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第百三話

あけましておめでとうございます

本年もよろしくお願いします






「フン、リヒトホーフェンの後継者か……」


 8月、イギリスのロンドン、ダウニング街10番地で首相のウィンストン・チャーチルは葉巻を咥えながら忌々しそうに呟く。


「エースパイロットは元より政治も中々やり手ですな……」


 チャーチルの言葉に副首相のクレメント・アトリーは苦笑する。彼の手に握られた書類には西部戦線の状況が記載されていた。


「あの放送から三日後にはフランスから全面撤退を開始……おかげでパリは無血で取り返す事は出来ましたな。今は血が流れていますがな」

「ドイツ軍は1939年の戦争前の国境まで後退した」

「それが英仏の国民にウケましたな。おかげで後退するドイツ軍を背後から攻撃するのは騎士道精神に反すると言われましたな」


 7月15日、ヒトラー死亡でまだ世界が混乱する中でゲーリングはドイツ第三帝国の総統代理に就任しSSの所業を痛烈に批判しながらも英仏に向けて西部戦線の撤退を公表、14日の夜半からパリに駐屯していた部隊が撤退した事が明らかにされると仏のパリに潜伏するレジスタンスは大いに歓声を上げ、大いに混乱したのはヴィシー政府であった。

 ヴィシー政府は「我がヴィシー政府こそがフランスの後継国である」としてパリを占領してレジスタンスを抑えたがレジスタンス側も負けじと反撃してパリは内戦状態に陥ったのである。


「ド・ゴールは自由フランス軍をパリに突入させる気ですが?」

「アイゼンハワーを通じて首ねっこを掴まえてある。今、パリに自由フランス軍を入れてみろ、戦火が酷くなる」

「ゲーリングはそれを見越しての事ですかな」

「対した才能だよ、そのおかげで一月も連合軍はパリから出れない」


 チャーチルはそう言ってフンと言いながら紅茶を飲む。既に温くはなっているがそれでも紅茶は紅茶だ。


「特使としてロンドンに来ているあの二人はどうするので?」

「どうもこうもない。我々は今やゲーリングによって無理矢理交渉のテーブルに座っているからな」


 休戦の特使としてロンドンを訪れているシュペーアとグライムが渡した親書はチャーチルとルーズベルトの頭を悩ましていた。


「何れドイツはソ連の波に押し潰されるだろう。しかし、ドイツはヨーロッパのソ連に対する防波堤であり共産主義を抑える役目である。国が滅んでも民族が滅ぶ事はユダヤ人でも許される事はなかった。貴国らはその責任がある」


 要はドイツという国はソ連によって一時的に滅ぼされるが民族が滅ぶのはユダヤ人でもなかった、我々はソ連に対抗するが国民に罪は無いからどうにかしろだった。


「ゲーリング総統代理は交渉のテーブルにつくならV1とV2によるロンドン全面攻撃は白紙にしその兵力は全てソ連に充てる構えです。また研究用として一部を提供すると言っています」


 ドイツからの提案に米英は頭を抱える。特にロンドンを攻撃していたV1とV2の詳しい情報が手に入るのだ。とりあえずは米英側も話を聞く事にした。


「それで休戦の内容は?」

「フランス・イタリー国境への全面撤退」


 ドイツが提示したカードは連合国ーー特に米英にとっては美味しい内容であった。兵力も兵器も費用も其ほど損失せずにタダで取り返せるのだ。

 チャーチルはこの提案を飲む意向で考えていた。反対したのはルーズベルトだ、既に戦後をも視野に入れていたルーズベルトは此処で英国が力を増すのは反対だった。しかしドイツが提案して3日後には賛成の立場に回った。チャーチルもドイツも掌返しに首を傾げたが真意は分からなかった。


「……やむを得ない、休戦後に我々が主導権を握ればいい」


 ベッドにて横たわるルーズベルトはそう言う。ルーズベルトは史実よりも早くに病に倒れたのである。

 そして1944年8月20日、史実にはないロンドンにて米英と独による休戦協定が締結された。休戦の期間は1945年2月までの半年間である。


「まだ時間はある筈……それまでに欧州には陸軍の部隊を大展開し太平洋艦隊を増産に増産しろ」


 このドイツとの休戦により米国はノリに乗った。半年の休戦でUボートも攻撃が無いので米国は大輸送船団を組んで兵力を欧州に送り込んだのである。ちなみにパリ解放は史実通りの8月25日に行われた。

 連合国(米英)にも利があったようにドイツにも利はあった。休戦の交渉中にゲーリングは治安維持用の部隊だけを残してほぼ全ての部隊を東部戦線に投入した。

 これらの部隊には史実では壊滅した第12SS装甲師団や装甲教導師団パンツァーレーア等が生き残っており、ドイツ国内で再編成後には東部戦線で激闘を繰り広げるのである。


「まさかドイツが半年間の休戦とはな……やるなゲーリング」


 いつもの料亭で将和はニヤリと笑いつつ日本酒の熱燗を飲む。


「だが米国を勢いづかせてはいるぞ」

「そこはやむを得ないでしょう。彼の国は正義という笑いしかない元で戦争をしていますからな」


 東條の言葉に将和はそう言う。


「問題はマーシャル諸島にいる米機動部隊だな」

「航空基地の部隊は厄介ですな。報告ではコルセアやP-47も確認されてます」


 マーシャル諸島の米航空基地はその工業力を以て増大していた。そのため無闇な攻撃はせず航空偵察のみの限定にしていた。


「狙われるとしたらトラックか……万全だな?」

「無論です。戦闘機だけで270機はいます」


 宮様の言葉に堀は自信満々に頷いたのであった。そして8月28日、マーシャル諸島への偵察に向かった一機の彩雲が0731に緊急電を発した。


『我、米機動部隊見ユ』


 発した場所はエニウェトク島沖だった。そして米機動部隊の行き先はトラック方面だったのだ。


「直ちに即時待機!! 白石艦隊は!?」

「既に出港中!! 白石少将から敵機動部隊を迎撃するとの事です!!」

「無茶だぞおい!! クソッタレ、零戦隊の一部を白石艦隊に回せ!! トラック防空には陸さんもいるんだ、心配ない!!」


 トラック諸島の春島に築かれた第四艦隊司令部では司令長官の小林中将はそう指示を出していた。


(陸さんの戦闘機は約160機……海軍と合わせれば450機近くはいる。何とかいけるはず……)


 そう思う小林だった。そして春島の対空電探が反応した。


『敵機約200接近!!』

「戦闘機は全部出せ!! 一機も侵入させるな!!」


 後にこの戦いは一連してこう呼ばれる事になる。『トラック諸島沖海戦』と。


「まさか疾風の初戦が海の上とはな……」


 飛行第22戦隊の戦隊長である岩橋少佐はそう呟く。彼の周囲には『大東亜決戦機』と唱われる四式戦闘機『疾風』が飛行している。


「今の疾風は九七式戦より遥かに進歩している……やるぞ」


 ノモンハン以来実戦を離れている岩橋少佐だがこの疾風は史実に比べて陣風と同じ誉四二型を搭載している事もあり速度は660キロを記録していた。


『戦隊長、見えました!! 左下方!!』


 部下の報告に岩橋少佐が目を向けると米攻撃隊が飛行していた。


「よし、まず本部中隊が突入して乱れさせる。そこを残りは叩け!!」

『了解!!』


 岩橋少佐は操縦桿を倒して降下して突入、狙いを定め(SBC)機首の12.7ミリ機銃を叩き込む。


『戦隊長のは撃墜です!!』


 列機の部下がそう教えたように岩橋少佐が狙ったSBCは左主翼が吹き飛び葉っぱのようにヒラヒラと落ちていた。


「よし、疾風は好調だな」


 ニヤリと笑う岩橋少佐、飛行第22戦隊の接触を以て防空戦は幕を開けたのである。






御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 陣風同様、烈風も出てほしかった。
[一言] まあ米国は正義と言う名の笑いの元で戦ってるからどうしようもないアホ国家だからな。
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