第十四話
ポーツマスで日露両全権は九月五日に署名を行い、ポーツマス条約は無事に締結された。その際に条約内容に不満を持つ民衆が日比谷公園での焼き討ち事件が起きたが陛下自ら沈静化に努め、十日も過ぎればいつも通りの日常だった。
そして九月十五日、桂は大韓帝国に対し抗議文を送りつけた。抗議文は簡単に説明すると『日露戦争中にロシヤに近づこうと密使を送ろうとしたのは断固許すべき事ではない。しかし、国の滅亡を阻止せんがための行動であるなら大韓帝国は懲罰として済州島を日本に譲渡する事』とこのような具合だった。
国王の高宗は譲渡を承認。十月一日に第二次日韓協約(史実より済州島の譲渡も増やされた)が締結された。
これにより、済州島は日本領となり日本は大韓帝国は日本の保護国となるのであった。
「これで良かったのかね三好君?」
「はい。大韓帝国を併合すれば日本は必ず後悔します」
「君から話は聞いてはいるがな……」
「確かにその通りではありますが、東北のインフラ整備が出来なくなります」
「……大韓帝国は日本にとっては重石になるか……」
桂と三好、山本大臣や児玉達は東京のとある料亭にて会談をしていた。
「そこで済州島です。ロシヤへの防御は半島を非武装化の緩衝地帯とし対馬と済州島を堅固な要塞とするのが得策かと思います」
「宜しい、やれる限りの事はしよう。それと三笠が戦艦から特務艦になるようだな」
「被弾が激しく修理しつつ、この際に特務艦への籍を変えて色々と試験してみようと海軍内でそう判断しました」
三笠は史実より被弾していた。総合的には中破だが大破に近かった。三笠は缶を全て宮原式に交換しタービンはパーソンズ式タービンをライセンス契約して搭載する予定である。
「海軍は戦艦富士、八島も籍を戦艦から練習兼特務艦に移動させ缶とタービンの換装予定で予算は増えますが代艦は暫くは建造しない方向です」
「陸軍も然り。師団も暫くは十三個師団で押さえ兵器の更新をするつもりです」
「分かった。暫くは急務だろう、今夜はゆっくりと飲んでくれ」
桂は三人にそう言うのであった。
「ところで三好君、樺太の件だがあれで良いのかね?」
「はい、戦時国債を一年でも早く返すにはこれくらいの手が必要だと思います」
戦時国債の言葉に桂達は表情を変える。
「……仕方ない……か。議会の方は伊藤さんや西園寺さんらが根回しをしている」
桂の意味深な言葉は翌年になって分かる事である。さて十月十二日、セオドア・ルーズベルト大統領の意向を受けて来日したエドワード・ヘンリー・ハリマンとの間で奉天以南の東清鉄道の日米共同経営を規程した桂・ハリマン協定が調印された。
モルガン商会から有利な条件を提示されていた小村は協定に反対したが桂は小村を更迭、後任に加藤高明に任命させた。
「馬鹿者が……」
桂がそう呟いた言葉は何を意味するのかは分からなかった。その後、満州善後条約は史実より反してロシヤが獲得した権益だけに止めた。
そして1906年、ジェイコブ・シフは来日して陛下から勲一等旭日大綬章を贈られた。その後シフは密かに桂と内密の会談を行った。
「貴方のおかげで我が国は戦時国債を発行する事が出来ました」
「いやいや、私は日本の手伝いをしたまでです」
「実は貴方にもう一度お願いしたい事があります」
「ほほぅ……私にですか?」
「はい」
桂はそう言ってある計画をシフに打ち明けた。
「……総理、それは真ですか?」
「はい。議会には根回しはしていますが、我が日本帝国は流浪の民であるユダヤ人に仮の居住地として樺太への入植を許可致します。場合によりましては北緯五十度以南の領土をユダヤ人に譲渡します」
「……日本は我々に安息の地を提供すると?」
「あくまでもユダヤ人の約束の地が見つけるまでと致します」
「……それだけでも上出来です総理」
シフは静かに涙を流していた。長い年月、約二千年もの間ユダヤ人は流浪の民となっていた。それが安息の地が漸く出来たのである。
「総理、私の家系はラビです。出来る限り多くの人々に伝えましょう」
「ありがとうございます。ただ一つほどの問題があります」
「それは……?」
「……貴方に打ち明けますが、今の日本には樺太にまで回せるインフラ整備は僅かです」
「つまり資金が無いと?」
「ハッキリと言えばその通りです。ですので大規模移民は避けてもらいたいのです」
「ハハハ、それには及びませんぞ総理」
「どういう事ですか?」
「資金は我々が集めましょう。我々の安息の地が出来るのです。集めるところからやりましょう」
シフはそう意気込み、桂は内心ホッと安堵の息を吐いていた。樺太のインフラ整備の資金は東北より少なかった事もあり心配だったからだ。
それは兎も角、日本が樺太をユダヤ混合の土地と表明した事に世界中が目を見開いた。
「日本がユダヤ人に土地を提供? 馬鹿な冗談はよせ」
最初はそんな反応だったが事実と知ると挙って日本に理由を聞くと返ってくる言葉は同じだった。
「日露戦争の時に戦時国債を発行する事が出来たのはユダヤ人のおかげである。なら恩返しとして安息の地を提供したまで」
日本の代表は事あるごとにそう説明した。シフは資金を募り、多くのユダヤ人が資金を提供し移民を募るユダヤ人は百万人ほどであった。
桂は樺太のアレクサンドロフスクに樺太民政署を設置(後に樺太庁に変更)し支所をコルサコフにした。また、日本人の樺太移住も推進し多くの日本人が樺太に移住するのであった。
「ユダヤ人の樺太移住は進んでいますね」
「うむ、後は警備隊の発足だろう」
桂と三好は料亭で食事をしていた。
「予め議会に根回しをしていたから少々の混乱で済んだ」
「根回ししてないと大荒れですね」
なお、三好は日本海海戦の功績で中尉に昇進していた。そして桂はまたしてもシフと極秘の会談を行った。
「樺太に独自の警備隊ですか?」
「今の日本には樺太に駐屯させれるのは一個連隊ほどで貴方方ユダヤ人にも協力してもらいたいのです」
「成る程。それは確かに」
「そこで、日本海海戦で捕獲したバルチック艦隊の戦艦を提供します」
「な、何と!?」
桂の言葉にシフは思わず立ち上がる。
「樺太に軍港や工廠が出来るまでは内地に駐屯してもらいますがね」
「それはありがたい!!」
シフはまさか兵器も提供してくれるとは思ってみなかった。そしてユダヤ人の親日はこの頃から始まったと言われるのであった。
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