第百六話
「武蔵らの喪失は痛いな……」
横須賀のGF司令部で堀長官は書類を見ながら溜め息を吐いた。
「宮様らも大分堪えたみたいだな……」
「あぁ。決戦用だった武蔵だからな」
将和は出されたお茶を飲む。
「だが向こうも手痛い損失を出している」
「戦艦だけでも五隻を撃沈している。暫くは動かんだろうな」
将和の予想は当たっていた。戦艦五隻を喪失した米太平洋艦隊は空母を護衛する戦艦が足りないとして出撃するのを拒んでいたのだ。
「白石と武蔵達の犠牲は無駄ではない」
「あぁ。決戦する時を稼いでくれたさ」
「それで決戦場所はやはりマリアナですか?」
「そうだな。そのための『あ号作戦』だ」
日本海軍はマリアナで全てを迎え撃つ用意をしていた。そのための兵力もマリアナへ投入していたのだ。
「第一航空艦隊は?」
「局戦隊の雷電や紫電改隊はサイパン、テニアン、グアム、パガンの各島々に配備し一式や銀河はヤップ島に配備しています」
サイパンだけでも陸海の戦闘機が500機近くが配備しており米軍の来航を待ち構えていた。
「ま、奴等には精々出血してもらうしかないな……」
そう言う将和だった。対してアメリカではルーズベルトが狂喜乱舞していた。
「グレイト!! 海軍はやってくれたようだな」
武蔵を沈めた事でルーズベルトは意気揚々としているがキングら海軍の者達は顔を青ざめている。
「しかしプレジデント……そのムサシを沈めるのに戦艦五隻を対価として必要でした」
「だから何だね? 戦艦や空母なんぞいつかは沈む。なら分以上に建造して配備すれば良いだけの事だよ」
キングの言葉にルーズベルトはそう答えた。
「そのためのモンタナ級であろう」
「ではプレジデント……初めから戦艦の喪失も視野に入れていたと……?」
「当たり前だ。被害が此処まで酷くなければモンタナ級も建造してはいないがな」
米海軍は史実と異なりモンタナ級の建造を42年から開始させていた。河内型が開戦前に41サンチとして公表していたので当初モンタナ級も41サンチだったが開戦後に大和型が46サンチを公表したので急遽三連装砲×三基案が可決されたのである。
今のところ、モンタナ級はモンタナと二番艦のオハイオのみでありそれ以降はまだ起工すらされていなかった。
「建造中のアイオワ級のケンタッキーとイリノイもそろそろか」
「はい、ですが突貫工事なので幾分かの不具合はあるかと……」
「それは仕方ない事だ。空母に関してはどうかね?」
「ミッドウェイ級も突貫工事ではありますが来年の4月には就役します」
「宜しい。その兵力を以てマリアナへ侵攻させる。無論欧州も休戦協定が解かれた瞬間に攻撃を再開だ」
そのためにルーズベルトは大量の兵力を欧州に送り込んだのだ。しかし、欧州軍にも懸念はあった。本格的にドイツ軍と交戦していないので交戦する際の対処の仕方が不足していたのだ。特にティーガー戦車等の対処は必須であった。
だがルーズベルトは欧州軍の被害報告書を見る前にこの世から消えてしまうのである。
44年12月、史実であればマリアナ沖で機動部隊は壊滅しレイテ沖で聨合艦隊が壊滅するがこの世界では依然として健在であった。
「漸く改装が終わったか」
将和は旗艦大鳳から改装が終わったばかりの加賀と天城を見ていた。
「旗艦を加賀に戻しますか?」
「いや……暫くは加賀に戻れそうにない」
草鹿の言葉に将和はそう答えた。
「では大鳳のままで……?」
「……時が来れば分かるさ」
草鹿の問いに将和はそう答えるのである。そして45年の年が明けた。
「将弘、お前もそろそろ身を固めてみたらどうだ?」
「あん……?」
たまたま将弘と家に帰って来れた将和は食事中に将弘に問う。なお、次男将治は満州だった。また将弘の隣にいたセシルは将和の言葉に固まっている。
「ほら、近所の志穂ちゃんとか……」
「貴方」
その瞬間、部屋の空気が一気に下がった気がした。(シャーリーの長男談)将和も嫌な予感がして言葉を発した夕夏を見ると夕夏は満面の笑みを浮かべて親指をサムズダウンさせた。
「死刑♪」
「」
何処かに連行される将和はさながら死んだ目をしていたとの事である。(シャーリーの長男談)
そんな事はさておき、1月8日に事件は起きる。
「プレジデント、しっかりしてください!!」
「……ウォレス……戦争を……戦争を終わらしてやってくれ……」
ルーズベルトが休戦協定が解かれる前に死去したのだ。後任は副大統領であるヘンリー・ウォレスが第33代大統領に就任したのである。なお、副大統領にはハリー・トルーマンが就任した。
「ルーズベルトが死去した事で情勢は変わるかね?」
海軍省でルーズベルト死去の報を聞いた宮様は煎餅を食べる将和に尋ねる。将和の頬に引っ掻き傷があるものの気にしない事にした宮様であった。
「まぁ、よっぽどの事が無い限り変わらんでしょうな。ウォレスも結局はアメリカが勝つまでは和平には動かんでしょう」
「成る程な……一応スイスからの窓口は存在しているし……」
「……保険はするべきですな」
そう言う将和である。そしてウォレスはというと……。
「やはりフォレージャー作戦はするべきかね?」
「はい。マリアナ諸島を攻略しませんと日本全体にB-29の爆撃範囲が拡がりません」
「今のキューシューまででは駄目なのかね?」
「今まで通りの成都からですとトーキョーには届きません。トーキョーにはエンペラー等も住んでいますので効果は絶大的です」
「むぅ……」
スチムソン陸軍長官の言葉にウォレスは唸る。
「他に懸念は?」
「アドミラル・ミヨシが出てくるのは予想済みなので被害が大きくなるという事です」
「……暗殺をしてみては?」
「アドミラル・ミヨシの権威と威光はエンペラー並です。また、イギリスにも盟友はいますので暗殺を不本意とは思うでしょう」
「……成る程な」
ウォレスは溜め息を吐いて書類を机に投げる。
「分かった、フォレージャー作戦は承認しよう」
「御英断、感謝します」
「はてさて……どう転ぶやら……」
そう呟くウォレスであった。
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