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第百二十一話

お久しぶりです。漸くネタが浮かんだので投下します









「現在の状況はどうか?」

「はっ、開戦から今日で5日……ソ連軍は突破らしい突破はしておりません」


 満州国の首都である新京に置かれた日本陸軍関東軍司令部で総司令官の山田乙三大将と秦総参謀長ら司令部参謀と戦況の話をしていた。


「邦人の避難は?」

「国境線付近は元より、北部に点在していた移民者は軒並み避難させておりいるとしたら元々在住していた満州人くらいです」

「問題は輸送船の手配です。現在、旅順港には海軍さんに護衛された輸送船団が内地に行ったり来たりとしていますが内地に避難したのは三万人程です」

「むぅ……」


 史実では満州に渡った満蒙開拓団や移民者達は約85万程度であり現状ではまだまだであった。


「なら尚更我々は満州を死守する必要があるな」


 山田の言葉に秦達は頷く。


「満州国軍はどうしている?」

「駄目です。機能してませんし九割半はソ連軍に投降してます」

「……チッ、やはり歴史が浅いと駄目か」


 秦の言葉に山田は舌打ちをする。


「満州国軍は元から当てにはしておらんが邦人が殺されるなら反撃しろ。容赦はするな」

「分かりました」

「それと白系ロシア人混成の浅野部隊は?」

「彼処も内通者が複数いるようで……」

「……やはりロシア人は信用出来んな」

「シベリア帝政も連戦連敗で戦線は崩壊しているようですからね……」


 ウラジオストクを首都とするシベリア帝政国もソ連から宣戦布告を受けて侵攻されていた。当初は持ちこたえていたシベリア帝政軍だがソ連軍の人海戦術により堪えきれず戦線は崩壊、支離滅裂な状態であった。そのため皇帝のニコライ三世は日本への亡命を決意、家族や政権首脳陣達は航空機や輸送船でウラジオストクを脱出して日本入りしていたのである。


「構わん、白系ロシア人部隊にも事後の行動は自身で決めろと伝えろ」

「……宜しいので?」

「ソ連に向かうなら我々はまだ手出しをしない。だが、銃を持って突撃してくるなら迎え撃つまでだ」

「分かりました」








「ノンナ、君も身を隠した方がいい」

「マサハルさん?」


 新京に駐屯する戦車第26連隊の第二中隊長に昇進した将和の次男である将治は白系ロシア人部隊に所属するアウロフ・ノンナ少尉に告げる。


「私も戦いますよ」

「いや、二重スパイである君が戦えばソ連に帰れなくなるだろ」

「……ッ……」


 将治の言葉にノンナは口をつぐんだ。


「……気付いていたのですか?」

「ソ連だと三好家の首は10万ルーブルらしいからね。薄々は気付いていたよ」


 将治は肩を竦めながら言い、戦車倉庫に鎮座する四式戦車『チト』を眺める。


「『チト』の性能の情報が欲しかったんだろ? まぁ君が生き延びるためなら情報を持って行くがいいさ。それに『チト』の情報を持って帰っても内地じゃ新型戦車を開発中だし直ぐに『チト』も旧式扱いさ」

「マサハルさん……」

「あぁ、悪いが首は勘弁してくれよ。俺はまだ生きる予定だからね」


 将治はそう言って『チト』の整備を始め、ノンナの足音がパタパタと消えていった。


(全く……どうやら俺の女運は親父程は無いようだな……ま、仕方ない事かな……)


 そう思う将治だが不意に倉庫の扉を閉める音がした。振り返るとノンナが閉めていた。


「ノンナ……?」

「分かってないのはマサハルさんですよ」


 ノンナはそう言って将治に歩み寄り、その口に吸い付いた。


「……これが私の返事です」


 ノンナはそう言ってチトの中に入りゴソゴソと整備を始めた。その様子に端から見ていた連隊長の西は苦笑した。(なお、気付けば周りには連隊の戦車兵達が覗き見をしていた)


「三好君もまだまだだねぇ……」

「……そんなもんですかね……」


 将治はそう呟きながら整備に取り掛かるのである。

 そして日ソが開戦してから7日後の8月15日、日米の和平を纏めたハワイ和平条約が発効されるのである。


「これでアメリカとの戦争は終わりました」

「……三好よ、真珠湾の時から御苦労であった……」

「陛下……」


 神楽坂にある小さな料亭、此処で将和らは陛下と極秘に会っていた。


「ですが陛下、まだ皇国は興廃の危機から去ってはおりません」

「……十分に理解している……だが三好、貴官は我が祖父の代から日本の為に身一つで尽くしてきた。その礼を一先ずは言ってはならないのかね?」

「……真に感謝致します」


 陛下の言葉に将和は深く頭を下げるのである。その後、陛下が退出すると将和らはいつもの会議を始めた。


「東南アジアからの撤退は如何様に?」

「既にインドシナ、タイ等に駐屯していた部隊は輸送船団に乗り込んで今頃は東シナ海を北上して旅順に向かっている。カルカッタ方面の第15軍もタイへ移動中だな」


 将和の問いに杉山はそう答える。和平交渉の時から撤退準備をしていたので移動速度は今のところは速かった。他にもフィリピンの部隊も大半は満州方面の船団に乗り込んで北上しており米軍も治安部隊用の一個連隊をマニラに送り込んでいる程だった。


「シベリア帝政国はどうしますか?」

「亡命してきた皇帝と政権首脳陣は受け入れた。亡命してくる者も順次受け入れる。それだけの事だ」


 東條はそう告げる。助けを求めてきた者だけを受け入れる。後は知らん、今の日本にそんな余力は無かった。余力がある国としたらアメリカくらいだろう。


「分かりました。それと邦人の脱出は?」

「各地の輸送船をかき集めてはいるが……まだ時間は掛かるな」

「護衛は任せてください。海上護衛総隊の他も海軍は艦隊を出します。また、機動部隊を出して陸さんの航空支援を行います」

「助かります」


 斯くして会議は夜中まで続くのであった。8月25日、満州の戦線は未だ膠着状態だった。その全方面での膠着状態を打破したのは千島列島だった。


「赤穂浪士となって恥を忍び後世に仇を報ずるか、それとも白虎隊となり民族の防波堤として玉砕するか!?」

「行きましょう!!」

「ソ連軍なんて目じゃありません!!」

「我々の命は池田隊長に預けております!!」


 25日に千島列島の最北端である占守島にソ連軍は上陸を開始した。第91師団長の堤中将は全力防衛を指令し戦車第11連隊にも攻撃命令を出した。戦車第11連隊長の池田大佐は出撃前に部下達にそう語り、部下達は赤穂浪士ではなく白虎隊を選択した。

 斯くして戦車第11連隊は戦車戦史上の伝説を作り出す事になる。四式戦車、九七式中戦車の三個中隊を先頭にした戦車第11連隊は千歳台から駆けつけた独立歩兵第283大隊と共に突撃を開始、ソ連軍の攻撃で孤立していた四嶺山の村上大隊の独立歩兵第282大隊を救いだしソ連軍が上陸した竹田浜へ突撃を開始したのである。


「弾種榴弾!! 奴等を蹴散らせ!!」


 チトの105ミリ戦車砲、チハの75ミリ戦車砲がその砲身を振り回して榴弾を乱射してソ連軍兵士はその榴弾に吹き飛ばされていく。無論、ソ連軍も対戦車火器を持っており反撃していたがチト、チハの装甲を貫通させる事が出来ず虚しく吹き飛ばされたのである。他にも火砲は存在していたがまだ揚陸出来ておらず輸送船に残されたままであったため戦車第11連隊の被害は軽微だった。

 0925、竹田浜にいたソ連軍は壊滅した。輸送船に逃げれた者、日本軍の捕虜になった者もいたがそれは僅かだった。ソ連軍の攻撃もそこまでだった。

 幌筵島から飛来した海軍第12航空艦隊の零戦20機と一式陸攻36機である。零戦隊は噴進弾を輸送船に叩き込みつつ機銃掃射を繰り返すのである。陸攻隊はカムチャッカ半島ロパトカ岬のソ連軍砲台に60キロ爆弾を投下して砲台を完全破壊するのである。

 このように千島列島占領を目的としたソ連軍の軍事行動は完全に破壊され千島列島方面はほぼ日本側が握っていたも同然だったのだ。他にも樺太方面ではソ連軍が上陸した事で守勢に回っていた第88師団と独立混成旅団は内地からの一個師団と三個旅団、一個戦車大隊の増援を得て反撃に転じていた。


「オハ油田が破壊されたのは無念だが直せばまたやれるさ」


 艦隊を急行させていた将和は報告を聞いてそう呟いた。将和は『出雲』を旗艦とする第一艦隊を率いて舞鶴から樺太方面に出撃していたが樺太からソ連軍を叩き出した事で出撃する意味を無くしていた。そのためウラジオストクへ向かい日本へ脱出する亡命者の船団を護衛する事にしたのである。


「満州も厄介になりつつはあるが……死ぬなよ将治……」


 次男の安否を気遣いつつそう呟く将和だった。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 将和は機動艦隊司令長官に戻らずそのまま第一艦隊司令長官になるんですか? [一言] 次回はいつになるかわかりませんが楽しみにしております。
[一言] 更新お疲れ様です。 野次馬w 陛下の労い^^ 主戦場が内陸とあっては海軍は裏方に徹するしかないですね。 まあ基地航空隊回すぐらいかな。 次回も楽しみにしています。
[良い点] 超久しぶりの更新乙です。 やっぱり歴史の浅い満州国軍とシベリア帝政国ではソ連の猛攻を防ぐことはできなかったか。 千島列島方面は陸軍の奮戦で防衛できたが問題は満州方面。史実とは違い戦力は充実…
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