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第百四話







「敵攻撃隊はトラックに釘つけか……」


 トラック島からエニウェトク島方面へ急行していた戦艦武蔵の艦橋で艦隊司令官の白石少将はそう呟く。


「ですが我々は敵に向かっているので何れは発見されるでしょう」

「だろうな」


 この時、白石艦隊は以下の陣容で編成されていた。


 戦艦

 武蔵

 甲巡

 最上 三隅 那智

 乙巡

 球磨

 駆逐艦

 第12駆逐隊(叢雲 東雲 薄雲 白雲)

 第13駆逐隊(磯波 浦波 綾波 敷波)

 第20駆逐隊(朝霧 夕霧 天霧 狭霧)


「しかし退避しなくて良かったので?」

「環礁内では間に合わん。それなら敵艦隊に向かう方が良い」

「それはそうですが……」


 参謀長の小柳少将は何とも言えない表情をするが自身も判断が付かなかったのでそれ以上は追及しなかった。そして対空電探が程なくして米偵察機を探知するのである。


「一時間……二時間くらいか……トラックの戦闘機隊も壊滅はしていないだろう。応援を頼めばいけるだろう」


 白石はそう言うがトラックも予想外な事になっていた。


「駄目です、滑走路の修復には時間が掛かります!!」

「クソ!!」


 司令部で小林中将は机を叩く。四波に及ぶ空襲でトラック島の滑走路は夏島の一本を残して叩かれていた。

 その一本もトラック島上空への戦闘機隊を上げるのに精一杯であった。


「間に合ってくれ……」


 その小林の願いは届かなかった。武蔵の対空電探は100機以上の敵攻撃隊を捉えていた。


「対空戦闘用意」

「対空戦闘用意!!」


 艦隊に対空戦闘用意の喇叭が鳴り響き、12.7サンチ両用砲、40ミリ連装機銃、25ミリ機銃が上空に砲身と銃身を向ける。


「……来るぞ……」


 25ミリ単装機銃に弾倉を装填した水兵がそう呟く。上空にいた零戦隊は既に交戦中であるが数は向こうが有利だった。


「砲撃始めェ!!」

「主砲三式弾、砲撃始めェ!!」


 対空砲弾である三式弾を武蔵が前部三連装二基で砲撃する。

 六発の砲弾は敵攻撃隊のど真ん中で炸裂し貫かれた機体は次々と墜落していく。


「射撃開始ィ!!」


 全艦が射撃を開始し敵攻撃隊を寄せ付けないように行うがそれでも弾幕射撃の隙間を突いて敵攻撃隊は殺到したのである。


「左舷にアヴェンジャー雷撃機三機!!」

「とぉーりかぁーじ!!」

『とぉーりかぁーじ、ヨォーソロォー!!』


 武蔵艦長の朝倉大佐は必死の回避運動で回避していく。巨体である武蔵を自身の手足のように動かしていた。それでも避けきれない時はある。


「左舷後部に魚雷一命中!!」

「応急急げ!!」

『右舷二番両用砲被弾!! 衛生兵をォ!!』


 しかも被害は武蔵だけではない。


「三隅被弾!!」


 武蔵の前方を航行していた甲巡三隅は1000ポンド爆弾三発が命中して炎上していた。しかもそれを逃さずに雷撃隊が右舷に群がり三隅の右舷に水柱が二本噴き上がったのである。


「三隅被雷!! 速力低下!!」

「取舵!!」

「とぉーりかぁーじ!!」


 速力が落ちた三隅を回避するために武蔵は取舵を切る。三隅は右舷に舵を切り離れようとするがそこへ全速で突っ込んでくる艦艇がいた。


「も、最上が!?」

「何!?」

「取舵一杯!!」

「駄目です、間に合いません!!」


 そして二隻は衝突した。最上は艦首付近を三隅は一番砲塔右舷側を破損したのである。


「機関後進一杯!!」

「修理急げ!!」


 衝突した二隻は急いで離れようとするが敵攻撃隊は二隻に狙いを定めて殺到したのである。

 結果として最上は爆弾五発、魚雷四発。三隅は爆弾二発、魚雷三発が命中しこれが両艦の致命傷となった。また、武蔵も爆弾五発、魚雷七発が命中して速力が22ノットまで低下していたが戦闘に支障はなかった。

 敵攻撃隊が引き上げる時に二隻は大傾斜しており総員上甲板が発令されていた。


「最上と三隅、軍艦旗収容しました」

「救助の駆逐艦を残して後は前進するぞ」


 白石は損傷が酷い駆逐艦と二隻の救助用駆逐艦を残して前進を決断する。一方で米艦隊もトラック島攻撃隊等の着艦に追われていた。


「トラックは叩いたが予想以上の被害だな……」


 新編された第58任務部隊司令官のマーク・ミッチャー中将は未帰還機の報告に顔を歪めていた。四波も出したトラック島攻撃隊は戦闘機89機、艦爆106機、艦攻96機を喪失していたのだ。


「それとヤマト型が接近してきます」

「……戦艦には戦艦を使う」


 ミッチャーはそう言って旗艦バンカー・ヒルの付近を航行している戦艦アイオワを見る。

 第58任務部隊は空母の護衛として戦艦八隻(アイオワ ニュージャージー ミズーリ ウィスコンシン ノースカロライナ マサチューセッツ アラバマ インディアナ)を用意していたのだ。


「そうか、そいつは素敵なパーティーになるな」


 戦艦部隊を率いる司令官のオルデンドルフ少将は参謀長のディヨー少将と共にニヤリと笑う。此方は七隻も戦艦がいるのだ、いくらヤマト型であろうと粉砕してやるという意気込みが入っていた。オルデンドルフ少将は護衛艦艇と共に第58任務部隊から離脱して前進、目指すは白石艦隊であった。

 そして両艦隊が衝突したのは夜半の2321であった。


「確かに敵艦隊なんだな?」

「はい、間違いありません!! 大型艦12、うち7は超大型艦隊です!!」

「司令官」

「……合戦準備!! 戦艦だ、戦艦が七隻もいやがるぞ、面白くなってきた!!」


 白石艦隊は俄に騒がしくなり始める。そして球磨以下の水雷戦隊が敵艦隊へ突入を開始する。直後に武蔵と那智は零水偵を発艦させた。


「突撃する!! 照明弾、撃ェ!!」


 球磨艦長の杉野修一大佐はそう叫び、12.7サンチ連装両用砲から照明弾が撃ち上げられオルデンドルフ艦隊が映し出される。勿論、オルデンドルフも突撃する水雷戦隊に対処していた。


「此方も水雷戦隊を出せ、奴等のロングランスを食らうわけにはイカンからな」


 米艦隊も軽巡三、駆逐艦9を出して対抗する。そして両艦隊は互いに距離42000となった。


「最大射程距離から砲撃する!!」

「水偵が吊光弾を投下!!」

「おぉ、見事な背景照明だ……」

「砲撃諸元入力急げェ!!」


 武蔵は右砲戦を展開、46サンチ三連装砲三基は砲を右舷に旋回させる。


「砲撃準備完了ォ!!」

「砲撃始めェ!!」

「撃ちぃ方始めェ!!」


 砲撃の先手を取ったのは武蔵だった。武蔵は距離42000で砲撃を開始した。狙ったのは米艦隊の先頭を行く戦艦インディアナであった。インディアナの周囲に砲弾が着弾するが最初から近弾であった。


「次で当てるぞ!!」


 初弾が近弾だった事に砲術長はニヤリと笑い再度照準を合わせて引き金ーー第二斉射を放つがこれも近弾であった。そして第三斉射目でそれは来た。


「命中!! 命中!!」


 距離36000で武蔵はインディアナに命中させたのである。インディアナは二番砲塔を貫通され、一番砲塔も衝撃で旋回不能となり早々と砲戦能力は極端に低下したのである。

 しかしインディアナは自身が被害担当艦となる事を選び三番砲塔は砲撃を開始するが再びインディアナに三発の砲弾が降り注ぐのである。

 砲弾の一発は艦橋を破壊しもう一発は左舷の両用砲を粗方吹き飛ばしたのであった。


「更に命中弾!!」

「よぉし!!」


 白石達が喜ぶのもつかの間、今度は武蔵の周囲に多数の砲弾が着弾して水柱を上げたのである。

 それはアイオワ達からの砲撃であった。









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