第百十一話
時間は少し巻き戻る。第一機動艦隊が戦闘機隊の第一次攻撃隊を発艦させた後、第一機動艦隊に忍び寄る艦がいた。
「……いやがった、ジャップの機動部隊だ!?」
山口中将の第一機動艦隊を発見したのはガトー級潜水艦のアルバコアであった。アルバコアは直ぐに通報しようとした。この時は距離が離れていたので逃走出来る可能性があった。
しかし、第一機動艦隊はアルバコアがいる方向に舵を切ってしまう。これによりアルバコア艦長は雷撃を決断してしまう。また、近くには同級艦カヴァラも潜航していた。
「雷撃用意……」
アルバコアは艦首の魚雷発射管に六本全部を発射しようとしていた。狙っていた大型空母ーー大鳳の右舷1600のところでアルバコアは駆逐艦響が発した一式水中探信儀に探知されたのである。
「しまった!? 急速潜航ォ!!」
同時刻には別の場所でもカヴァラも駆逐艦浦風に探知されていた。
「敵潜水艦を発見!!」
「対潜戦闘ォ!!」
アルバコアを発見した響は搭載している四連装一式対潜噴進砲が発射され目標海域に着弾、次々に爆発していき水柱が噴き上がる。更に海域に到着した響と僚艦の電は三式爆雷を大量に投下していく。
「どうだ?」
爆発が収まると目標海域から木片や浮遊物、食糧、遺体等が浮かんできた。撃沈の証であった。浦風らも谷風等と協同でカヴァラを撃沈していたがカヴァラは直前に浮上して最大出力で第一機動艦隊発見の報を発信して撃沈されたのである。
「発見されたか……」
「遅かれ早かれ……ですな」
山口と草鹿はそう話す。
「敵機動部隊との距離は?」
「凡そ180海里まで縮まりました」
「内藤」
「母艦飛行隊の第一次攻撃隊はいつでも行けます」
山口の言葉に内藤航空参謀はそう返して山口は満足げに頷いて発した。
「第一次攻撃隊発艦!! 始めェ!!」
飛行甲板で待機していた第一次攻撃隊は直ちにカタパルトで発艦していく。陣風180機、彗星240機、流星240機、彩雲6機で計666機の攻撃隊は一路敵機動部隊へ目指すがその中には勿論将弘もいたのである。
そこへ通信兵が電文を持ってきた。
「第一航空艦隊の攻撃隊より入電!!」
「読め」
「はっ!! 『我、敵大型空母ヲ撃沈セリ』」
野中中佐の攻撃隊は第五艦隊の攻撃を終えて帰還途中だった。
「いやぁやられたやられた。機動艦隊に連絡はしたな?」
「勿論でさぁ親分」
野中の問いに電信員はそう答えた。第一航空艦隊の攻撃隊は多数の機体を失いながらもその任務をほぼ果たしていた。
攻撃隊は正規空母であるランドルフ、フランクリン、ベニントン、バンカー・ヒル、アンティータムの五隻と軽空母ベロー・ウッド、カウペンス、カボット、バターン、サン・ジャシントの五隻を撃沈し護衛艦艇も防空巡のサンファン、軽巡ビロクシー、サンタフェ、駆逐艦11隻を撃沈している。
また、それに伴いハリル少将の第四機動群は空母を全て喪失して壊滅している。
しかし、野中達の被害も大きかった。護衛の陣風49機、マリアナの紫電改58機、橘花18機、一式陸攻95機、銀河66機を喪失していた。
(頼むぞ母艦屋、勝利の是非はお前らに一番掛かっているんだ)
野中は心中、そう思うのである。
「直ちに攻撃隊を出せ!! ターナーの第51任務部隊からも出させろ!!」
重巡インディアナポリスの艦橋でスプルーアンスは吠える。
「やられたまま……今度は此方のアタックだ、いつまでも自分達のターンだと思うなよアドミラル・ミヨシ!!」
第五艦隊は生き残っている各空母と第51任務部隊の攻撃隊を出させた。目標海域は今は亡きカヴァラが示しているのだ。
この時、第五艦隊からはF6F 120機、SB2C 160機、TBF 180機が発艦。第51任務部隊からはF6F 50機、F4F 270機 、TBF 210機が発艦している。
だが第五艦隊も攻撃隊を送り出した直後に対空レーダーが接近してくる編隊を探知したのである。
「ジャップの第二次攻撃隊です!!」
「ターナーからも戦闘機を持ってこい!! 何ともしても阻止するんだ!!」
二派に及ぶ陣風と紫電改隊との空戦でF6F隊は大きく消耗していた。だがそれでも攻撃隊が到達した時には170機のF6Fを上空に上げていたのである。更には後発としてF4F 60機も後に到着する。
その中で、第一機動艦隊から放たれた攻撃隊が殺到するのである。
「まだいやがるな……攻撃隊には近づけさせるな!!」
制空隊隊長の新郷少佐はそう発して列機を率いて米戦闘機隊に突撃を開始する。それを尻目に総隊長の村田中佐は突撃命令を発した。
「全軍突撃せよ!! 三好隊は左舷に回れ!!」
『了解!!』
村田から命令を受けた将弘は飛龍の艦攻隊を率いて左舷に展開する。第五艦隊は対空砲火を撃ち上げるが先の第一航空艦隊と同じく彩雲隊が上空に侵入してチャフが積載された燃料タンクを投棄してレーダーの目を喪失させる事に成功する。
「行くぞ!!」
翔鶴の彗星隊を率いる垂井少佐は至近にいた第三機動群の空母エンタープライズ2を狙おうとするが直後に両用砲弾が彗星を直撃して垂井機は爆発四散するのであった。
『垂井少佐、戦死!! 指揮を引き継ぐ!!』
「……クソッタレ……」
無線から流れる情報に将弘は操縦桿を強く握る。
「高度を下げる!! 突撃するぞ!!」
将弘は左舷からエンタープライズ2に迫る。それに気付いた護衛艦艇が懸命に対空射撃をするがチャフの効力で成果は芳しくない。
『隊長!! 空母上空!!』
結城一飛曹の叫びに将弘はエンタープライズ2上空を見ると十数機の彗星が機体上下反転背面からの急降下爆撃を敢行していた。
急降下中に対空砲火で数機が火を噴いて落とされるも残った彗星は500キロ爆弾を投下して離脱する。
そしてエンタープライズ2の飛行甲板に突き刺さり格納庫でその力を解放したのである。
「四発命中か!! 此方も負けてはいられんな!!」
『距離1100!!』
将弘の中隊も数機の流星を失いながらも距離700で魚雷を投下したのである……かに見えた。
『すいません!! 投下策故障!! 魚雷投下出来ず!!』
三番機の栗山中尉機が魚雷投下を出来なかった。それでも五本の魚雷は走っていた。将弘の中隊は離脱しようとエンタープライズ2上空を通り過ぎた時、三番機の栗山機が左主翼付け根に砲弾の破片を食らい火が噴いたのである。
「栗山!?」
『お前らは脱出しろ!』
栗山機から偵察員と機銃手が脱出して落下傘を開くが栗山は脱出しなかった。
「栗山!?」
『此処まで来たんです、後は任せました!!』
「待て栗山!! 不時着しろ!!」
『へへ、腹にも食らってますんで……御代はこいつから貰いますよ!!』
栗山機は一旦上昇旋回をしてから急降下を開始、栗山に狙われた空母エンタープライズ2は対空砲火を撃ち上げるが機体が炎上しながらも栗山は絶妙に回避していた。
「何がマジックヒューズだ!! さっさと落とせこの野郎!!」
「シット!! ぶつかるぞ!!」
「掴まれ!!」
エンタープライズ2の乗員達も栗山が体当たりする事に気付いて退避する。
『隊長……ありがとうございました………!!』
「栗山ァァァァァァ!!」
そして飛行甲板に栗山機は激突、一瞬の間を置いて搭載していた航空魚雷が爆発したのである。更に左舷に魚雷5発が命中、エンタープライズ2は完全に止めを刺されたのであった。
「栗山……」
波間に急速に没していくエンタープライズ2を見ながら将弘は涙を流しながら敬礼をするのであった。
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