そして八月下旬までに遣欧軍はヴェルダンに到着していた。無論、日本軍の航空隊――第一航空隊――もヴェルダンである。
「歓迎しますウエハラ大将」
フォッシュはそう言って上原らを出迎えた。
「今日はゆっくりと休んでください。明日からは地獄を見るでしょう」
「元よりそのつもりであります」
そしてヴェルダンの戦闘に遣欧軍が加わる。
「トーチカ類は工兵隊を支援して破壊する。無闇な突撃は許さん」
旅順と先のヴェルダンの教訓だった。遣欧軍は野戦重砲・重砲七個連隊を総動員してドイツ軍が立て籠るドゥオモン要塞に砲撃する。その間に工兵隊がトーチカ類を爆破するがトーチカが堅すぎて完全破壊は不可能だった。
「砲撃で援護しての突撃しかありません」
「だがそれでは被害が増える。先のヴェルダンでもそうだったではないか!?」
「あの時は防御側でした。突撃はあの最期しかしておりません。私だって無闇な突撃はしたくありません。ですが他に方法はあるのですか!?」
白川少将の言葉に東條はそう言い返す。
「……突撃は暫く待て。儂の判断でする、なるべく兵力の喪失は避けたい」
上原はそう判断する。それとヴェルダンは地上だけではなく空も戦っている。将和を飛行隊長とする第一航空隊は連日に渡りヴェルダン上空でフランス軍と共に激しい空戦をしている。
「一機撃墜!!」
将和は今日も敵戦闘機(アルバトロスD.1)を撃墜させた。しかし撃墜させた場所はドイツ軍の陣地で低空だった。
「あのヤーパンの戦闘機を叩き落とせ!!」
ドイツ兵達は落とされたパイロットの仇とばかりにボルトアクション小銃のGew98を撃ちまくる。
「クソッタレ!!」
将和は回避行動に移るがそのうちの一発がニューポール17のル・ローヌ9J回転式空冷星型九気筒を貫いた。たちまちエンジンは息切れを起こしてボフッと黒い煙を発散させる。
「ちぃ!!」
将和は機首を遣欧軍が構える陣地に向ける。不時着する気だった。エンジンは遂に停止してしまいプロペラも止まる。将和は滑空の要領で遣欧軍の陣地付近に不時着する。しかしドイツ軍は将和の戦闘機に射撃する。
「撃て撃て!!」
「ぐぅ!?」
遣欧軍の陣地に逃げようとしたところを後ろから撃たれるが幸いにも弾丸は掠った程度である。直ぐに遣欧軍も援護射撃をして数人が将和を塹壕に引きずり込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「死んでないから大丈夫だ」
将和は兵士達に礼を言う。
「直ぐに飛行場に戻らないとな」
そして飛行場では将和が落ちた事に激震が走っていた。
「三好の安否は!?」
「掠り傷ですが大丈夫のようです」
部下からの報告に山崎司令官は安堵の息を吐いたのであった。なお、一番動揺してたのは……。
「三好さんが落ちた? なら助けなきゃ」
「ちょ、ちょっと夕夏!? 薙刀を持って何処に行く気よ!!」
「ドゥオモン要塞によ!!」
「落ち着いて!! そこの男達も止めてェ!!」
同僚の看護婦達に押さえられる夕夏であった。
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