第二十二話
1916年五月三十日朝、ドイツ海軍司令長官のラインハルト・シェア中将は全艦の出撃をさせた。最初の目的地はサンダーランドだったが天候の悪化や一部の艦艇の機関の不調に対する修理により出撃は遅れて目的地をスカゲラック海へ切り替えた。ドイツ海軍の出撃はイギリス海軍も午前中のうちにドイツ海軍の通信傍受・解読で潜水艦隊が北海で行動中や艦隊が出撃している事も把握した。
軍令部は直ちに大艦隊司令官のジェリコー大将と巡洋戦艦部隊のビーティー中将に出撃を命じたのである。このビーティー中将の艦隊には日本から派遣された遣欧艦隊もいた。
「壮観な眺めだな」
将和は霧島の艦橋から出撃する巡洋戦艦部隊等を見ていた。
(今回は金剛型四隻、河内型二隻の六隻がいるがどうなるかだな。金剛型には防火シャッターに注水機能、隔壁の追加をしているからイギリス巡洋戦艦のように轟沈はしないと思うが……不安だなぁ)
そう思う将和を余所に艦隊はスカゲラク海を目指したのである。そして翌日の五月三十一日、霧の中でアレクザンダー・シンクレア代将率いる第一軽巡洋艦戦隊が国籍不明船(中立国デンマークの貨物船)を監視するために東方へ向かうがフランツ・フォン・ヒッパー中将の第二偵察群が遭遇して両艦とも『敵艦見ユ』の信号を発した。
ビーティは北東にヒッパーは北西に経路をとり互いに増速して接近する。この時に霧のせいで第五戦艦戦隊は進路変更の信号を見落としてしまう。しかし遣欧艦隊はビーティに付いてきていた。
「ほぅ、東洋のサムライも中々ではないか」
旗艦巡洋戦艦ライオンの艦橋でビーティはそう呟いた。1548時、ヒッパーは砲撃開始を指示してその一分後にはビーティの艦隊も砲撃を開始したのである。そして巡洋戦艦どおしの「南への逃走」の戦闘が始まるのであった。
「撃ちぃ方始めェ!!」
将和の号令と共に霧島の三五.六サンチ連装砲八門が交互射撃を行う。僚艦である金剛達も交互射撃を開始しており霧島が狙ったのはモルトケ級巡洋戦艦の一番艦モルトケである。しかし、偵察部隊の照準は全て(駆逐艦は別)ビーティ中将が座乗するライオンに合わせていた。
「こ、これは――」
まさか駆逐艦以上の艦艇に狙われると思っていなかったビーティ。
「ビーティ長官!?」
「か、回避――」
回避を言おうとした時、ライオンの艦橋にデアフリンガーが放った二斉射目の305ミリ砲弾が直撃して砲弾はその力を解放して爆発、ビーティ以下幕僚達を一片も残らせない戦死とさせたのである。
何故偵察部隊は旗艦ライオンに集中的に砲撃したのか? それは遣欧艦隊の存在があったからである。
「ヤーパンはツシマ沖海戦にてバルチック艦隊の第一戦艦隊旗艦クニャージ・スヴォーロフと第二戦艦隊オスリャービャに集中砲撃している。敵の旗艦を倒して混乱に貶める戦法だ。我が海軍はイギリスより戦艦は少ない……なら集中的に旗艦を砲撃して敵を混乱させるしかないな。そのためには訓練、訓練また訓練だな」
シェア中将はそう判断していた。ヒッパーはシェアの命令に的確に従いライオンを集中砲撃してライオンは僅か十二分で弾薬庫の誘爆により轟沈したのである。
「ジェリコー大将のイギリス大艦隊に打電を急げ!!」
遣欧艦隊司令長官の栃内大将はそう叫ぶ。その間にもヒッパー艦隊は砲撃を続けていた。1605時、インディファティガブルの船尾にフォン・デア・タンから放たれた砲弾三発が命中して戦線を離脱する。しかしフォン・デア・タンは最大射程から一斉射撃を行い砲弾はインディファティガブルの装甲を貫通して弾倉の爆発によって轟沈した。ヒッパーに運が傾いてきたと思ったがクイーン・エリザベス級戦艦四隻の第五戦艦戦隊が到着してヒッパー艦隊に砲撃を加える。
「日本の存在を知らしめろ!! 当てろよ砲術長!!」
『勿論です!!』
将和の霧島はモルトケに砲撃を続けてモルトケは六発の三五.六サンチ砲弾が命中してモルトケは炎上した。巡洋戦艦同士の戦闘は激しさを増していき、1625時にはクイーン・メリーがデアフリンガーとザイドリッツからの命中弾で弾薬庫が爆発して轟沈した。
「三好艦長、クイーン・メリー轟沈!!」
「畜生!! 今日のドイツ艦隊の射撃の腕は何かおかしいんじゃないか!!」
将和はそう吐き捨てたのであった。1630頃、ビーティ指揮下の第二軽巡洋艦戦隊の軽巡サザンプトンがシェアの大洋艦隊本隊を発見して全艦に通報する。
「全艦北上せよ!!ジェリコー大将の艦隊にドイツ艦隊を引き寄せるんだ!!」
栃内大将は臨時に指揮を取りつつ残存ビーティ艦隊にも指示を出す。遣欧艦隊は一斉回頭したのに残存ビーティ艦隊は情報伝達のミスで逐次回頭をしてしまう。そのおかげでヒッパー艦隊は照準をしやすくなり第二巡洋戦艦戦隊旗艦ニュージーランドに砲撃が集中。先のインディファティガブルやクイーン・メリー同様にニュージーランドは弾薬庫の誘爆で戦隊司令のW・ペケナム少将を乗せたまま轟沈する。
「クソッタレ!! 撃ち返せ!!」
将和は叫び、霧島と榛名はザイドリッツを砲撃してザイドリッツは砲撃機能を喪失する。1800時頃、戦艦アイアンデューク艦上にてジェリコーはボロボロになった残存ビーティ艦隊と遣欧艦隊を視界に捉えた。
「ビーティが戦死とはな。残存ビーティ艦隊と合流後、北方にて陣形を変更する」
ジェリコー大将はそう判断して陣形変更を行う。1830時、フッドと残存ビーティ艦隊に遣欧艦隊を前衛にエヴァン・トマスの部隊を後衛につけたジェリコーの部隊が砲撃を開始する。
「目標敵旗艦だ!!」
「撃ちぃ方始めェ!!」
霧島は三五.六サンチ砲を斉射してリュッツオウに砲弾を叩きつける。リュッツオウは艦首を大きく沈めてた。
「よし、止め――」
「モルトケがリュッツオウの前に出ます!!」
止めを刺そうとしたがまだ炎上していたモルトケがリュッツオウを庇うように前に出る。
「庇う気か。……砲術長、リュッツオウは狙えるか?」
『あれは駄目ですね』
「……モルトケに照準。モルトケに止めを刺せ!!」
『了解。モルトケに照準します』
そして霧島はモルトケに照準を合わせて砲撃、炎上していたモルトケには致命傷となり小規模の爆発後、モルトケは波間に消えていったのである。偵察部隊はリュッツオウが戦列から脱落、フォン・デア・タンは金剛と比叡の砲撃で主砲塔の殆どが破壊、デアフリンガーは中破。イギリス側が優勢になりかけるがデアフリンガーが第三巡洋戦艦戦隊旗艦インヴィンシブルを真っ二つに割る轟沈をさせるのであった。
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