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第百十五話

本日二回目更新







「駆け抜けろ!!」


 南雲の手元にいる二艦隊所属は僅かだった。


 三戦隊

 薩摩

 四戦隊

 愛宕 鳥海

 第二水雷戦隊

 乙巡

 矢矧

 第15駆

 夏潮 早潮 黒潮 親潮

 第16駆

 天津風 時津風 初風 雪風


 それでも二艦隊の士気は最高潮だった。二艦隊は30ノットの速度で突撃、まず撃沈させたのは大破漂流していたイリノイだった。イリノイには護衛として駆逐艦二隻はいたが愛宕と鳥海による砲撃で蹴散らされており薩摩はイリノイに三発叩き込んだのがイリノイの致命傷となりイリノイさ爆発を繰り返しながら波間に没していく。

 更に15駆は魚雷四本ずつを発射、15駆が狙ったのは同じく退避しようとしていた戦艦ケンタッキーであった。ケンタッキーは回避しようとするも大破炎上して反応が遅れて左舷に六発が命中、ケンタッキーはあっという間に横転、没したのである。


「シット!! あの艦隊を狙え!!」


 第七機動群は至近距離ーー距離10000ーーという事もあり砲弾は初弾から薩摩以下に命中弾を与えていく。


「愛宕大破!! 鳥海炎上!!」

「15駆、早潮爆沈!!」

「長官、このままでは……」

「やむを得ん、一旦後退を……」


 南雲がそう発した瞬間、薩摩艦橋に小口径砲弾が飛び込んできた。幸いにも砲弾は不発弾だったが二艦隊司令部の要員を殺傷させるのには充分だった。


「ちょ、長官!?」


 南雲は飛び込んできた破片が両足に直撃、両足切断という致命傷を浴びてしまう。


「構うな……」

「ですが……」

「部品の一つが取れただけだ。まだ戦闘は終わってはおらん!!」


 直ちに駆けつけた衛生兵が応急手当を施す。


「俺は此処で指揮を取る」

「長官……」

「なに、米艦隊を相手に艦隊決戦が出来るのだ。俺は本望だよ」


 二艦隊は薩摩等が大破しながらも一旦後退して態勢を建て直す。だがその時間を貰った一艦隊も再び態勢を建て直して砲撃を開始、出雲が放った砲弾はオハイオの止めを刺す事に成功する。そして将和は今まで控えていた水雷戦隊に命令を下す。


「水雷戦隊は直ちに突撃せよ!!」


 今まで砲撃していなかった水雷戦隊は漸くの命令に歓声を上げた。九戦隊に率いられながらも水雷戦隊は突撃を開始、水雷戦隊の突撃に気付いた第七機動群も重巡を出して対抗しようとする。

 しかし、態勢を建て直した二艦隊が再度突撃、薩摩がピッツバーグやブレマートンを沈めて穴を開けさせる。その開いた穴に水雷戦隊は突入した。


「距離20!!」

「撃ェ!!」


 喪失確定ながらの突撃を咬まして水雷戦隊は戦艦アイオワとミズーリの左舷に水柱を噴き上げさせた。


「おのれェ!!」


 オルデンドルフは怒り狂うもモンタナも大和との戦闘でほぼ大破していた。そこへレーダー員が叫んだ。


「味方攻撃隊が再度接近中!! 更に複数の艦艇も来ます!!」


 五艦隊から生き残った正規空母から放たれた第二次攻撃隊だった。しかし五艦隊の空母群も山口中将の第一機動艦隊に捕捉され攻撃隊を送り出されていた。そして接近してきたのは旗艦インディアナポリス以下の五艦隊の護衛艦艇であった。スプルーアンスも何とか残存の護衛艦艇を集合させて第七機動群を救うべく接近してきたのだ。


「対空戦闘!!」


 やはり攻撃隊が狙ってきたのは大和だった。七本が命中して浸水している大和を瀕死の重傷と判断した米攻撃隊は大和の右舷を集中攻撃した。

 だが戦艦部隊を守るために展開していた直衛の駆逐隊は大和を守るべく楯となったのである。


「清霜が!?」


 駆逐艦清霜は大和に放たれた魚雷四本を身一つで受け止めた。水柱が収まる頃、清霜は既に没してた。それでも攻撃隊は右舷への攻撃を続行、次に沈んだのは朝霜だった。朝霜は三本が命中し艦体が三つに割れての轟沈だった。

 沈没前、朝霜艦長の杉原中佐は艦橋から大和に敬礼をして見送った。その様子を将和も確認して沈み行く朝霜に敬礼をするのである。

 しかし、米攻撃隊は負けじと突撃、大和右舷に五本が命中した。


「注水急げ!!」

「駄目です、注水区画は一杯です!!」

「……左舷機械室・機関室に注水だ!!」

「ですが艦長!?」

「退避後に注水だ、急げ!!」


 有賀艦長は左舷機械室・機関室の兵員を退避後に注水したが右舷の浸水は止まる事を知らずに大和は次第に傾斜が大きくなっていくがそれでも大和はまだ砲撃を続けた。


「大和はまだ戦うというのか……」


 その様子を見ていた長門艦長の杉野大佐はある種の畏怖を覚えた。大和の砲撃はモンタナに止めを刺す事に成功する。モンタナは砲弾三発が致命傷となり誘爆が繰り返される。


「やむを得ん、総員退艦だ」


 オルデンドルフは苦渋の決断の末、総員退艦を発令。モンタナは海戦が終わる頃に波間に没する。そして大和も遂に最期の時を迎えようとしていた。


「……此処までか」


 大和はモンタナを撃沈する事に成功するもまだ生き残ってたミズーリからの砲弾四発を耐える事が出来ず、各所で誘爆が発生していた。


「艦長、総員退艦だ」

「はっ」


 有賀の頷きに将和は一人歩きだした。その歩きに誰もがまさかと思う。将和の行き先は長官室だったからだ。


「なりま……せん……」


 将和を止めたのは従兵に抱えられた宇垣だった。


「……宇垣……俺は大勢の者を殺し……殺させてきた……その責任は負わねばならんよ」

「いけません……長官、貴方は此処で……死んではなりません」

「くどいぞ宇ーー」


 長官室に入ろうと宇垣を退かし最後まで言おうとした将和だったが後方から頭を鈍器か何かで殴られて転倒した。


「長官、御無礼を……ですが長官はまだ死ぬ運命ではありません」

「うが……」


 将和を殴ったのは宇垣だった。しかも自身の短剣で将和を殴って脳震盪を起こさせたのだ。将和は直ぐに松田らに抱き抱えられる。


「宇垣司令官も……」

「俺はいい、俺が長官の代わりに残る……もうそろそろだからな」


 松田の言葉に宇垣は負傷した腹を見る。包帯を巻いている腹から再び出血が起こりそれを見た松田は宇垣の最期を見届けようとした。


「宇垣司令官、最後に何かくれませんか?」

「……こいつをやろう。三好長官を殴った短剣だ、値打ちはつくさ」


 宇垣はニヤリと笑いながら従兵に短剣を渡し、一人で長官室に入る。


「長官……ありがとうございました」


 そして宇垣はゆっくりと扉を閉めて中から鍵が掛けられたのである。


「宇垣ィィィィィィィーーー!!」


 松田らに抱き抱えられ退艦させられる将和は閉められた長官室を見ながら思いっきり叫んだのであった。


「総員退去ォ!!」

「総員退去ォ!!」

「総員退去ォ!!」


 各所で総員退去が発令された。兵達は持ち場を放棄して海面に飛び込む者、最期は大和に残ろうと逆に艦内に入る者、道が塞がれ脱出が出来ず最期の時を過ごす者等々がいる。

 脳震盪から回復してきた将和も松田らと共に海面に飛び込んだ。


「長官、あのカッターに!!」


 既にカッターが海上で待機していた。将和はカッターに向かって泳ぐも一機のF6Fが急降下してきた。


「マズイ!?」


 将和は咄嗟に息を吸い込んで海に潜る。F6Fは海面に漂う乗員に向かって機銃掃射を始めたのである。


「NO!? 今すぐやめさせろ!! 撃ち落としても構わん!!」


 それをインディアナポリスの艦橋から見ていたスプルーアンスは吠えた。機銃掃射したF6Fは数回機銃掃射をして引き上げたのである。


「おい君、しっかりしろ」

「あ、ありがとうございます……」


 将和は力尽きかけていた一人の水兵をもう一人の水兵と共に救助していた。そこへ駆逐艦長波・高波が救助に駆けつけ将和らは長波に救助されたのである。

 その間、米艦隊は砲撃してくる事はなかった。というよりもスプルーアンスとオルデンドルフが砲撃を停止させていたからだ。

 そして大和は誘爆を繰り返しながら右舷からゆっくりと波間に没していくのであった。時に0815でありその様子を将和は長波の艦橋から敬礼で見送っていた。


(宇垣………)


 将和は大和に残った宇垣を思い浮かべながら静かに涙を流すのであった。

 その後、将和は出雲へ移譲して出雲に長官旗が掲げられた。出雲に長官旗が掲げられた事でスプルーアンスは安堵の息を吐いた。


(彼処でアドミラル・ミヨシが死んでいたら復讐に燃えるジャップに全滅させられるところだった……)


 既に残存空母から建て直した事の報告を聞いたスプルーアンスは航空戦力の援護でもう一撃だけ与えようとした。しかし、それに立ちはだかったのは薩摩以下の二艦隊だった。


「今のうちに退避すべし」


 南雲は出雲に打電、出雲艦長の阿部大佐や松田も賛成だった事で艦隊は撤退を選択した。既に上陸船団も壊滅しており目的も達していたからだ。一艦隊は撤退を開始するが、薩摩以下の二艦隊は尚も戦場に踏み留まった。


「三好長官の一艦隊を無事に撤退させるまで踏み留まるぞ」


 そして薩摩とミズーリの最期の戦闘が開始される。薩摩は最初から突撃して至近距離でミズーリと殴り合いの砲戦を開始、砲撃を連打されたミズーリは大破するも負けじと撃ち返して薩摩を大破炎上させた。二艦隊が稼いだ時間は僅か17分だったがそれでも貴重な時間でありスプルーアンスも追撃をやめる事にしたのである。


「南雲長官、退艦を……」

「一艦隊は無事に撤退出来ただろうか……?」

「えぇ、どうやらそのようです」


 薩摩艦橋では被弾の衝撃で床に倒れた南雲中将に大森少将はそう答えた。見れば応急手当した両足から再び出血が始まっていた。


「ならもう思い残す事はないな」

「長官!?」

「米艦隊との艦隊決戦で死ねるのだ。満足して逝きかけてる人間をいまさら呼び戻さんでくれんかね」


 大森の言葉に南雲はにこやかに笑った。


「申し訳ありません長官。長官を置いて退艦など……」

「そう嘆くような事でもあるまい。何せ米艦隊と戦えたのだからな」


 南雲はそう言って息を引き取ったのである。その後、大森達が退艦するのを待っていたかのように薩摩もゆっくりと波間に消えていったのである。


「……我々も戻ろう。残った空母を率いて真珠湾に戻らねばならん」


 そう言うスプルーアンスだったが、残存空母群も接近してきた第一機動艦隊から三波の攻撃で全て撃沈されるのであった。







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メルカッツだね
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