第百話
『対空電探に反応!! 敵超大型爆撃機です、数は約100機あまり!!』
その報告をしてきたのは斉州島に配備されていた対空電探基地からであった。
「全機出撃!!」
大村海軍航空隊司令官の山本大佐の号令の元、雷電隊のパイロット達が走り出して各自が愛機に乗り込み次々と出撃していく。
雷電の両翼には六発の噴進弾を搭載し54機の雷電は排気タービンを唸らせて高度一万まで上昇を開始したのであった。
「例の試験飛行隊も出撃させろ。一機でも迎撃隊は欲しい」
「了解しました」
『敵超大型爆撃機は斉州島南方沖約300キロを飛行中、迎撃隊は五島列島上空にて迎撃せよ!!』
「了解」
迎撃隊は五島列島まで飛行して超大型爆撃機の襲来を待ち、それが現れた。
『隊長!!』
「慌てるな、いつも通りの訓練を行えばいい」
焦る列機に隊長は落ち着かせる。この時、雷電隊の前に現れたB-29は120機もいたのである。
「よし、全機突撃せよ!! 一機も通すな!!」
『オオオォォォ!!』
雷電隊は一気に突撃を開始した。
「機長!! ジャップの戦闘機です!!」
「落ち着けヘンリー、ジャップの戦闘機は此処まで飛んでは来ん」
「しかし機長……」
「ただの幻だ!!」
そう言う機長だが次に機体が揺れた時には愕然とした。
「ジャップのロケット弾です!!」
「そんな……馬鹿な……」
瞬く間に炎上したB-29は近くにいた味方機と衝突、錐揉みになりながら墜落していく。
『ジャップの戦闘機だ!?』
『落ち着け!! 各機、編隊を密にしろ!!』
『付け根から火が噴いた!?』
『助けてくれ、死にたくない!!』
雷電隊の噴進弾攻撃で22機のB-29が撃墜、撃破された。雷電隊は再度上昇して下方から四丁の20ミリ機銃をB-29の主翼付け根に叩きつけた。
『各機、撃ちまくれ!!』
『恐ろしく脚の速い奴だ!!』
『ジークじゃないぞ!? ジャップの新型戦闘機だ!!』
B-29は必死に弾幕を張って雷電の攻撃を防ごうとするが20ミリの嵐に一機、また一機と海上に落ちていく。しかし、それでもB-29の爆撃隊は日本への飛行を中止しなかった。
そして長崎上空で爆撃隊はまた別の編隊と遭遇した。
「此方犬鷲7、敵超重爆発見!!」
『此方犬鷲1、目標を確認。全機突撃せよ!!』
9機のエンテ型をした戦闘機が一斉に降下を開始する。あっという間に戦闘機とB-29の編隊が擦れ違い、擦れ違い様に戦闘機が機銃弾を叩き込みB-29を数機撃墜させた。
「な、何ィ!?」
落ちていくB-29の中で乗員が叫ぶ。先程遭遇した雷電より大口径の機関砲で撃たれたのだ。
『ジャップの新型戦闘機か!?』
それは正解だった、回答したB-29の乗員の機体にも機銃弾が叩き込まれ撃墜される。
「こいつは凄い」
エンテ型の戦闘機に乗るパイロットはニヤリと笑う。
「こいつは使えるな」
戦闘機に搭載されたのは30ミリ機関銃四丁であり弾丸は少ないもののB-29を容易く撃破出来た。
『此方犬鷲9、発動機不調。離脱する』
「了解、気を付けろよ」
犬鷲9の機体が降下していく。
「くそ、やはり不調の発動機は出るか」
『何せ試作機ですからねぇ』
「ぼやくな犬鷲2」
『これで三機目です』
列機の犬鷲2はそう言いながらもB-29を撃墜する。
『まだ引き上げませんね奴等』
「それだけ必死なんだろう敵さんも。雷電隊と協力していくぞ」
『此方雷電隊、第三中隊第二小隊の赤松だ!! 貴官らは?』
そこへ一機の雷電が戦闘機の横を飛行してくる。
「此方、第765試験飛行隊だ。試作の18試局戦を率いて参戦した」
『噂のエンテ型とやらのか……どうやら雷電と同じ排気タービン付のようだな。悪いが、共同で頼むぜ』
「任された」
二機は翼を翻して再度攻撃に移行したのであった。
「それでも被害は出ましたか……」
「あぁ。奴等、製鉄所爆撃を断念したと思ったら福岡市を爆撃するときたものだ」
いつもの会合で杉山は苦虫を潰した表情をする。
「それで……死傷者は?」
「まだ集計中だが……1000はいくだろうな」
八幡製鉄所に向かったB-29隊だが雷電隊と試作飛行隊の妨害により製鉄所爆撃は断念したが行き掛けの駄賃として福岡市を爆撃、連絡の不備で空襲警報が鳴らず……という事だった。
「三度目は許されないぞ」
宮様の言葉は将和達に重くのし掛かる。なお、福岡爆撃の教訓により陸海の連絡網は緊密を増していくのである。
「高射砲の量産態勢は?」
「既にやっている。製鉄所付近の高射砲陣地には第一陣として12門が配備されている」
「海軍も雷電の量産を急がせてはいるがな……」
「排気タービン付の鍾馗隊を二個飛行戦隊が九州に進出させる」
「例の試験飛行隊は?」
「18試のですね。まだ制式採用はされていませんが今回の迎撃で戦果は上げてますので直ぐに認可されるでしょう」
18試作局地戦闘機ーー通称震電は第765試験飛行隊で試験を続けられていたが今回の迎撃を受けてほぼ制式採用が決まっている。
震電一一型
発動機 ハ43-42ル改(排気タービン付 離昇 2200馬力)
水メタノール噴射装置付
速度 780キロ
航続距離 2000キロ
三式30ミリ機関銃(史実五式30ミリ機関銃)×2(各120発)
九九式20ミリ二号機銃五型(主翼)×2(各200発)
三式噴進弾(小型15キロ弾)×8
なお、この震電はジェットエンジンを搭載出来るように設計されており戦後にネエンジンを搭載したりするのである。
また、九州方面に陸海の局戦隊を集結させ再度のB-29の侵入を防ごうとしていた。
「合わせて150機余りか……」
「それでもまだ足りはしない……」
「……陸軍として提案がある」
「これを見てください」
福岡空襲から数日後、会合で思案している将和らに東條と杉山は頷き将和らに書類を提出した。将和らも書類を一目して東條と杉山を見る。
「これは本気ですか?」
「本気だ。それにこれをしなければならない理由もある」
「理由?」
「……未確認情報ではあるのだが漢口の飛行場にB-29が着陸したという情報がある」
『ッ!?』
東條の言葉に場の空気は変わった。
「奴等、成都から移動したと言うのか!?」
「まだ確認は取れていませんが、漢口に潜入している諜報員からの報告では飛行場に……というわけです」
「そうなると奴等は九州は元より帝都にまで押し寄せるぞ!!」
「八幡製鉄所どころでは無くなる!! 局戦隊の位置もやり直す必要があるぞ!!」
俄に騒がしくなる部屋だが将和はただ地図を見ていた。
「……三好君?」
「……局戦隊はこのままにしましょう」
「理由は?」
「恐らく飛行経路は九州と中国、関西を横断しての飛行でしょう。奴等からしてみたらどれだけの爆弾を日本に落とすかが重要ですからね」
将和の言葉に何人かは苦虫を潰した表情をする。余程嫌なのだろう。
「飛行経路を変えてくる可能性もあるはずだが?」
「それは勿論です。ですが本土には対空電探の基地はありますし特に帝都の入口に当たる伊豆大島にも電探基地はあります」
「ふむ……」
「ですから陸軍はこの作戦をやってみる価値はあると思います……大陸打通作戦を」
将和はそう言うのであった。
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