第二話
「信じられませんぞ総理、総理や内海は妖の類いに操られているのではないですか?」
「……児玉大臣、残念ながら妖の術に操られていません。そして彼の認知は陛下も承知済みです」
「何と、陛下が!?」
数日後、桂は陸軍大臣児玉源太郎、海軍大臣山本権兵衛、参謀総長大山巌をとある料亭に招集して経緯を説明していた。
「……では二年後にロシアと戦になりもうすと?」
「そして甚大な被害をもたらします」
「……俄に信じがたい事だな……」
「山本大臣の言う事は分かります。私と内海も最初はそうでした」
将和の説明信じられない二人に桂はそう言う。
「ですが二人とも、このぱそこんとやらはどう説明しますか? 私が知る限り、このような高性能な物は世界各国に存在しません」
「……確かに。アメリカやドイツ等には存在しないだろう。夢のまた夢だな」
桂の言葉に大山はそう答えた。
「それにこの同人誌とやらの絵の技術も凄い。これが世に出たら芸術も変わるんじゃないか?」
「(……ある意味怖いなそれ)」
大山の言葉に将和はそう思った。口に出したら後悔しそうだと思ったみたいだ。
「しかし……アメリカに負けるか……」
「アメリカの犠牲になった……のが正しいかもしれません。日本が最初の矢を放つためにあえて攻撃の事前察知をしながらわざと放置したという説もありますから」
児玉の言葉に将和はそう補足した。
「それで三好とやら……君はどうするのかね?」
「……この日本で骨を埋める覚悟です」
「……判った。三好君の戸籍は此方で用意しよう」
将和は改めて覚悟を決めた。
「それで君には何が出来るのかね?」
「軍事の事は少々出来ます。まぁ兵器は触った事は無いので」
「……なら我々の補佐を頼みたい。君は未来の歴史を知っているのも一つ有利な点だ」
大山は将和にそう言った。
「補佐というと軍属になると?」
「正式に軍人になってもらいたい。無論給金も出す」
「……分かりました。頑張ります」
「そう気にせずとよい。陸海どちらにする?」
「……海でお願いします」
「判った。まぁ兵学校はギリギリまで送らないつもりだ。君の情報が欲しいしな」
「分かりました」
将和は後に特別として海軍兵学校に入校した。半年という短期間ではあるが同期生と親睦を深め三一期として卒業した。
この三一期には及川古志郎、加藤隆義、長谷川清、寺島健等の将官がいた。
それはさておき、将和は児玉、大山、山本という史実でも活躍した人物からある程度の信頼を得る事に成功し将和が所有している知識を提供した。
三人は参謀本部と海軍省に戻り、緊急の会議を開いた。
「何!? 三一年速射野砲の生産を段階的に縮小するだと!!」
参謀本部で児玉と大山は山縣有朋と話をしていた。
「ロシヤ(当時はロシヤと表記。作中でもロシヤとします)という暗雲が立ち込めつつあるというのに縮小してどうするつもりだ!!」
「山縣さん、三一式速射野砲の代わりにフランスのM1897七五ミリ野砲を五百門程購入したいのです」
「フランスの野砲をだと?」
「山縣さん、三一式は国産大砲です。ですが三十一式には本格的な駐退復座機を備えていません。ですので一分間の射撃が二、三発です。対してM1897は一分辺り十五発程度までです。山縣さんでもお分かりでしょう?」
「……ロシヤを牽制する意味でもあるのか」
「はい。それと先日、諜報から情報がありましてロシヤもM1902七六ミリ野砲という物を開発して配備しています。この野砲の一分辺り十発から十二発程度です」
「……三一式だと撃ち負ける可能性があると言うのか児玉?」
「その通りでごわす山縣さぁ。山縣さぁが頷いてくれたら予算も出るでごわす」
「……判った。儂も賛成しよう」
この山縣の決断と三人の根回しにより開戦までにM1897七五ミリ野砲は三百五十門をフランスから購入して部隊には仏式野砲と称されて配備された。
三一式は生産を段階的に縮小されたが代わりに砲弾の製造は大幅に増やされた。
そしてこの仏式は後に改良されて三八式野砲として採用されライセンス生産される事になった。
フランスはM1897野砲の購入にロシヤの顔を見つつ購入を許可した。陸軍は砲弾の生産を重点的にする事を急務とした。
これは将和の情報である。史実の日露戦争での日本が日露戦争中に使用した砲弾は百万発にも及んだ。流石の児玉や大山も顔を青ざめ砲弾製造を増やし備蓄が取られたのである。
陸軍での一方、海軍の山本は砲雷撃訓練を集中的にさせる事にしていた。
特に水雷戦隊の活躍を聞いた山本は駆逐隊等の訓練を強化させる事にした。この訓練により黄海海戦で活躍する。
それと山本は装甲巡洋艦の購入を急がせた。装甲巡洋艦は史実で開戦前にアルゼンチン海軍から春日と日進を購入して後に第一艦隊に配備され黄海海戦や日本海海戦で主力として活躍をした。
山本はその情報を元にアルゼンチン海軍にヘネラル・ガリバルディ装甲巡洋艦をもう二隻を期限付で貸出をしようとしていた。
勿論、春日と日進は購入する計画だ。アルゼンチン海軍には日本を取り巻く事情を説明するしかないと山本は思っていた。
「上手く貸出出来ればいいけどな……」
水交社の部屋で将和はそう呟いた。将和にしてみれば装甲巡洋艦を出来るだけ揃えてウラジオストク艦隊に当ててほしいと考えていた。
ウラジオストク艦隊が史実で日本海で通商破壊をして暴れ回り、常陸丸事件を起こしている。ウラジオ艦隊を早期に撃滅すれば史実の通商破壊は無いと思っていた。
「まぁ海軍はウラジオ艦隊は勿論だけど旅順艦隊も撃滅しないとな」
二艦隊を撃滅してバルチック艦隊に備えなければならない。
「……よう考えたらよく出来たよな史実の日本も……かなりの綱渡りだな」
将和は改めてそう思った。兎に角、今の日本は出来るだけ装備や兵器を揃える事にあった。
児玉や山本達がする一方、その行動を不審に思う人物は多数いる。特に海軍は六六艦隊計画をしていたのにも関わらず、装甲巡洋艦を購入しようとしていた山本に首を傾げる者が多数いた。
「海軍大臣は六六艦隊計画を破棄するのだろうか?」
海軍関係者はそう呟いたが、海軍関係者も軍艦が増えるなら越したことはないと判断しとやかく言う事はなかった。
そして時は流れた。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m