第百十九話
今日は真珠湾攻撃の日。
最近でも空母『赤城』が発見されましたねぇ……
後は『信濃』を発見してくれたら……
それは果たして何らかの偶然が働いた作用だったのか?
後に歴史家はそう語る。この時、マリアナ沖、アンダマン諸島沖まで日本海軍は大きな喪失をしながらも敵を退けてきた。
しかし、一機の哨戒機が新たな敵艦隊を発見した事で日本軍は大いに混乱する事になる。
「そんな馬鹿な!? 誤報じゃないのか!!」
「いえ、現場海域に急行した彩雲3機も敵機動艦隊を発見しています。その内、一隻の空母は超大型クラスとの事です」
急報を受けた第三航空艦隊司令部(木更津)では大混乱していた。しかし、歴戦の将が混乱する司令部を一括した。
「静まれェ!!」
怒号を発したのは第三航空艦隊司令長官の吉良俊一中将であった。
「敵機動艦隊がいるなら全力で叩く。それしかないだろうが!! 総員配置につけェ!!」
『はッ!!』
吉良中将の一括に司令部の参謀達は自分の責務を行うために走り出したのである。
さて、敵機動艦隊を発見した海域は何と小笠原諸島の東方約350キロの海域だった。ミッドウェーやウェークの哨戒網を潜り抜けたのはハルゼー大将率いる第三艦隊だった。
「フン、此処までは何とか来れたな……」
「問題は此処からです。敵偵察機に接触されていますし遅かれ早かれ航空攻撃に晒されるのは明白です」
「フン、エリートのカーニー君に言われんでも分かっとる(だがこの作戦は行き当たりばったりじゃないか……これはもしかしたら……)」
カーニー参謀長の言葉にハルゼーは苛立たせながらも飛行甲板を見る。飛行甲板にはF6Fを筆頭に攻撃隊が準備をしていた。
「だが此処から出すにはまだ早い」
「しかし……」
「分からないかねカーニー君? ジャップ野郎の機体に比べて此方の機体の航続距離は短いのだよ」
まるで出来の悪い悪ガキに教える教師さながらのハルゼーである。だが日本も日本で攻撃をするのはまだ渋っていた。
「駄目だ、機数が足りない。双発だけではやられる」
木更津にある三航艦司令部で吉良中将は報告書を見て攻撃を中止した。三航艦は水上機をも含めて390機しか存在していない。そこで吉良は増援を要請した。
即ち、関東方面に展開していた陸軍航空隊と九州方面に展開している海軍の第五航空艦隊にである。
五航艦司令長官の山田中将は要請を承諾、直ちに増援として270機の機体を関東方面に派遣したのである。また陸軍航空隊も雷撃可能な『飛龍』90機を増援に派遣してくれた。これにより全ての準備は整ったのである。
翌日0536、先に動いたのはハルゼーだった。
「攻撃隊発艦!! トーキョーを燃やせ!!」
F6F180機 SBC150機 TBF180機の攻撃隊は一路東京を目指すのである。勿論、その攻撃隊は伊豆大島の対空電探が探知していた。
「敵の攻撃隊だ!?」
「500機近いぜ……」
「アメ公め、恐ろしいぜ……」
電探員達はそう言いながらも発見の報告をしていた。敵機接近の報に三航艦司令部は慌ただしく動き出す。
「攻撃隊は全機発進!! 防空隊も全て上げろ!!」
直ちに攻撃隊と防空隊が展開していた航空基地から離陸する。そして関東方面にも初めてとも言える警戒警報が発令されたのである。
『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部より発表、敵機動艦隊が小笠原諸島沖に展開、我が陸海軍はこれを全力で迎撃中なるも敵の攻撃隊が関東方面に向かいつつありとの事です。関東方面にお住まいの国民の皆様は直ちに防空壕や地下鉄等に避難してください。繰り返しますーー』
「夕夏さん」
ラジオから流れるアナウンサーの言葉にメイド服を着て掃除をしていたシャーリーが同じくメイド服着て掃除していた夕夏を見る。
「えぇ……遂に来るわね。でも大丈夫よ」
「それもそうね」
そこへ子ども達と遊んでいたタチアナも来る。
「何てったって旦那が頑張っているもの」
夕夏はウインクしながらも大きくなった腹を撫でるのである。
「ところで夕夏、貴女何人産むつもりなの?」
「うーん、目指せサッカーチーム?」
「アンビリバボーなんですけど……」
それはさておき、関東方面に展開していた陸海の航空部隊は全力を尽くそうとしていた。特に帝都の空を守る陸軍の飛行第244戦隊は「帝都を守るぞ!!」と意気込んでいた。更に厚木の302空も雷電や零戦等が離陸して上空を警戒していたのである。
そして0708、相模灘で最初の迎撃戦が展開されたのである。
『全機突撃!!』
館山海軍航空隊ーー361空の紫電改54機が太陽を背に米攻撃隊へ襲い掛かる。54機から放たれる20ミリ機銃弾のシャワーに37機が瞬く間に火を噴いて相模灘に落ちていく。
『全機編隊を崩すな!! 戦闘機隊は直ちに対処せよ!!』
攻撃隊指揮官のフランクリン大佐はTBFの操縦桿を握りながら叫ぶ。同数程度のF6F隊が紫電改と空戦を展開し、その隙に攻撃隊は浦賀水道方面へ向かう。しかし、浦賀水道上空でも米攻撃隊は襲われた。
これは厚木から飛来した零戦と雷電の混合隊98機であった。
『零戦隊はグラマンと空戦しろ!! 雷電隊は敵攻撃隊を攻撃しろ!!』
雷電より身軽な零戦が追い縋ろうとするF6Fと空戦をする。その隙に雷電が敵攻撃隊に追いつき20ミリ機銃弾を叩き込んでは撃墜していく。また、この時に木更津から離陸した紫電改や陣風、横浜方面から離水した水戦強風や瑞雲等も加わり米攻撃隊を迎撃、多数の航空機を撃墜する事に成功するもそれでも200機以上は生き残っており迎撃網を潜り抜けて東京上空に侵入した。
だが、まだ彼等に待ち構えていたのは陸軍飛行隊である。
『掛かれェ!! 奴等を生かして帰すな!!』
隼・鍾馗・飛燕・疾風等150機以上の混成部隊が一斉に突撃して空戦を展開する。それでも米攻撃隊は負けじと潜り抜けた。
『ジャップめ、食らいやがれェ!!』
TBF隊が水平飛行での爆撃を敢行、品川、新宿、神田といった街が爆撃され火の海となる。また、将和の自宅がある麹町も爆撃されたのである。
「夕夏さん!?」
「放水するわ!!」
幸いにもタチアナやシェリル、セシル等は避難済みだったので無事だが夕夏や美鈴、シャーリーは自宅に残っていた。三人は陸戦隊の隊員らと協力して炎上する自宅やその周辺の家々に消火ホースで放水をして延焼を防ぐのである。なお、自宅は半壊であった。
「燃えちゃいましたね……」
「また作り直せばいいだけの話よ」
火傷の手当てを美鈴にする夕夏はそう返したのである。結果として、米軍の帝都空襲は半分成功し半分失敗した。東京の一部を焼き払う事には出来たが彼等の最終目標ーー皇居の破壊は出来なかったのだ。
そして東京を空襲した代償は今から支払うのである。
「敵機接近!! 凡そ300機余りの攻撃隊です!!」
「チッ、やはり来るか。出せる機体は全部出せ!! 爆撃機も出して攻撃を妨害させろ!!」
「そんな無茶です!!」
「死にたくなかったらやれ!!」
反論するカーニー参謀長にハルゼーは怒鳴る。そうこうしているうちに三航艦を主力にした攻撃隊が飛来、F6F隊が攻撃隊に襲い掛かって護衛の零戦隊と空戦を展開をする。それを尻目に攻撃隊は攻撃を開始、ハルゼー艦隊の対空砲火をものともせずに爆弾、魚雷を投下する。
だが、三航艦等の錬度は今一つだった。本来ならもう少しマシな腕のパイロットもいたがそれらは全て一航艦に集約されていたのだ。
そのため、ハルゼー艦隊の空母五隻は損傷はするも沈没艦はいないというオチだったのだ。まぁそれでもハルゼー艦隊の対空砲火は物凄く近づけなかったのも要因の一つである。それはともかく、辛くも三航艦の攻撃から抜け出せる事に成功したハルゼー艦隊はミッドウェー方面からの離脱をしようとしていた。
だが、ハルゼー艦隊は日本側へ奥深く侵入しており三航艦の発した電波はマリアナ沖から帰還途中だった山口中将の第一機動艦隊、そして将和の第一艦隊が受信しており待ち伏せするべく急行していたのである。
先にハルゼー艦隊に襲い掛かったのは第一機動艦隊から発艦した攻撃隊240機が飛来、損傷した空母を第一として攻撃を開始した。
「弾幕射撃で近づけさせるな!!」
ハルゼーはそう叫ぶも被害の報告が次々と舞い込んできた。
「『シャングリラ』『タラワ』、被弾炎上!! 両艦とも手が付けられない状況です!!」
「『レプライザル(史実プリンストン)』『キアサージ』も同じく被弾炎上!! 傾斜が酷くなるばかりです!!」
「クソッタレめ!!」
そして遂に『ミッドウェイ』も揺れた。
「左舷艦尾に魚雷命中!! 左舷機関室に浸水中!!」
『ミッドウェイ』は魚雷を避けきる事が出来ず艦尾に魚雷が命中。しかも運が悪い事に被雷した場所が左舷機関室だった事から大量の浸水が発生、瞬く間に左舷機関室は水没し『ミッドウェイ』は速度を大幅に低下せざるを得なかった。
「長官、このままでは危険です。『アラスカ』に移譲を具申します」
カーニー参謀長は叱責されるのを覚悟でハルゼーに具申する。そのハルゼーも反論したかったが艦隊指揮を考えると移譲が最良と判断して『ミッドウェイ』を退艦して大巡『アラスカ』に移譲、長官旗を掲げたのである。なお、攻撃はそこで終わりを告げたのでハルゼーは大破した四空母を雷撃処分とし残った『ミッドウェイ』は何とかハワイに連れて帰ろうとした。
そして日が暮れた2037、『ミッドウェイ』が出しうる13ノットで航行するハルゼー艦隊は『アラスカ』の水上レーダーが後方から接近する艦隊を探知したのである。
「まさかこの艦隊は……」
そのまさかだった。後方から接近してきたのは戦艦『出雲』を主力とした将和の第一艦隊だった。
「全艦砲雷撃戦用意!! 距離が四万になれば直ちに砲撃、水雷戦隊も突撃せよ!!」
まだまだ戦意はある将和は『出雲』の艦橋で吠える。第一艦隊は距離四万に到達すると『出雲』が砲撃を開始した。この時、戦艦は『出雲』『河内』『因幡』『岩代』の四隻(『長門』は速度の問題から後方で待機)ではあるが燃料が心細いのもある。また、燃料等の都合上、制約があるハルゼー艦隊も同様であり早期の決着をつけたかった。
そのため、第一艦隊は遠距離砲戦を展開していたが『河内』の41サンチ砲弾が『ミッドウェイ』に命中した事でハルゼーは苦渋の決断をした。
「『ミッドウェイ』を放棄する。乗員は直ちに総員退艦せよ」
「長官!?」
「『ミッドウェイ』を撒き餌にして我々は逃亡するしかない。敗者のようにな……」
その時のハルゼーの背中はとても悲しそうだったとカーニーは後に語る。ハルゼー艦隊は退艦した『ミッドウェイ』の乗員を救助後、一目散に撤退をするのであった。
それを見た将和も深追いをするのは危険と判断し、放棄された『ミッドウェイ』の鹵獲を命じるのである。
此処に至り、米軍は投入した空母と戦艦のほぼ全てを喪失しマリアナ諸島を占領するという作戦は完全に失敗するのであった。
そして遂に動いたのはホワイトハウスであった。
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