第百九話
二話も出来た
「長官、遂にマリアナに来たようです」
第五艦隊、マリアナ襲来の報を将和が聞いたのは比島のタウイタウイ泊地だった。此処には聨合艦隊の南遣艦隊以外はほほ集結していたのだ。
「そうか……遂にか」
「それとGFから電文が来ています」
「………」
将和は草鹿から電文を受け取り一目してから草鹿に渡す。渡された草鹿は絶句した。
「第一機動艦隊司令長官から第一艦隊司令長官に転任するのですか!?」
「そうだ」
草鹿の発言に作戦室が騒ぎ出す。
「確かに一艦隊は前任の高須中将から一旦はGF預りとはなっていましたが……何故この時なのですか?」
「この時だからこそだよ草鹿」
そう言って将和は立ち上がる。
「一艦隊司令長官内定は前々から承諾していた。全てはマリアナで米艦隊を沈めるためだ」
「しかし……」
「ちなみに後任は山口、お前だ」
「ほぅ……」
呑気に草鹿の隣で饅頭を食べていた山口は目を細める。
「てっきり小沢さんとか思ってましたがね」
「あいつは南遣で手一杯だ。なら身近で探すとなると即断力があるお前しかいない。吉良だと何かと不安だしな」
「ハッハッハ、吉良ならそうでしょうなぁ」
将和の言葉に山口達は笑う。
「つまり、司令長官だけの交代ですか?」
「そうだ。それと三戦隊の岩代と薩摩を南雲の二艦隊に預ける」
「……成る程」
将和の意図に気付いた南雲中将はニヤリと笑う。
「山口、空母の全てをお前に預ける。思いっきりやってこい」
「……はいッ!!」
将和の問いに山口はそう返したのである。そして戦艦大和が第一艦隊旗艦に定められ、将旗が掲げられる。
「お待ちしていました三好長官」
「ありがとう松田」
第一艦隊参謀長に任命された松田千秋少将に出迎えられた将和は大和の作戦室に入ると一戦隊司令官の宇垣中将にも出迎えられた。
「お久しぶりです長官」
「宜しく頼むよ宇垣」
役者は揃った。将和は二艦隊と共にタウイタウイ泊地から出撃させるのである。一、二艦隊が出撃してから翌日にも山口の第一機動艦隊が出撃した。ちなみに旗艦は大鳳である。
「そうか、出撃したか」
横須賀のGF司令部で報告を受けた堀は頷く。
「後は……待つのみか」
「予想以上の被害だな」
第五艦隊旗艦インディアナポリスでスプルーアンスはサイパン島攻撃に向かった攻撃隊の被害報告を受け溜め息を吐いた。
「延べ1000機も出したのに被害は戦闘機139機、艦爆158機、艦攻162機か」
「ですが護衛空母からのピストン輸送で補えます」
「機体はな。だがパイロットは一朝一夕で補充は出来んよ」
参謀の言葉にスプルーアンスはそう言う。
「ですがサイパン島の航空戦力はほぼ叩きました」
確かにサイパン島の航空戦力は叩いていた。しかしそれでもなお、日本軍は200機余りの戦闘機を残していたのだ。また、サイパン島からも攻撃隊を出していたが第五艦隊上空には常時500機以上のF6Fが飛行していた上、第五艦隊が放つ対空砲弾にはVT信管が搭載されていた。
そのため、与えられた被害は軽空母ベロー・ウッドの中破くらいだった。
「アドミラル・ミヨシの機動艦隊も来るだろうが……なに、上空は500機以上のF6Fが待機しているし対空砲弾はVT信管だ」
ニヤリと笑うスプルーアンスである。それに前衛にはオルデンドルフ中将率いる戦艦部隊もいるのだ。心配があるとすれば一部の乗員がまだ未熟な事である。しかし、米艦隊は数の多さで押し切ろうと計り、21日7時15分にアメリカ軍は、第一波の大型上陸用舟艇70隻、小型100隻、LVT68両が、戦艦アイダホ・ミシシッピと巡洋艦バーミングハム・インディアナポリスからなる上陸支援艦24隻の支援射撃の下にチャラン・カノア南北の海岸に殺到したのである。
「奴等、勝った気でいやがる……」
「戦争を教えてやりましょう」
同海岸を守っていた日本軍歩兵2個大隊は直ちに上陸部隊に対し激しい集中砲火を加えた。特に九六式十五糎榴弾砲大隊(大隊長黒木少佐)は砲爆撃による損失は一門もなく、絶大な威力を発揮する事に成功した。なお、日本軍の激しい砲撃でLVT68両の内50両近くが撃破されているがそれでも米軍は上陸に成功した。
上陸に成功した米軍第二海兵師団は内陸部へ向かおうとしたがそれまでだった。
「突撃!! 奴等を蹴散らせ!!」
海岸に殺到したのは戦車第九連隊第五中隊と待機していた二個歩兵大隊であった。なお、第五中隊を率いていたのは少佐に昇進前だった三好将治だった。
しかも戦車第九連隊は新型の四式戦車が配備されており(指揮官戦車のみ)、四式戦車が放つ105ミリ戦車砲は強大だった。
海兵師団は37ミリ砲やバズーカで対抗したが四式戦車を先頭にした突撃に戦線は崩壊した。
海兵師団は四割の損失を出してしまうが艦砲射撃等の支援で追い返される事はなかったが、上陸地点からほぼ動けない状態だった。また、突撃した部隊も二個歩兵大隊はほぼ壊滅し第五中隊も将治が負傷した事で後退したのである。
互いに傷つきあったが、戦線は一時的に膠着した。その隙を突くように第一艦隊を筆頭に第一機動艦隊等はマリアナ沖へ侵攻した。時に5月23日の事である。
「敵機動部隊だ!?」
空母大鳳から飛び立った彩雲(千早大尉)が第五艦隊を発見したのは23日0732時。
「我が艦隊から約300海里です!!」
計算した内藤航空参謀の言葉に山口長官は即断した。
「ヤップ島に連絡!!」
300海里は遠かった。そのため、ヤップ島に待機していた陸攻隊に攻撃命令を出したのである。
電文を受けたヤップ島では直ちに攻撃隊を出した。その数は一式陸攻270機、銀河360機、連山30機で攻撃隊指揮官は野中少佐である。
しかし、電波を出した事で第五艦隊も第一機動艦隊の海域を特定した。
「直ちに迎撃隊を出せ!!」
第五艦隊から届くのは多少の無理があったがスプルーアンスは艦隊を進める事にした。第五艦隊は強大だったので多少の損害があると仮定しても問題はないと踏んだのだ。しかし、受け身に徹しようとし先に航空戦力を叩く事にしたのだ。
その一方で第一機動艦隊は第五艦隊に向かって前進していた。
「第一次攻撃隊発艦せよ!!」
「帽振れェ!!」
各空母から発艦していくのは戦闘機の陣風270機と誘導の彩雲4機だけであった。更にサイパンとパガンからも戦闘機と噴式戦闘機『橘花』も発進していた。
サイパンからは紫電改180機と疾風120機に橘花18機、パガンからは隼80機である。一番最初に到着したのは橘花隊18機である。
航続距離の関係からして帰ってくる事は出来ない筈だがそれでも彼等は出撃を懇願した。そのためパガンに待機していた水偵隊が彼等を救出する事にした。
それは兎も角、急速に接近してくる橘花隊にスプルーアンスは驚愕した。
「まさか……」
スプルーアンスが思い出したのはドイツで活躍するジェット戦闘機だった。そうだ、日本とドイツは同盟国なのだ。彼等が持っていたとしても不思議ではない。
そして彼等はやってきた。
「全機突撃!! 奴等の飛行甲板に穴を開けてやれェ!!」
橘花隊は腹に500キロ爆弾を搭載していた。流石に急降下爆撃は無理なので緩降下爆撃を敢行した。その分、対空砲火が激しくなるが降下してるので速度は増していた。この時の橘花隊は速度900キロで侵入、狙いを定めたのは近くを航行していた第四機動群であった。
「撃ェ!!」
18発の500キロ爆弾、空母アンティータムに三発、軽空母バターン サン・ジャシントにそれぞれ四発ずつが命中し残りは水柱を噴き上げた。
軽空母のバターンとサン・ジャシントは飛行甲板がめくり上がり発着艦不能となったのである。
アンティータムは中破で発着艦はまだ可能だったが第四機動群はほぼ使用不能となった。
「帰りの駄賃だ。出来る限り敵機を落としながら不時着海域まで戻るぞ」
橘花隊は更に空戦を展開、一撃離脱戦法をしながらF6Fを28機落としていくのであった。それでもまだ500機以上のF6Fが飛行していたのだ。
「何という……」
あっという間の出来事にスプルーアンスは暫し唖然とするのである。橘花隊と入れ替えにサイパン、パガンから発進した戦闘機隊が到着したのである。
「全機掛かれェ!!」
彼等は500機以上のF6Fに突撃するのであった。
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