第百一話
史実において行われた大陸打通作戦は総兵力50万、戦車800台、火砲1500門、自動車12000両、馬70000であった。
史実の打通作戦は複数の戦略目的があった。
・華北と華南を結ぶ京漢鉄道を確保する事でインドシナ半島等の日本の勢力圏内にある南方資源地帯と日本本土を陸上交通路で結ぶ事。これは通商破壊により海上交通路が被害を受けつつあったからである。
・新型爆撃機B-29を大陸から日本本土空襲を予防する事。史実では1943年11月に台湾の新竹空襲が発生しており北九州方面への空襲の危機感があった。
・国民党軍の撃破と継戦意思を破砕する事
・太平洋戦線における戦況悪化、イタリーの降伏や欧州戦線の戦況悪化の中での勝利のニュースを作り国民の士気を維持する事等々があった。
「今回も基本は殆ど史実と同じ事です」
「鉄道も確保すると?」
「主目標は敵飛行場の占領ですな」
「ふむ……」
「ただ、今回は戦車の数は少ないです。何せチハは投入しませんので」
「……重量か」
「はい、代わりに余剰のハ号や装甲車、自走砲を投入する予定です」
重量が軽いハ号や装甲車等は大陸戦線には投入しやすかった。そのため新しく創設された戦車隊は機動第★●連隊という臨時名称になるのであった。ちなみに機動連隊は総勢17個もあった。
「それと火砲も史実より多めに投入する予定ではあります」
チハという戦車が無いので迫撃砲や野砲の投入を増やしていたのである。
「結局、大陸は泥沼化としたか……避けようとしたのに……皮肉なものだな」
宮様はそう呟きながら熱燗を飲むのであった。そして大陸打通作戦は決行された。
「日本軍が攻めてくる!?」
一度は海岸付近まで後退して亀のように籠っていた日本軍が再び大陸奥地まで来るのだ。しかもこの時、日本にとって悪かったのが中国国民党と中国共産党の再度国共合作だった。
日本が後退した事で両者に亀裂が生じて一部では戦闘していたが打通作戦の影響での合作だった。しかし、それでも陸空から進撃する日本軍を抑える事は叶わず、約8ヶ月後には史実と同じような占領地を迎えるが日本側も然したる喜びはなかったのであった。(むしろ、無傷のB-29を数機捕獲しての喜びが大きかった)
そして1944年の幕が明けた。
「今年も皆に苦労をかけるな」
将和は久々に自宅で夕夏達と正月を供にしていた。
「あー、いいのいいの。旦那が働いてるんだから私達が家を守らないとね」
御雑煮を食べるシャーリーがそう言う。隣ではシェリルが餅に手を付けつつ紅茶を飲んでいる。
「はい、シャーリーさんも最近は花瓶や皿を割らなくなってきたので」
「……一言多いよ美鈴」
「カッカッカ、まぁ割れるのは仕方ないさ」
「貴方、お酒はどうします?」
「もう一杯もらうかな」
将和は久しぶりに家族との団欒を楽しむのである。
「ところでもう一人欲しいと思わない?」
「ちょ、何人産むんだよ……」
「目指せ野球チーム?」
「総勢36人は勘弁してくれませんかね!?」
「あら、皆は本気よ」
「えぇ………」
まぁ何かあったのかはさておき、1月4日に将和は横須賀海軍航空隊にいた。
「遂に橘花が完成したか……」
「はっ、これも三好大将らのおかげです」
将和の言葉に空技廠の中口海軍技術大尉はそう言う。彼等の前には双発の噴式航空機が鎮座していた。
「噴式戦闘攻撃機『橘花』か……」
史実では試作がされるも制式採用はされずに幻と消えた噴式機であった。しかし、今世界では将和の情報と遣独作戦での情報入手でネエンジンの開発が積極的だった事もあり今まさに将和らの前にいるのであった。
四式噴式戦闘攻撃機
『橘花』
ネ20改×2(推力 720キロ)
速度 810キロ
航続距離 1000キロ
武装 20ミリ機関砲×4
ロケット弾×16
250キロ爆弾×4
500キロ爆弾×2
なお、史実はテーパー翼だったが今世界では後退翼を採用した事で速度が上がっていた。
「さて……」
「……三好大将、まさかとは思いますが……」
「うん、乗る」
いつの間にか持っていた飛行服に着替えようとする将和に中口技術大尉らは止めるのであった。(なお、後に講習して乗って飛行した模様)
さて、陸軍であるが陸軍も新型戦車と砲戦車を完成させていた。
「ヌハハハハハハ!!」
「これでソ連なんぞ木っ端微塵にしてやる……」
「……杉山と東條は大丈夫か?」
「よっぽど『チト』と『ホロ』が高性能だったからでしょうな」
将和と宮様は笑い合う東條と杉山を見てそう呟く。実際に量産態勢に移行した四式戦車『チト』と四式砲戦車『ホロ』はドイツ戦車を模倣した形に近かった。
四式戦車『チト』
重量 38トン
液冷ガソリンエンジン 700馬力
速度 45キロ
装甲 前面最大80ミリ(傾斜装甲)
武装 55口径105ミリ砲×1
13.2ミリ機関銃×1
7.7ミリ機関銃×1
四式砲戦車『ホロ』
重量 48トン
液冷ガソリンエンジン 700馬力
速度 38キロ
装甲 前面最大45ミリ(傾斜装甲)
武装 50口径127ミリ砲×1
13.2ミリ機関銃×1
7.7ミリ機関銃×1
チトは史実61式戦車をモデルにしてはいるもののドイツのパンターをも取り入れている。ホロについてはフンメルがモデルだった。
「ソ連との戦闘時には三個戦車師団を揃えてやる」
「おうとも」
それでもコスト高という問題があった。車体は両車とも共通で費用を抑えてはいるが、それでも各1両につきチハ3両とチハ3.5両分の費用となっている。
しかしそれでも陸軍はチハ等の生産を全て中止してチトとホロの生産に全力を注ぎ込み、後のマリアナ沖大海戦には一個戦車連隊がソ連侵攻時には一個戦車師団が配備され米ソの戦車部隊を叩きのめすのである。
そして1月下旬、遂に米軍は第二次反攻作戦を開始したのである。
「来ました、ギルバート諸島のマキン環礁です!!」
島本首席参謀は電文を片手に持ち長官室に駆け込み堀に渡す。
「……早いな、侮りがたしは米国の工業力という事か……」
電文には空母四隻を主力とした機動部隊によるマジュロ環礁空襲が記載されていた。
「まぁ被害があるとしたら飛べずに張りぼてとなっている滑走路上の航空機ですがね」
ギルバート・マーシャル諸島にいた日本軍は既に撤退しており、欺瞞のために故障等で飛べない九六式艦戦や九六式艦攻等を滑走路に並べて撤退してないかのようにしていたのである。
「トラックは航空隊はいますが……」
「……念のためだ、武蔵を派遣して警戒させよう」
堀はそう言うがこの判断は後々誤りであったが今はそうではなかった。
トラックには戦艦武蔵以下護衛艦艇が直ちに進出するのである。そして米軍はというと……。
「ギルバート・マーシャル諸島はもぬけの殻か……」
「ジャップにしては賢明の判断だな」
ハワイオアフ島の米太平洋艦隊司令部ではニミッツ達がそう話していた。
「今回は一個空母群での攻略だが次回はどうするんだ?」
「空母12隻だ。それを以てヘイルストーン作戦を敢行する」
ハルゼーの問いにニミッツはそう答えるとハルゼーは笑う。
「キヒヒヒ……慌てるジャップが目に浮かぶぜ」
「油断はするなよハルゼー?」
「油断なんぞするものか。次はミヨシを海の底に引きずり込む」
ニミッツの指摘にハルゼーはそう返すのであった。
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