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第九十六話







「五島連隊長殿、斥候に放ったハ号から連絡。此方に向かって敵戦車部隊が前進中との事です」

「何? そいつは好機だな」


 副官からの報告に戦車第9連隊長の五島大佐はニヤリと笑う。


「ですが数は多く、100両以上を確認しています」

「相手にとって不足は無いな(もう一個連隊がいてくれたらな……)」


 内心、五島大佐はそう思う。戦車部隊はいると思っていたがまさか機甲師団がいるとは思わなかったのだ。


「最初に接敵するのは?」

「三好大尉の第一中隊です」





「来たぞ、M4の御客さんだ。数は約30両」


 戦車第9連隊第一中隊長に昇任した将和の次男三好将治大尉は双眼鏡を見つつ呟く。場所はネプーイに近い草原である。

 将治の中隊は草や土等で擬装しており接近してくるM4の戦車部隊は全く気付いていなかった。


「まるで満州みたいですな」


 隊長車の砲手を務める青羽軍曹が呟く。


「ならやりやすいって事だな。カクカク、全車弾種徹甲!!」


 装填手の田口上等兵が九七式徹甲弾を装填する。


「装填良し!!」

「距離500!!」

「撃ェ!!」


 将治車が射撃を開始する。徹甲弾は先頭を走行していたM4の前面装甲を貫通、一瞬の間を置いてM4は爆発した。


「三好中隊長殿の射撃だ!!」

「撃ちまくれェ!!」


 それに続いて第一中隊のチハが次々と射撃をする。最初の射撃で撃破したM4は11両であった。


「ジャップの襲撃だ!!」

「チハだ、チハがいるぞ!!」

「見えるか!?」

「駄目だ、見えない!! ジャップめ、何処に隠れて――」

「ケビンがやられたぞ!!」

「全車落ち着け!! 隊列を組み直して反撃だ!!」


 先制攻撃を受けた米戦車部隊は混乱していた。隊長車は混乱から直そうとしていたが将治車からの射撃で吹き飛ばされた。


『隊長がやられた!?』

『逃げろ!! このままでは全滅だ!!』

『そ、側面に――』


 後退しようとするM4の側面には更に擬装していた歩兵対戦車部隊がいた。


「撃ェ!!」


 四人の歩兵がそれぞれ二式噴進砲(ロタ砲)を構えて発射する。半分の二発は外れたが残りの二発は二両の側面を貫通して爆発、撃破されるのである。

 将治の第一中隊は僅か18分で進撃してきたM4中戦車31両を撃破するのであった。


「全滅!? 一両も戻らなかったのか!!」


 第五機甲師団は生き残った歩兵からの報告に改めてチハの性能に驚愕した。


「しかも一両も撃破出来なかっただと……」

「むむむ……」

「しかし、向こうは数が少ないです。砲兵部隊と協力して叩くべきです」

「むぅ……」


 司令部は更に一個戦車大隊を投入した。しかし、戦車第9連隊は増援として第二中隊を派遣していた。


「更に来たぞ、弾種徹甲!!」

「装填良し!!」

「撃ェ!!」


 第一中隊が再び射撃を開始、米一個戦車大隊は先ほどと同様に壊滅するのである。


「馬鹿な!? 奴等のチハは其ほどの性能のものなのか……」


 歩兵部隊からの報告を受けた司令部は完全に頭を抱える。


「これではとてもこのニューカレドニアを支えきれない。増援だ、兎に角増援を要請するんだ!!」


 クルーガー中将はそう叫び、増援の電文は直ぐにハワイに届けられる。勿論、米軍も約50隻余りの輸送船団に護衛空母を付けたりして派遣していた。

 しかしその道中で哨戒中の伊号潜水艦が発見、通報したのである。

 輸送船団の報告をトラック泊地で受信した将和は直ちに第一機動艦隊を出撃させた。


「山口はそのままニューカレドニアに張り付け。もしかしたら豪州からの輸送船団を出させる囮かもしれん」


 ハワイ方面からのは囮で本命は豪州の部隊を増援とさせる腹だと将和は判断したのだが実際にはハワイ方面のが本命である。


(ハワイは陽動、本隊は豪州と来たか……)


 将和は加賀の艦橋でそう思う。なお、第一機動艦隊はまだ損傷した艦艇は復帰していないので一部が出撃したのみである。


  第一機動艦隊(現在)


 第一航空戦隊

 加賀

 第二航空戦隊

 飛龍 雲龍

 第五航空戦隊

 翔鶴 瑞鶴

 第三戦隊第一小隊

 河内 因幡

 第五戦隊

 妙高 羽黒

 第八戦隊

 利根

 第一護衛戦隊

 第六十一駆逐隊

 秋月 照月 涼月 初月

 第一水雷戦隊

 阿武隈

 第17駆逐隊

 谷風 浦風 浜風 磯風

 第31駆逐隊

 長波 巻波 高波 清波


 第一機動艦隊は索敵をしつつ南下、ハワイ~ニューカレドニア間、特にサモア付近まで進出して出方を待つ。この時、輸送船団はハワイから南下してクリスマス島を経由してサモア付近まで航行していた。

 奇しくも将和の考えが一致してしまったのである。


「敵輸送船団だ!?」

「艦隊に打電だ!!」


 索敵していた彩雲が輸送船団を発見したのである。報告を受けた将和は直ちに用意していた攻撃隊を発艦させたのである。


「全機発艦!! 始めェ!!」


 攻撃隊は零戦と九七式艦攻は前回と同じであるが艦爆は九九式艦爆から新型の彗星へと交換されていたのだ。

 攻撃隊は交代した彩雲の誘導電波に従い輸送船団上空に到着した。船団上空には護衛空母から発艦したF4Fが多数いたが零戦隊の敵ではなく直ぐに一掃された。


「さて攻撃するか、今回はヒヨコもいるからなぁ」


 将弘はそうぼやいた。今回、第一機動艦隊には練習航空隊を出たばかりのヒヨコパイロット達が多数いた。そのため将弘らベテランも彼等を立派な海鷲にするために余念が尽きなかったのである。


「全軍突撃せよ!!」


 そして彼等は輸送船団に襲い掛かったのであった。







「何!? 全滅だと!!」


 ヌーメア司令部にてクルーガー中将は思わず椅子から立ち上がる。


「はっ、正確には護衛艦艇は生き残っていますが輸送船と護衛空母は尽く沈められました」


 第一機動艦隊は数度に渡る航空攻撃で輸送船と随伴していた護衛空母を尽く波間に没しさせたのである。


「……追加の増援要請だ」


 クルーガー中将はそう萎んだ声で言うが、上は追加要請に渋った。


「送りたいのは山々だがまたアドミラルミヨシに攻撃されては……」


 ニミッツは頭を悩ませていた。


「空母も無い、戦艦も無い。これでどうしろと……」


 そのくせ、上ーー特にルーズベルトはニューカレドニアを死守しろと言ってきている。ニミッツは空母が揃うまで行動は控えるべきと主張しているがニューカレドニアを喪失する事で自由フランス政府の信頼を無くすとルーズベルトは思っているようで上と下の認識が合っていない。


「ニューカレドニアは何としても死守だ」

「しかし、海軍にはまだ新型戦艦や空母は就役すら……」

「それでもだ。何かとド・ゴールが五月蝿いのだ」


 連合軍の自由フランス政府の首脳であるド・ゴールは何としてもニューカレドニアは死守してほしかった。何かと日本とフランスは関係が拗れる。ヴェルダンも然りインドシナ然り、ド・ゴールとしてはここいらで決着を付けたい気持ちだったのだ。

 斯くして、ニューカレドニア救援の第二次輸送船団が組み込まれニューカレドニアへ目指したがこの輸送船団も第一機動艦隊に捕捉され第一次輸送船団と同じ運命に逢うのである。後にこの出来事は『サモア沖の悲劇』として語り継がれるのであった。

 そして4月8日、ニューカレドニアのヌーメア司令部は陥落した事で米軍守備隊は降伏を決定、此処にニューカレドニアの戦いは終わりを告げたのである。


「そうか、ニューカレドニアが落ちたか」


 報告を聞いた廣田首相はホッとした様子だった。


「直ちに豪州と和平提案をしよう」


 政府の見解に陸海軍も乗り気である。陸軍としては豪州が連合軍から離脱するなら戦力をインド方面に振り分ける事も可能であった。海軍もわざわざ豪州に上陸させる艦隊を派遣しなくても良い。政府が豪州との秘密裏の和平交渉がスイスで展開される中、将和は内地に帰還していた。


「加賀の改装もしないとな」


 新型機が配備される中、旧式空母の加賀と天城も新型機に対応するための改装が必要だった。先の海戦で損傷していた天城は修理と同時に改装も行われている。二隻の改装は44年の6月頃に完了予定である。それまでの第一機動艦隊旗艦は瑞鶴となり瑞鶴に長官旗が掲げられるのである。(後に就役する大鳳も長官旗が掲げられる)


「暫くは骨休みだな」


 そう思う将和であった。






御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 瑞鶴が第一機動艦隊旗艦か。いいセンスです。
[一言] 個人的には瑞鶴がそのまま第一機動艦隊の旗艦になって欲しかったかな。
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