第十九話
ようやく最初のヒロイン登場です。多分他の作品より遅い登場かな
日本の航空作戦は三日間行われた。三好は三日目も順調にこなして個人撃墜三機、共同撃墜一機を成し遂げていた。
「七機も個人撃墜とは凄いもんですよ!!」
既に酒を飲んだ影響か、頬を赤らめたパイロット達は三好の腕を讃える。
「まぁまぁ、たまたまという事もある。空戦は気を抜かれたら戦死だからな」
「それでもですよ。三好隊長は海軍航空隊の誇りです」
パイロット達はそう言い合い、三好は照れるのであった。そして十月三十一日、神尾中将の第十八師団と第二艦隊は攻撃を開始した。なお、防護巡洋艦高千穂は第二艦隊配備ではなかったが、代わりに参加していた工作艦朝日が雷撃を受けて大破する損害を出した。
それは兎も角、第十八師団は史実通りの陣容であり攻城砲の四五式二十四センチ榴弾砲、三八式十五センチ榴弾砲等の重砲が大量に投入されて史実通りの攻略であった。
また、青島だけではなく太平洋におけるドイツ帝国の植民地だった南洋諸島――ドイツ領マリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島を占領していた。青島攻略を終えた三好は内地に戻り伊藤達ととある料亭で会談をしていた。
「青島攻略、御苦労だったな」
「いえいえ、自分は何もしておりませんよ」
「謙遜しなくていい。それで本題だ」
伊藤は直ぐに真剣な表情をして切り替えた。
「イギリス、フランスから陸軍の派遣要請が繰り返し来ている」
「派遣するべき……でしょうな」
「ふむ……となると人員はどれくらいになろうでごわすか?」
元老である大山巌は三好に問う。
「……陸軍は最低二個師団、最高八個師団でしょう」
「むぅ……」
三好の言葉に大山は唸る。
「先遣として二個師団を派遣するのも手でごわすな……一杯となると五個師団でごわす」
現在の陸軍は二十個師団を編成している。そのうちの四分の一を出そうという事だ。ちなみに第十九師団は北海道、第二十師団は北樺太での編成地となっている。
「溶かされる覚悟はして下さい」
「それほどになるか?」
「はい、第一次大戦は日露戦争以上になりますので」
「……そうか」
結果として陸軍は五個師団を欧州に派遣する事になり先遣隊として二個師団を先に派遣する。
海軍も欧州艦隊と航空隊の派遣を決定した。輸送船団と航路の護衛を含めた二個特務艦隊を編成して派遣する事になる。なお、金剛型は四隻揃って欧州に派遣する事をイギリスには伝えたのであった。
海軍の先遣隊は航空隊でありその中には三好も名を列ねていたのである。
「はぁ、まためんどくさい事になりそうだな……言霊って本当にありそうだな」
1915年八月、三好は第一特務艦隊旗艦生駒に乗せてもらっていた。第一特務艦隊は旗艦を生駒にして八雲、春日、筑摩、矢矧、須磨、対馬、新高、神風型駆逐艦十二隻の陣容で輸送船団を護衛していた。輸送船団は海軍航空隊のパイロットと整備員と従軍看護婦達の看護隊である。
なお、陸軍は派遣軍を五個師団としていたが、兵器生産の遅れ(そんな事はない。欧州の戦線を出来るだけ研究してから派遣するつもりである)の都合で海軍航空隊が先に出発したのだ。
「てか従軍看護婦達も乗っているとかそんなの聞いてないぞ。歴史が違ってきているなぁ……」
看護隊は二十名の看護婦がおり、輸送船に乗っている。三好達先遣隊がフランスに到着したのは秋の到来を告げる九月五日であった。
「そろそろフォッカーの懲罰が来るな」
三好の読み通りにフォッカーアインデッカーによるフォッカーの懲罰が始まり連合国の全ての偵察機が戦線付近から駆逐されたのである。
そのためフォッカーの懲罰に焦る連合軍はフランスに派遣された日本海軍航空隊に目を付けるのは無理もなかった。
「そして空戦か」
三好達は現在、ドイツ軍のフォッカーE1七機と交戦をしていた。十四年式戦闘機とは十キロはフォッカーが速いがそこのところは想定内である。
「貰った!!」
十三年式機関銃の七.七ミリ弾がE1の左翼をもぎ取り墜落していき地面に衝突する。三好の欧州での初戦果である。
「さて、まだまだ数を伸ばすか」
その後、三好は更にもう一機を撃墜した。部隊としては四機落としているのでまずまずの戦果である。しかし、偵察機を落とされまくっていた連合軍は狂喜乱舞した。
「日本の航空隊は此方の数が揃うまで粘ってもらおう」
それは事実上連合軍のために捨て石になれと言う事だった。三好達航空隊は連日に渡りドイツ軍と航空戦を繰り広げた。いくら精鋭の航空隊でも連日――史実のラバウル航空隊並――の航空戦を続ければ落とされる者もいる。
「佐藤と清水は帰らなかったか……」
飛行場の隅で三好は戦死した二人の小さな墓を建て墓石に酒を注ぐ。
「済まんなぁ……」
煙草は吸わない三好だったが酒は飲む。そのためか深酒を度々するようになる。そして危惧するのが現れる。
「!?」
十二月の空戦中、部下の叫びが聞こえたわけではない。だが直感で後ろを振り返る。そこには今まさに機銃を撃とうとするフォッカーE1がいた。
「クソッタレェ!!」
三好はそれを確認するや否や左旋回して逃れようとする。しかし機銃弾は無情にも三好の十四年式戦闘機に降り注いだ。
「ガ!?」
銃弾が三好の左腕を掠り、三好は呻き声をあげる。銃弾で破片が吹き飛ぶが幸いにもエンジンに当たる事はなく軽快に動いていた。
「この野郎ォ!!」
三好は左腕の痛みに耐えつつ後方に回り込んで機銃弾を叩き込み火を噴かせて撃墜させた。その後、三好は傷に耐えながら基地に戻り医務室に運ばれた。
「銃弾が掠るだけだから肉もあまり削がれてはいない。まぁ擦過射創だな。三日は念のために入院してもらう。何せあんたは撃墜王だからな」
軍医は三好を見て笑う。今、三好の撃墜数は40に近づきつつあった。
「久しぶりの休暇と思ってくれたらいい」
「はい」
山崎司令にそう言われた三好は久しぶりに飛ばない日を送る。
「……のどかだな……」
三好は窓から外の様子を見ていた。木々の葉が風に揺られている。そこへ扉をノックする音が響く。
「三好さーん。昼御飯ですよー」
そこへ一人の従軍看護婦が昼御飯と共に花瓶に花を入れて持ってきた。
「あの……これは……?」
「ノースポールという花ですが?」
「いや、そうじゃなくて……」
「あら、私が折角買ってきたのに文句を言うんですか?」
「……何かすみません」
「……フフ、面白い人ですね。普通は気味が悪いと思うのに」
「いやまぁ買ってきたのなら受け取るのが道理だからね」
「……そうですか」
看護婦はそう言って部屋を出るのであった。
「……面白い看護婦だな」
三好はそう呟いた。これが後に妻となる風原夕夏との出会いだった。
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