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第十三話





 その頃、他の戦隊は史実通りの展開をしていた。第三、第四戦隊は1620時に曳船ルーシを撃沈、仮装巡洋艦ウラルや工作艦カムチャツカにも損害を与えさせて脱落させていた。第五、第六戦隊も攻撃に加わるが途中でバルチック艦隊主力の一部と遭遇して巡洋艦浪速が浸水する被害を受けて一旦退避するなどしていた。

 東郷長官は速力がある第二戦隊を分離させてから1740時に孤立していた仮装巡洋艦ウラルを発見して砲撃、これを撃沈した。そして1757時に北北西に進むバルチック艦隊を発見して砲撃を再開させた。


「撃ェ!!」


 両戦隊は砲撃をするが距離が詰まらず、両戦隊は主砲のみの射撃を行った。1900頃にはインペラートル・アレクサンドル三世が大きく左へ列外に出てから沈没する。それに後続するように海防戦艦アドミラル・ウシャーコフ、戦艦ナヴァリン、シソイ・ヴェリーキー、一等巡洋艦アドミラル・ナヒーモフはそのまま南方に逃走した。

 しかし、分離していた第二戦隊が北上してきてこれを避けるために再び北へ向かう。そして1930時には砲撃を中止していた。


「負傷者の手当てと損傷箇所の補修を急がせよ。それに少し休憩を取ろう。艦長代理も疲れたであろう」

「は、興奮の連続でした」


 その時、医務室から伝令が艦橋に来た。


「伊地知艦長、ただ今息を引き取りました」

「……そうでごわすか……」


 伊地知艦長は全身に砲弾の破片を受けており出血多量の戦死だった。他にも加藤参謀長が左腕切断の重傷、秋山参謀も負傷していた。


「三好君、後は松村副長に任せたまえ」

「は、副長。後は頼みます」

「うむ」


 三好の艦長代理は解かれ、松村副長が三笠の指揮をする事になる。そして夜戦であるが、これは史実通りの戦闘となっていた。

 駆逐隊と水雷艇隊は完全に暗くなると北、東、南の三方から次々と襲撃を行ったのである。バルチック艦隊は2105時に戦艦ナヴァリンが第四駆逐隊司令の鈴木貫太郎が用いた連繋機雷作戦で撃沈した。

 2215時には戦艦シソイ・ヴェリーキーが左舷に魚雷五発が命中して撃沈したのである。


「お握りが美味い……」


 三好は戦闘配食で出された麦と米が交ざったお握りを食べながらそう呟いた。


「特務参謀、海戦は大勝利ですか?」

「まだだ。バルチック艦隊を明日で撃滅しないとな」


 水兵の言葉に三好はそう答えながらお握りに口をつけるのであった。

 そして一夜明けた五月二八日の朝、バルチック艦隊は第一、第二戦艦隊は実質的に消滅していて残るのはネボガトフ少将の第三戦艦隊のみとなっていた。聯合艦隊第三艦隊はネボガトフ少将の第三戦艦隊を視認して第一、第二艦隊に通報した。

 第三艦隊の通報により0930時には聯合艦隊の主力艦は勢揃いした。対する第三戦艦隊は第一戦艦隊の生き残り戦艦オリョールが夜を徹しての復旧で戦闘可能だった。


「砲撃開始ィ!!」


 聯合艦隊は次々と砲撃を始める。第三戦艦隊も負けじと撃ち返すが、ネボガトフは遂に降伏を決意して1034時にインペラートル・ニコライ一世は白旗を掲揚したが東郷長官は砲撃を続行させた。


「何故砲撃を続行させるので?」


 左腕切断ながらも艦橋に上った加藤参謀長は東郷長官に問う。


「あの船はまだ降伏しておらん。機関を停止させてはおらん」

「……確かに」


 東郷長官の答えに加藤参謀長は納得した。暫くは遠距離からの砲撃が続いたがネボガトフも機関停止に気付き、1053時に機関停止が成された。聯合艦隊も機関停止を視認すると砲撃を中止した。


「勝ったんですね特務参謀!?」

「あぁ。勝ったぞ!!」


 三好は砲員の水兵達と抱きつきながら日本海海戦の勝利を味わうのであった。




 日本海海戦を歴史的な大勝利に収めた日本は続く六月六日に一個師団と二個連隊が海軍の第三艦隊と第四艦隊の護衛の元、樺太に上陸して七月十五日までに完全占領をするのであった。そしてそこへアメリカが仲介となり講和への流れとなる。


「頼むぞ小村君」

「分かりました。可能な限り努力します」


 日本全権の小村寿太郎は桂とそう話し、ポーツマスに向かう。

 日露は八月十日から会議が行われた。


「……これは……」


 ロシヤ全権のウィッテは思わず小村の顔を見た。小村から渡された日本の要求は以下の通りだった。

 1、賠償金は互いに請求しない事。

 2、ロシヤは日本に対し樺太全土を日本に譲渡する事。

 3、ロシヤは関東州の租借権を日本へ譲渡する事。

 4、ロシヤは沿岸州沿岸の漁業権を日本に譲渡する事。

 5、日露両国の軍隊は鉄道警備隊を除いて満州から撤退する事。

 6、ロシヤは東清鉄道の内、旅順―長春間の南満州支線と付属地の炭鉱租借権を日本へ譲渡する事。

 7、朝鮮半島の非武装化。


 日本の要求はこの七項目だった。


「我が日本の要求はこれだけです」

「……賠償金を要求しないとは……」

「我が日本はカネが欲しくて戦争した訳ではありません」


 ウィッテは小村の言葉に内心、安堵した。交渉が長引くのはウィッテも好まなかったからだ。


「ですが韓国の事はどうするので?」

「……韓国は貴国に事大をしようと密使を送ろうとしていました。密使が貴国に来ていれば我が国は更なる悲劇に見舞われる事でしょう」

「……ほぅ」

「ですので我が国は韓国に済州島を譲渡してもらう事で幕引きのつもりです」

「……成る程。では貴国は大韓帝国から手を引かれると?」

「その通りです。我が国としましては半島を貴国との緩衝地帯にしたいのです」


 小村は肩を竦めてそう言った。これはかなりの発言だった。


「……分かりました。直ぐに皇帝に報告しましょう」


 ウィッテはそう言い、会議はそこで終了した。ウィッテは終了と同時に皇帝に報告した。ニコライ二世は日本の要求に驚きはしながらも冷静に分析した。


(……樺太は失うだろうが、その代わり日本に喉元を突きつける事が出来る……)


 ニコライ二世はそのように考え、日本の要求を全て受諾したのである。そして日露はポーツマス条約を締結した。

 国内では条約内容に荒れに荒れた。


「日本は勝ったのではないのか!!」

「賠償金を取れ。儂の息子は旅順で戦死したのだぞ!!」


 日比谷公園では小村を弾劾する国民大会が開かれ、新聞社は政府を批判に批判をしまくった。その中、桂はある意味の伝家の宝刀を抜いたのである。


「此度の締結は陛下の一声で決まった事であり、それを批判するのは陛下に対し反逆を意味する事である」


 緊急の会見を開いたのは宮内大臣の田中光顕である。


「それは真でありますか?」

「真だ。陛下は此度の戦死者の数に大層心を痛められ早期講和を主張なされたのである。国民がこれ以上騒げば陛下は更に心を痛めなさる。早期に終わってほしいとの事だ。戦死した遺族には十分な遺族年金を払うと陛下はそう仰られる」


 陛下からの言葉に国民達も政府批判の熱は冷め、沈静化するのであった。





御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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[一言] 史実ほど悪化はしなかった…
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