第百十二話
今日二回目
「おい伝令!! これを急いで艦橋に持って報告しろ!!」
「はい!!」
空母大鳳の電信室で電文を書いた通信兵が伝令に渡し通信兵は更なる通信電文を解読する。それを尻目に伝令は電信員から出て駆け足で艦橋に赴く。
「ッ!?」
艦橋に通じる飛行甲板に出た瞬間、伝令は顔に黒煙を浴びた。否、両用砲が発射した砲弾の火薬の燃えカスである。
頬に感じる熱さを手で拭う。大鳳の周囲は対空砲火の真っ最中であった。伝令は頭を低くして艦橋に駆け上った。
「報告!! 第二次攻撃隊から電文です!!」
「読め!!」
「『我、大型空母3、軽空母3ヲ撃沈セリ』以上です」
「長官……」
伝令が艦橋を出る中、草鹿の言葉に山口はただ頷いた。
「此処を切り抜けるぞ」
第一機動艦隊は今、第五艦隊から放たれた攻撃隊に襲われていた。第一機動艦隊は戦闘機440機、艦爆160機、艦攻390機の攻撃隊に襲われていたのだ。
「左舷からアベンジャー雷撃機!!」
「撃ち落とせェ!!」
大鳳の左舷から護衛艦艇の対空砲火を潜り抜けたTBF五機が大鳳に雷撃しようとしていた。しかし、対空射撃で三機が撃墜され魚雷を投下するも回避された。
「やはり多いか……」
山口は苦虫を潰したかのような表情をしつつ上空を見る。上空は日米の航空機が入り乱れていた。
第一機動艦隊は第五艦隊からの攻撃隊が上空に来る前に第一次攻撃隊の戦闘機隊193機と喪失の代替として送った陣風137機を上空に上げる事に成功していた。
現に戦闘機隊はF6FとF4Fに空戦を展開していたが何せ数が多すぎたのである。
攻撃開始から10数分、まだ被弾はしていない第一機動艦隊だが被弾するのは時間の問題である。
(恐るべきは米国の工業力か……)
米国の底力を見せつけられた山口、そして遂に爆発音が鳴り響いた。
「阿蘇被弾!!」
大鳳の後方で対空射撃をしていた空母阿蘇は上空からのSB2C 6機による急降下爆撃により1000ポンド爆弾四発が命中、阿蘇は瞬く間に炎上して発着艦が不能となり空母としての機能を現時点で喪失した。
「右舷に雷撃機!!」
「おもぉーかぁーじ!!」
炎上する阿蘇にTBF 14機が襲い掛かる。阿蘇は懸命に回避運動をし6機目までは回避に成功するもそこが限界だった。
「衝撃に備えろォ!!」
阿蘇の右舷に魚雷五本が命中、阿蘇はあっという間に大傾斜をする。
「総員上甲板!! 急げ!!」
グズグズしていたら沈没の渦に巻き込まれてしまう。阿蘇艦長は即座に総員上甲板を発令、開戦時から空母機動部隊を支えていた和製エセックス級の雲龍型最初の喪失艦となってしまう。
そして次に狙われたのはその近くを航行していた笠置であった。笠置は最初に魚雷二発を食らい浸水で速度が22ノットまで低下、そこをSB2C 8機の急降下爆撃に襲われ六発が命中。
止めを刺すように再度TBF 11機が襲い掛かり魚雷四発が命中して阿蘇の後を追うように波間に没するのである。
「いきなり二隻喪失か……(これだけの戦力で護衛していても……か)」
報告を受けた山口は拳を強く握り締める。この時、第一機動艦隊は以下の編成であった。
第一機動艦隊司令長官 山口多聞中将
第一航空戦隊
加賀 天城 大鳳 神鳳
第二航空戦隊
飛龍 雲龍
第五航空戦隊
翔鶴 瑞鶴
第六航空戦隊
蓬莱 葛城 笠置(喪失) 阿蘇(喪失)
第七航空戦隊
生駒 鞍馬
第八航空戦隊
蔵王 飯盛 信貴
第一防空隊
祥鳳 瑞鳳
第二防空隊
千歳 千代田
第三戦隊第一小隊
河内 因幡
第七戦隊第一小隊
最上 三隈
第八戦隊
利根 筑摩
第一護衛戦隊
五十鈴 名取
第二護衛戦隊
阿武隈 由良
第三護衛戦隊
大淀 多摩 木曾
第一水雷戦隊
阿賀野
第6駆逐隊
響 暁 雷 電
第7駆逐隊
潮 曙 漣 朧
第10駆逐隊
秋雲 風雲 巻雲 夕雲
第17駆逐隊
谷風 浦風 浜風 磯風
第三水雷戦隊
那珂
第19駆逐隊
綾波 敷波 浦波 磯波
第20駆逐隊
夕霧 朝霧 狭霧 天霧
第27駆逐隊
時雨 白露 有明 夕暮
第29駆逐隊
初夏 初秋 早春 初梅
第51駆逐隊
島風 千草 八重桜 若桜
第61駆逐隊
秋月 照月 涼月 初月
第62駆逐隊
新月 若月 霜月 冬月
第63駆逐隊
春月 宵月 夏月 満月
第64駆逐隊
花月 山月 浦月 朝東風
第66駆逐隊
大風 東風 西風 南風
第67駆逐隊
北風 早風 夏風 冬風
特に秋月型防空艦を24隻も揃えており防空能力は格段に向上しているはずだった。
(それでも奴等はやってきた。我々が想像しているよりも遥かに機体の防御能力は上なのだろうな……)
そう思う山口である。山口が休む暇を無く更なる悲報が舞い込んでくる。
「祥鳳左舷に魚雷命中!! 行き足止まった!!」
第一防空隊の軽空母祥鳳は爆弾八発、魚雷三発を食らい大傾斜していた。遅かれ早かれ沈没するのは誰から見ても不自然ではなかった。
そこへ艦橋に備え付けられた電話がジリリリリンとなり艦橋付伝令が電話を取り、内容を大声で発する。
「千歳、沈没する!! 霜月、航行不能ォ!!」
第二防空隊の軽空母千歳は魚雷七発、爆弾三発が命中し耐えられなかった。第62駆逐隊の霜月は魚雷が艦尾に命中して機関室に浸水、速度を維持出来なくなり艦隊から徐々に離れていく事になる。
「耐えろ……耐えるんだ。此処を耐えれば必ず我々が勝つ」
対空砲火があちら此方で放たれる中、山口の言葉はふと草鹿の耳に届く。
「……大丈夫です。彼等を信じましょう」
草鹿の言葉に山口は無言で頷くのであった。だがそれを嘲笑うかのように被害報告は次々と舞い込んでくる。
「護衛巡多摩、沈没!!」
「左舷に魚雷!!」
「とぉーりかぁーじ!!」
対空射撃を潜り抜けた6機のTBFが大鳳の左舷に接近、距離850で魚雷を投下したのである。
「間に合うか……」
飛び去るTBFを見つつ呟く山口だが見張り員からの叫びに驚愕する。
「ご、護衛巡名取が!?」
「なッ!?」
いつの間にか名取が最大戦速で大鳳側左舷との距離150まで接近してきた。その意味は大鳳の代わりに魚雷を受ける事だった。
「衝撃に備えろォ!!」
名取の左舷に六発の水柱が吹き上がった。艦年齢的に名取が耐えられるわけはなく、左舷はほぼ吹き飛ばされた名取は被雷してから僅か9分で波間に没したのである。
(……済まん……)
名取の犠牲で大鳳は助かった。今はそう思うしかない山口であった。
「筑摩沈降!!」
開戦時から機動部隊を支えていた利根型甲巡の二番艦筑摩は艦尾に魚雷二発を食らい、艦尾はほぼ水没していた。筑摩も総員上甲板が発令されており沈没は必然的だった。
「耐えるんだ」
再度そう呟く山口であった。
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