戦後編第三話
久しぶりになります。
「状況は?」
「酷いの一言ですね」
1950年6月25日4時(韓国時間)に、北緯38度線にて北朝鮮軍の砲撃が開始された。宣戦布告は行われず、北朝鮮の平壌放送は「我々は、アメリカ帝国主義の傀儡、李承晩政権から、韓国人民を解放する」と宣言した。30分後には朝鮮人民軍が暗号命令「暴風」(ポップン)を受けて、約10万の兵力が38度線を越える。また、東海岸道においては、ゲリラ部隊が工作船団に分乗して江陵南側の正東津と臨院津に上陸し、韓国軍を分断していた。朝鮮人民軍の動向情報を持ちながら、状況を楽観視していたアメリカを初めとする西側諸国は衝撃を受けた。
また、投入された火力は、38度線全線で砲迫計3,000門に及んだのである。
「一部を除いて韓国軍は大敗しているようです」
「在留邦人はいなかったな?」
「はい」
日本は連合国との和平交渉において朝鮮半島の放棄を求められ日本もこれを承諾、在留邦人は全て日本に引き揚げていたのだ。引き揚げた後の半島では史実と同じく大韓民国と北朝鮮が独立をしていた。そしてその両国にはアメリカとソ連軍が駐屯していたのである。
「総理はどうすると?」
「……警戒態勢は敷いておくようにとの事です」
「クッ、産業優先だからなあのタヌキは……。戦前戦中を経験してるから分かるとは思うが……」
芦田から再び総理の座を奪い取った吉田であるが、今はまだ傍観するべきか悩んでいた。無論、今は総理の座を退いていた廣田も戒厳令級の警戒態勢を敷くべきと吉田には言っていた。
「廣田さんの言葉も分かります。しかし今、変に動けば北朝鮮の後ろにいるソ連と中国を刺激してしまう可能性があります」
吉田は局地的戦争から全面戦争になる事を恐れていた。そうなればソ連はウラジオストクから爆撃機を出して日本本土を空襲する可能性も否定出来なかった。
日本とアメリカが和平交渉に赴けたハワイ和平条約の前にウォレス大統領は改めてハリー・ホプキンスが流した情報を精査する事をCIAに命令、CIAはしらみ潰しに捜索した。その中で大事な二点の情報流出があった。
『B-29爆撃機及び原子爆弾の情報流出』
この報告にウォレスは頭を抱えるしかなかった。それまでソ連の四発爆撃機はPe-8爆撃機くらいだったが、B-29の情報がソ連に入ってきた事でソ連はB-29並の爆撃機の開発を開始、これにより1948年にはB-29をほぼコピーしたTu-4爆撃機が各地で配備され翌年の1949年にはウラジオストクにも配備されるのである。
コイツが配備された事で将和の空軍は局地戦闘機『震電』に噴式戦闘機『橘花』の大量生産に切り換える必要があったのである。また陸軍の防空隊も三式12サンチ高射砲、五式15サンチ高射砲の量産を急がせて全国配備を行うのであるが、此処でも予算の関係上で中々予定に行かなかったのである。
その中で6月27日、国連にて開催された安保理は、北朝鮮を侵略者と認定し『その行動を非難し、軍事行動の停止と軍の撤退を求める』『国際連合安全保障理事会決議82』が可決された際は賛成したのは9カ国で反対国はおらず、唯一棄権したのは社会主義国で当時ソ連と対立していたユーゴスラビアだった。拒否権を持ち北朝鮮を擁護する立場にあったソ連は、当時国際連合において「中国」を代表していた中華民国の中国国民党政府と、前年に誕生した中華人民共和国の中国共産党政府の間の代表権を巡る争いに対する国際連合の立場に抗議し、この年の1月から安全保障理事会を欠席していた。
なお、日本は国連には脱退後は未だ参加してないので何ら文句を言われても言われる筋合いは一切存在しなかった。
そんな中の6月28日にはソウルが北朝鮮軍に占領された。
(ここら辺は史実通りか。さて……)
将和はこの日の夜に吉田と連合軍司令官であるマッカーサーと会談する事は知っていた。
此処で連合軍の流れを説明しよう、ハワイ和平条約後にアメリカは日本への支援(ある程度の民主主義改革)と当時の第一次吉田内閣からの日本駐屯を許可された第8軍(主力は沖縄に駐屯)が点在していた。マッカーサーは連合軍司令官として45年12月から日本に赴任しており吉田らとはよく会談をしたりして仲を深めていたのだ。
そしてマッカーサーは1900に総理官邸を訪れた。
「シゲル、2個師団に1個艦隊だ」
席に座ったマッカーサーはコーンパイプで一息入れてからそう告げる。対して吉田も即座にマッカーサーの言葉を理解した。つまりは日本軍の派兵要求である。
「……元帥、それは……」
「……半島で1個師団と1個戦闘旅団を出す方向ではある。本国にも増援を要請してはいるが何分、本国と半島は遠い。そこで本国の増援が来るまでの時間稼ぎとして派兵してもらいたいのだ」
「成る程……では我が日本も宣戦を布告して戦争に加われ……そう言う事ですな?」
「YES。それに早急に北朝鮮軍を叩いて半島を連合軍の支配下に置かねばならない」
「……何か理由があるので?」
マッカーサーは言いにくそうにしていたが、盟友である吉田の前では嘘をつけないと判断したのか重く口を開いた。
「……まだ確証は無いが……『ウラジオストクに原子爆弾が運び込まれた』という情報がある」
「な、何ですと!?」
マッカーサーの言葉は吉田には寝耳に水であった。もし、ウラジオストクに原子爆弾が運び込まれていたのなら危ないのは……日本であった。
「CIAからの情報だが、何処まで本当なのかはまだ不透明だ。だからこそ早急に半島を支配下に置いてソ連と中国を睨みたいのだ」
「……この事はウォレス大統領も知っているので?」
「無論だ。後程、ダレス国務長官も訪日をして具体化を進めるだろうが……事態は一刻を争うものだと理解してもらいたい」
「……分かりましたジェネラル……」
会談後、吉田は直ぐに各大臣を召集しマッカーサーの事を話すのである。
「反対です!! 参戦すれば特需景気が更に恐ろしくなる……」
大蔵大臣の池田はそう反対をする。
「しかし池田、復興のカンフル剤になっているじゃないか」
「あれはカンフル剤なんてもんじゃない、劇薬じゃ佐藤。今は特需景気で景気が急上昇してるかもしれんが、戦争が終われば途端に品物は売れんようになって大不況が来るのは間違い無しじゃ。その時に泣きを見るのは国民じゃ。それでもええのか?」
「ッ……」
池田の言葉に佐藤は何も言えなくなった。
「オマケに需給バランスが崩れて物価上昇の兆しも見えとる。インフレの危機も孕んどる。ええか佐藤? 特需はヒロポンと同じ経済の劇薬じゃ。使い方を誤ると……地獄じゃぞ」
『……………』
池田の言葉に大臣達は何も言えない。廣田内閣で大蔵大臣を長く勤めて今は農林大臣になっている賀屋興宜でさえ頷いている。
「じゃあ池田さん、日本に原爆を落とされても文句は言えんという事ですな?」
「ッ三好大臣……」
「池田さんが経済のプロである事は我々も承知しています。経済の観点からして参戦に反対なのも理解出来ます。しかし、原爆がウラジオストクにあるのであれば話は別になるのでは?」
「……それは分かっとりますよ三好さん。ですがその情報は確証が無いのじゃろ?」
「えぇ、確証はありません。此方の諜報も民間の為に予算が削られてそれらしい活動はしてないようですから」
将和はチラリと陸軍大臣の阿南を見ると阿南も済まなそうに頷くのみであった。
「ですが、問題は大韓民国です。奴等の難民が押し寄せて来ています。今は何とか海保が警告射撃で追い返していますが本土に来るのも時間の問題です」
運輸大臣の山崎猛はそう主張する。ハワイ和平条約後、海軍は縮小しつつも人員を新たに創設された海上保安庁に移したり旧式艦艇の譲渡したりして海軍の下位組織という認識だったが国土を守るので一応は運輸省の管轄となっていた。
ちなみに現有戦力は巡視船は270隻、巡視艇360艇であった。特に巡視船は『占守』型に『択捉』型、『一号』型海防艦、『二号』型海防艦等が海軍より移管され、他にも『夕張』『香取』『鹿島』『香椎』も移管されていた。
「難民が本土に来ない為に時間稼ぎとして北朝鮮に宣戦布告か……矛盾だな……」
将和の呟きに誰も答えようとはしない。彼等とて原爆の存在が無ければ参戦等しようと言う気はしなかった。
「……派兵するとなれば陸海はどの戦力になるか?」
吉田は3本目の葉巻に火を付けつつそう聞く。直ぐに口を開いたのは阿南だった。
「マッカーサーからの要請の2個師団であれば西部方面軍からの2個師団が最適だと思われます。更に2個戦車連隊も動員可能です」
「フム……海軍は?」
「佐世保の第二艦隊は即時可能です。また、陸戦隊も2個大隊は即時投入可能です。それと……」
海軍大臣となっていた堀はそう答えるが更に続けた。
「それと?」
「聯合艦隊司令長官に三好大将になって頂きたい」
「ブッ」
堀の言葉にお茶を飲んでいた将和が思わず噎せてしまう。
「ゲホッゲホッ……本気か堀?」
「あぁ……井上だと駄目だからな。それに海軍省に戻したいんだ」
この頃、聯合艦隊は平時という事もあり軍政型であり左遷されていた井上成美大将が務めていた。しかし、戦争となればそうも言ってられない。
「一航艦は山口に引き続きやってもらうし小沢は軍令部次長……やれるとしたら暇そうになりそうな三好さんくらいしかいないんだ」
「空軍としてやる事もあるんですが?」
「最近は塚原や吉良に仕事を押し付けていると吉良から聞いたんでね」
「吉良の野郎ぉ……」
「三好君の件は任せる」
「吉田さん!?」
『アッハッハッハ』
吉田の言葉に驚く将和に笑う閣僚達であった。それはともかく、将和は空軍から再び海軍に軍籍を変える事になる。そして吉田も腹を決めたのである。
「マッカーサーの案に乗るしかあるまい」
斯くして日本は4年振りとなる戦争の道に入る事になるのである。
先遣隊は海軍陸戦隊2個大隊と海軍1個戦車大隊と決定した。2個師団の他にも動員が実施される事になったのだ。理由は言わずとしれた仁川の為でもあるが陸軍は仁川に上陸する気はさらさらなかった。
7月1日、海軍は第二艦隊の編成に移行していた。
「海軍省にいたのに済まないな」
「いえ、海の匂いを嗅ぎたかったので丁度良かったですよ」
第33代聯合艦隊司令長官になってしまった将和(参謀長は再び草鹿との黄金コンビとして復活させた)は第二艦隊司令長官に補された伊藤整一大将は苦笑しながらそう答える。伊藤は海軍次官であったが井上が海軍次官に再びなる事になったのでその交代でもあった。
なお、第二艦隊は以下の編成であった。
第二艦隊
司令長官 伊藤整一大将
参謀長 大林末雄中将
旗艦『伊勢』
第二戦隊
『伊勢』『日向』
第五戦隊
『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』
第五航空戦隊
『雲龍』『蓬莱』『葛城』『生駒』
第二水雷戦隊
『能代』
第15駆逐隊
『黒潮』『雪風』『天津風』『初風』
第18駆逐隊
『陽炎』『不知火』『夕雲』『風雲』
第31駆逐隊
『長波』『高波』『早霜』『秋霜』
第三護衛戦隊
『大淀』『仁淀』
第62防空隊
『冬月』『春月』『宵月』『夏月』
第64防空隊
『清月』『大月』『葉月』『山月』
「五航戦は噴式運用のために改装されているから問題は無いぞ」
「それは心強いですね」
戦後、退役を免れた『加賀』や『翔鶴』級等の空母はアメリカや将和からの情報でSCB-27に相当する噴式運用機能の近代化改装を受けていた。(ちなみにこの改装で海軍はほぼ新規艦艇の建造が出来なくなり1960年まで新規艦艇建造を待つ結果となる)
それにより改装された空母は『橘花』やネ180を搭載し噴式艦上戦闘機として再設計された八式噴式艦上戦闘機『蒼雷』(T-1の戦闘機化)を搭載可能としたのである。
「連合軍の調整を上手くやれそうなのは伊藤しかいなかった。頼むよ」
「お任せ下さい」
斯くして聯合艦隊は出師の準備に移行したのである。そしてソ連では将和が聯合艦隊司令長官になったのを過敏に反応していた。
「何!? ミヨシが『レンゴーカンタイ』の司令長官だと!?」
「ダー同志」
報告を受けたグルジアの髭親父ことヨシフ・スターリンは舌打ちする。
「チッ、やはりウラジオストクに原爆を運んだ情報は漏れていたか……」
国外のスパイ活動でスターリンはCIAがウラジオストクに原爆を運んだという事を知ったという情報を受けていたがそこまで重要視してはいなかったが将和が現場に戻れば話は別だ。やはり情報は日本にも知れていたのだ。
(どうする……先に仕掛けるか……? いや、待て。日本が来るなら……アレをすれば良い)
スターリンはそう思案するがそうなれば本格的に全面戦争になるのは必然的だった。スターリンもそれだけは避けたかったのだ。そしてスターリンはある秘策を決行するのである。
そうこうしているうちの7月15日、日本は遂に北朝鮮に対して宣戦を布告した。吉田は記者会見にて「日本に害する危険を排除する為」と発言した。
それと同時に釜山に海上護衛総隊の護衛艦隊に護衛された一等輸送艦12隻、二等輸送艦12隻の艦隊が到着したのである。これは海軍陸戦隊3個大隊(更に1個大隊の増強が成された)と1個戦車大隊を乗せていた。この戦車大隊は97式中戦車改で編成されており北朝鮮軍のT-34を易々と撃破可能だった。
「我々は先遣隊ですが29日には陸軍の2個師団も到着します」
「有難い。士気が向上します」
陸戦隊司令官であり海軍内では「陸戦隊の神様」とまで言われた安田義達中将の言葉にウォルトン・ウォーカー中将は安堵の息を吐いた。日本軍の実力はウォーカーも知っていたので期待したのだ。
連合軍は反撃の準備を着々と進めていた中、予想外の事をしてくれたのは李承晩とそれを守る親衛隊であった。
彼等は船等を利用して対馬に上陸して亡命政権を立ち上げたのである。対馬には僅かの部隊しかおらず、あっという間に制圧されてしまい、李承晩はラジオ放送で「九州島に亡命政権樹立し、日本は大韓民国に謝罪と賠償をし半島統一の協力を要請」と宣言したのである。
「馬鹿な!? 奴等、一体何処から対馬に上陸したんだ!!」
「船だろうが……奴等に協力する馬鹿は誰だ!?」
「ともかく対馬に軍を出せ!? 奴等、何をするか分からんぞ!!」
実際、日本軍の増援部隊が対馬に上陸する3日間、奴等は元寇の再来の如く蛮行等を行うのである。なお、この蛮行は直ぐに公表され、日本国民が無論怒り狂うのは言うまでもなかった。
「奴等を手引きした者がいる筈だ」
将和は聯合艦隊旗艦『出雲』の作戦室にてそう呟く。
「まさか……ソ連ですか?」
「可能性はあるな。諜報に力を入れてるのは開戦前から分かっていた事だしな」
将和は草鹿の問いにそう答えるが真実は未だ解明されていないのである。それはともかく、対馬での蛮行で李承晩に政治生命は完全に落ちたのは言うまでもなかった。そして9月15日、連合軍は仁川に上陸するのである。
史実でも山口県にて亡命政権の立ち上げが計画されていたので可能性は0では無いです。ので可能性があるとしてこのような形にしました。
噴式『蒼雷』や近代化改装された各空母の諸元とかそのうち投下したいです
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