第百十話
「どうやらサイパン島等から飛来した味方戦闘機と空戦中の模様です」
「ハッハッハ、そいつは御苦労なこった!!」
四式重爆撃機として採用された『連山』の機長席に攻撃隊指揮官の野中中佐はお茶を飲みながら笑う。
「それに機動艦隊からの護衛も頼もしいじゃないか」
てっきり、ヤップ島に配備されていた戦闘機も付いていくと思っていたが成る程。機動艦隊からなら体力の温存も出来る。
「するってぇと……機動艦隊からの攻撃の時はヤップ島の護衛隊が燃料補給で降りるというやつか……三好の親父が考えそうなこったな」
野中は将和の思考を思い付きニヤリと笑う。
「野郎ども!! もう少しで敵機動部隊だ!! 奴等の土手っ腹に風穴を開けてやるぞ!!」
そう発破を飛ばす野中であった。その頃、第五艦隊上空では日米の戦闘機が激しい空戦を展開していた。
「こいつで三機目!!」
第343航空隊飛行隊長の笹井少佐はF6Fを20ミリで撃墜する。
「全く、新型の銃弾様々だな」
笹井は落ちていくF6Fを見つつそう呟く。笹井が乗る紫電改は元より陣風等の20ミリ機銃は銃弾に空気式信管のマ弾や炸裂弾、焼夷炸裂弾等を搭載して敵機の被害を大きくさせていた。
『隊長、そのまま!!』
二番機の太田少尉の言葉と共に笹井が後方を振り返ると一機のF6Fが発動機から火を噴きながら落ちていた。
「済まない太田」
『いえ、一機貰いました』
笹井達台南航空隊はラバウルから内地へ一旦戻り、新たに紫電改を装備する第343航空隊へ編入されていた。
343空は定数各54機の三個飛行隊と彩雲の偵察第四飛行隊で編成されておりサイパン島の航空隊の中核を成していた。それでも機動部隊航空隊との激戦で稼働機を減らしていたが今回の攻撃には88機で参加していた。
『此方戦闘301菅野!! 落としても落としてもそこら中から湧いて来ますよ!!』
「ハッ!! 苦しい事を言うな菅野!!」
『そうですぜ菅野隊長、むしろポジティブに考えるんです』
『そうそう、撃墜数が増えると考えるんですよ』
戦闘301に所属する坂井と武藤はそう言いながらも僅か一連射でF6Fを撃墜する。
「いいか!! 少しでも多くのグラマンを落として攻撃隊の負担を軽減させるぞ!!」
『オオオォォォ!!』
彼等は再び空戦を開始するのである。その空戦を見つめるスプルーアンスの表情は芳しくなかった。
「……此処までとはな……」
スプルーアンスの後方では第四機動郡は未だに炎上していて黒煙を上げている。そしてレーダー員からの報告に再度顔を歪めた。
『敵攻撃隊接近!! 凡そ700機余り!!』
野中少佐率いる攻撃隊が漸く到着したのである。
「制空隊、突入するぞ!!」
制空隊隊長の志賀芳雄少佐(加賀乗組)はバンクを振りながら降下を開始する。志賀少佐機の後方には二番機の松葉少尉もしっかりと降下している。志賀少佐は降下先にいたF6Fに素早く照準を合わせて発射レバーを引く。
ドンドンと20ミリ機銃の衝撃を志賀少佐は感じつつ機銃弾はF6Fに吸い込まれていき命中、F6Fは瞬く間に火を噴いて落ちていく。
「流石は陣風、グラマンにも十分対抗可能だな」
志賀少佐はニヤリと笑いつつも空戦を眺める。瑞鶴飛行隊乗組の岩本中尉も空戦に参加していた。
「こいつは一撃離脱だな」
岩本中尉は無茶な空戦はやめて手当たり次第敵機を見つけたら機銃弾を叩き込んでいた。しかもちゃんと命中させて落としていたから岩本中尉の射撃はピカ一である。
このように制空隊の活躍により一時的に防空網に穴が開いた。いくら常時500機以上のF6Fが第五艦隊上空に在空してもそれまでマリアナ諸島での戦いでパイロットを大量喪失しておりその枠を飛行時間が短いパイロットが埋めていたのだ。そこを叩けば自ずと穴は開く。その開いた穴を攻撃隊は見逃さなかった。
「行くぞ!!」
先に第五艦隊上空に侵入したのは彩雲隊6機である。高度6000にて侵入した彩雲隊は両翼に搭載していた燃料タンクを二つずつ投棄する。その燃料タンクは落ちていく中程でパカッと割れてその中から大量のアルミ箔が散布されたのだ。
所謂『チャフ』である。
「オーマイガ!! レーダーが使えない!!」
第五艦隊のレーダー員は罵倒する。チャフの投棄によりレーダーは真っ白く染まり全く使えなくなったのだ。第五艦隊の対空砲火が著しく低下したのを野中は見逃さなかった。
「今だ!! 『枝垂桜』投下用意!!」
「準備良し!!」
高度1200で連山の爆撃倉が開き中から大型の魚雷らしき物(場合によっては航空機にも見える)が見えた。
「投下!!」
チャフの欺瞞で稼ぎつつも対空砲火を受けながら連山隊30機は大型の魚雷らしき物ーー四式空対艦誘導噴進弾『枝垂桜』を投下した。
投下された枝垂桜は数十メートルを降下後にヴァルター機関の特呂二号四型液体ロケットが点火して一気に第五艦隊へ向かった。
「な、何だあれは!?」
スプルーアンスが驚く中、枝垂桜は無線誘導により炎上していた空母アンティータム等々に命中した。枝垂桜を四発命中したアンティータムはこれが致命傷となり誘爆を繰り返しながら後に波間に没するのである。
「報告!! 第一機動群フランクリン、ランドルフ、ベロー・ウッド等々にロケット弾命中!!」
「………」
報告にスプルーアンスは愕然とした。30発の枝垂桜は結果として空母フランクリン、ランドルフ、バンカー・ヒル、ベニントン、ボクサー、軽空ベロー・ウッド、カウペンス、カボットに命中した。弾頭重量が1000キログラムもある枝垂桜に軽空母は耐えられるわけもなく瞬く間に誘爆で炎上し手が付けられない状況となり波間に没する事になる。
だが、これはまだ連山隊の攻撃が終わったに過ぎない。まだ上空には一式陸攻隊と銀河隊が攻撃していないのだ。
「全軍突撃せよ!!」
一式陸攻隊指揮官の入佐少佐はそう命令を発するのみである。同じく銀河隊指揮官の江草中佐も500キロ爆弾を銀河の腹に搭載して高度3000からの急降下爆撃を敢行した。銀河隊が狙ったのは枝垂桜の攻撃で炎上している空母群であった。
「レーダーはまだ使えないのか!?」
「まだ欺瞞紙が飛翔しています!!」
先に投棄した欺瞞紙はまだ上空を飛翔しているが更に4機の彩雲が上空に侵入して先と同様に欺瞞紙を投棄しVT信管の動きを抑えたがそれでも完全にではなくやられる機は少なくともある。
「撃ェ!!」
炎上している空母ランドルフに江草中隊は500キロ爆弾を投下、4機が撃墜され二発が外れたものの三発が命中しランドルフはこれが致命傷となった。
「目標敵空母!! 『トツレ』を打て!!」
入佐少佐の中隊は第五艦隊の左舷側から突入する。電信員がトツレを発信する中、中隊は海面スレスレとも言える高度10メートルである。
また、別の中隊ではとあるパイロットの具申により高度3~5メートルで飛行していた。
「『ト連送』を打て!!」
電信員が繰り返しトを打つ。尾部機銃手が叫ぶ。
「七番、九番爆発!!」
それでも入佐中隊は空母ハンコックに距離700で必殺の魚雷を投下した。
「いっけェ!!」
離脱しようとする直後、入佐機は両用砲弾が右発動機に命中し右主翼がもぎ取られた。そして仰向けに回転しそのまま海面に激突するのである。
入佐中隊が投下した魚雷七本もハンコックを守るために側面に出た軽巡ビロクシーが楯となりビロクシーは魚雷七発が命中して轟沈するのである。
枝垂桜の性能諸元は追々載せます
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