第百二十二話
お久しぶりです。
次で最終話となります
日ソの戦争が始まって既に五ヶ月目となった1946年1月のモスクワ。
そのモスクワにあるクレムリンではスターリンが吼えていた。
「何故だ!? 何故こうも連敗続きなのだ!!」
『………』
スターリンの荒れようにフルシチョフ等は何も言えなかった。満州へ侵攻したソ連軍は当初、満州国の首都新京まで迫ったまでは良かった。
だが関東軍の猛反撃に戦線は膠着してしまったのである。シベリア帝政国への進撃は予定通りにウラジオストクが9月25日に陥落したのでスターリンの機嫌が良かったのはそこまでであった。
満州の膠着状態を他所に他では北樺太に上陸したソ連第16軍は全て北樺太から叩き出されていた。
千島列島の占守島に上陸したカムチャッカ防衛区の部隊は壊滅状態で降伏した。しかも海軍の支援(再編成された第二艦隊)の元で二個師団を載せた上陸船団がペトロパブロフスク・カムチャツキーに上陸して同地を占領、日の丸が掲げられたのである。
また、追加上陸した三個師団と合わせた五個師団で北部方面軍を編成しそのままカムチャッカ半島の攻略に転じており現時点では半島全てを占領している。
スターリンは満州に増援を送るが日本軍が漸く完成させた五式陸上攻撃機『連山』によるシベリア鉄道への空爆によりシベリア鉄道が運休となり満足らしい兵力と物資や兵器等が輸送出来なかったのである。
「おのれヤポンスキーィ……」
スターリンは怒りを収めようとウォッカをがぶ飲みをする。
「同志書記長」
「何だね同志フルシチョフ?」
意を決して口を開いたのはフルシチョフだった。
「……スイスジュネーブのソ連大使館からの連絡で日本が和平停戦を求めています」
「和平? 和平だと!?」
フルシチョフの言葉にスターリンは目を見開く。
「我々が求めるのは満州とシベリアの大地と不凍港だ!! それが無い場合は直ちに進軍せよ!! 攻撃の手を緩めるな!! 攻撃!! 攻撃!! 攻撃せよ!!」
「ダ、ダー同志!!」
スターリンの命令は直ぐにイルクーツクに臨時司令部を構える極東方面軍は頭を抱える事になる。
「今の状況でやるべきではない。最悪、満州から叩き出されるぞ……」
アレクサンドル・ヴァシレフスキーから交代したゲオルギー・ジューコフ元帥は溜め息を吐く。
新京の戦線はスターリンが思っているより酷く膠着状態が続いていた。しかも旅順に潜入したスパイからは新たに数個軍の陸軍部隊が揚陸されたという情報もあった。
「如何されます?」
督戦の政治佐官でさえ思わずそうジューコフに聞いた。敵に多少の新型兵器があるなら、ソ連は得意の人海戦術で押し破れるだろう。だが日本は陸空と頑強に抵抗をするので押し破るのが現時点では不可能だった。
(アメリカを破った世界最強の海軍国家だから陸は……と思っていたが中々どうして……やはりハルハ河で奴等に火を付けた我々に原因か……)
ジューコフは自分達の自業自得だった事に今更ながら気付くのである。しかし命令は命令である。ジューコフは予備兵力の一部である五個狙撃師団を新京攻略に投入した。だが、五個狙撃師団は移動中に陸軍航空隊に捕捉され襲撃機の襲撃を受けて壊滅状態に陥るのである。
そして2月、日本はスイスを通じて再度ソ連に対し和平停戦を求めた。
「……良かろう。席に座ってやる、モロトフ!!」
「ダー同志」
「良いか、満州だけは譲るな。奴等の喉元にナイフを常時突き刺すためだ。その間に我々は兵力を再編させ世界最強の軍とさせる」
「ダー同志。必ずや同志に吉報を……」
斯くして1946年4月、日ソはスイスジュネーブにて和平停戦交渉が始まるのである。
「我がソ連は満州の割譲を主張する」
モロトフは席に座っての開口一番にそう告げる。告げられた相手ーー日本側の全権代表である重光葵はピクリと眉を動かすも直ぐに頷いた。
「宜しい。日本は満州における全ての権利を放棄しソ連に割譲しましょう」
「……抗議すると思いましたが?」
「いやはやお恥ずかしい。残念ながら我が日本では満州を統治する能力は甚だしくも無に等しいものでね。ですが『半島』とその周辺だけの統治は些か自信がありましてな」
「……半島……まさか!?」
驚愕するモロトフに重光はニヤリと笑う。
「確かに日本は満州を放棄しましょう……ですがカムチャッカ半島は別です。あの周辺地域は我々日本が支配しておりますからな」
「ムムム……」
重光の言葉にモロトフは唸る。確かにカムチャッカ半島地域は既に日本軍が支配をしており、更には米軍の部隊も揚陸していた程である。
「……休憩を提案します」
「そうですね。長い休憩になりそうです」
モロトフは直ぐにスターリンに事の詳細を伝える。伝えられたスターリンはカムチャッカ半島奪取の部隊を編成するよう軍に命令をするも軍は首を横に振った。
「駄目です。カムチャッカ半島の最前線には米軍の部隊もいるとの事です。彼等も刺激すれば日米の共同戦線になります」
「ぐぬぬぬ……」
スターリンにはどうする事も出来なかった。結局、スターリンはカムチャッカ半島の放棄を了承し他の交渉についてもスムーズに纏まる事が出来たのである。
そして5月1日に日ソ両軍の和平停戦が交付され各戦線での戦闘は停止した。5日には日ソ和平条約が発効されるのである。
日ソ和平条約
・日本はソ連に満州における全ての権利を割譲する
・ソ連はカムチャッカ半島における全ての権利を日本に割譲する
・捕虜交換は速やかに行う
・ソ連はオホーツク海における漁業権を放棄する
・賠償金を互いに請求しない
・シベリア帝政国が放棄した地域の権利はソ連が担う
等々であった。日本側は日本に亡命したニコライ三世等帝室の引き渡し要求があると思ったがソ連はあえて主張しなかった。というよりもウラジオストク等が手に入ったので無闇に要求はしなかったのが正しいのかもしれない。
「ソ連との戦争は終わった。ソ連に帰るのか?」
「………」
旅順港において関東軍の等の主力部隊は撤退するのでその作業に追われている中、将治は戦車の移送をさせつつその作業を一緒にしているノンナに問う。問われたノンナは一瞬、将治を見て「マジで言ってるんかこいつ?」みたいな表情をして溜め息を吐いた。
「やっぱ帰るーー」
「ほんとにこの人は……」
ノンナはそう言うつつも将治の前に立ち、そのまま将治の口に吸い付いた。
(やった!?)
(最近積極的だなぁアウロフ大尉……)
(周囲の目も考えてくれ……)
周りで作業をする戦車兵達はいつもの事と判断して作業の続きをする。
「……これが答えだと前にも言いましたよね?」
「……済まん」
「全く……貴方で苦労するのは私だけで十分です」
そう言って微笑むノンナである。
「でも確か三好中隊長、他にも仲良くしている娘がいたような……」
「やめてやれ」
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m