第九十三話
日本軍はニューヘブリデス諸島を12月には攻略した。しかし、ニューヘブリデス諸島にいたはずの米駐留部隊は事前に撤退しニューカレドニア防衛に展開していた。それでも42年中にニューヘブリデス諸島までは攻略に成功した。
だが、そろそろ日本軍の補給路も悲鳴を上げそうになっていた。幾ら輸送船を整備していたとしても占領地域が遠方になればなるほど亀裂が入るのである。
「海軍がどれだけ占領地域を拡げるのかは知らんがそろそろ限界だぞ!!」
海上護衛総隊司令長官の長谷川も同期の将和に苦言を入れた程である。そのため43年1月に予定されていたニューカレドニア攻略は3月に延期された。
この延期された間を米軍は見逃す程ではなかった。ニューカレドニア防衛のために二個歩兵師団と一個機甲師団をニューカレドニアに布陣させたのだ。更に基地航空もP-38、F4Uを筆頭に200機近くは駐留させている。
「今度こそ勝利の報告を私に寄越してくれ。そうしないとオーストラリアが連合国から離脱してしまう」
ルーズベルトはキング作戦部長に言う。ニューカレドニアまで攻略されれば次の攻略目標はオーストラリアなのは明らかな事であった。しかもオーストラリアもニューカレドニアが攻略されたら英連邦及び連合国からの離脱も示唆している情報もあった。
オーストラリアが離脱すればアメリカは元より一番苦しくなるのはイギリスであった。オーストラリアが離脱してしまうとイギリスは対独戦が不可能に近くなる。チャーチルも場合によっては日本と単独和平停戦も視野に入れてしまうかもしれない。ルーズベルトはそれを阻止したかったのだ。
ニューカレドニア防衛司令官にはクルーガー中将が就任して防衛の一手を担う。しかも米軍には嬉しい誤算があった。
艦隊型空母として建造していたイントレピッド級空母(史実エセックス級空母)のイントレピッドと二番艦ヨークタウン2が就役した事で正規空母は四隻となりある程度の機動部隊運用は可能だった。更に戦闘機も新型のF6Fヘルキャットが配備された事でF4Fは空母から一時的に姿を消したほどである。
嬉しい事尽くしだが日本軍も負けてはおらず母艦飛行隊には改良型の零戦三三型が1月に配備されていた。
零戦三三型
全幅 10メートル
全長 9.3メートル
全高 3.6メートル
正規全備自重 3400㎏
発動機 金星六二型(離昇1560hp 水メタノール噴射装置付)
最高速度 627キロ
航続距離 2100キロ(増槽付)
燃料タンク 540リットル
武装 主翼13.2ミリ機銃二丁(各240発) 20ミリ機銃二丁(各180発)九七式前方発射航空ロケット弾六発 九九式前方発射航空ロケット弾四発
発動機は史実零戦五四型に搭載されていた金星六二型である。また、金星を搭載したので機首の13.2ミリ機銃は主翼に変更した。更に主翼は切り詰めて史実零戦三二型と同様の主翼になっていた。
航続距離は低下したが史実のようにガダルカナル島攻防戦は終わっていたので問題はなかった。だが後にグラマン(F6F)と誤認して撃墜してしまう事案が五件も発生する事になる。
それはさておき、3月にニューカレドニア攻略作戦(FN作戦)は開始された。
FN作戦参加部隊
海軍
第一機動艦隊(三好大将)
第三機動艦隊(山口中将)
第一艦隊(高須中将)
第二艦隊(近藤中将)
陸軍
第29師団
第43師団
独立混成第44旅団
独立混成第48旅団
戦車第9連隊
以上の部隊が参加していた。第三機動艦隊と第二艦隊は陸軍の輸送船団を護衛し第一機動艦隊と第一艦隊はニューカレドニアを攻撃しつつ出てくると思われる米機動部隊の殲滅を担当する。
(恐らくエセックス級が二、三隻は就役しているだろうな……側面からの攻撃をしてくるかもしれんな)
将和は旗艦加賀の作戦室でニューカレドニア周辺の海図を見つめていた。
「ニューヘブリデス諸島の水上機隊に連絡しろ。飛行艇による偵察を頼むとな」
米機動部隊の早期発見の意味を込めて将和はニューヘブリデス諸島に駐留する第八〇二航空隊に偵察飛行を要請、12機の二式飛行艇を保有していた八〇二空は直ちに索敵を開始するのである。勿論第一機動艦隊からも彩雲隊が発艦して索敵している。
(さて……どうなるかね……)
3月3日、桃の節句であるがニューカレドニア攻略作戦が開始された。第一機動艦隊は第一次攻撃隊として五航戦(翔鶴 瑞鶴)と六航戦(蓬莱 葛城)零戦72機 九九式艦爆54機 九七式艦攻54機の計180機を発艦させた。
「ニューカレドニア攻撃には五航戦と六航戦でやらせる」
「米機動部隊には一航戦と二航戦ですね」
「あぁ」
将和と草鹿はそう話す。その間一、二航戦は対艦攻撃の準備を行っている。しかし、彩雲隊からの報告は無く、一時間半後にはニューカレドニア攻撃に向かった第一次攻撃隊から電文が届いた。
「第一次攻撃隊長高橋少佐より電文!! 『カワ・カワ・カワ』以上です!!」
「ちっ、一次攻撃では叩き切れなかったか」
通信参謀からの報告に将和は舌打ちをする。高橋少佐率いる第一次攻撃隊はニューカレドニアのヌーメアを攻撃していたが200機近くの米戦闘機により効果的な爆撃は不十分だったのだ。それでも護衛の零戦隊は効率よく攻撃隊を護衛し艦爆14機、艦攻 19機の喪失で抑えたのである。対して米軍はP-40 41機 P-38 32機を喪失していた。
「直ちに第二次攻撃隊を発艦せよ!!」
「発艦準備完了!!」
「全機発艦!! 始めェ!!」
五航戦と六航戦で待機していた第二次攻撃隊は四空母から発艦を開始したのである。第二次攻撃隊(零戦54機 九九式艦爆54機 九七式艦攻54機)はニューカレドニア上空に到達すると第一次攻撃隊が取り残した獲物を叩いていく。
「効果甚大だな」
九七式艦攻の偵察席から第二次攻撃隊長の嶋崎少佐はそう呟く。加賀も第二次攻撃隊からの状況を受信しており念のための第三次攻撃隊は取り止めとなっている。
そして遂に二式飛行艇が米機動部隊を発見した。
「敵機動部隊だ!? 打電急げ!!」
「後方から敵機!!」
6機のF6Fに捕まってはどうしようもなかった。二式飛行艇は米機動部隊を詳細に第一機動艦隊へ報告、 15分後に撃墜されたのであった。
「攻撃隊は全部吐き出せ!!」
将和は加賀の艦橋でそう叫ぶ。
(空母四隻……恐らくは史実エセックス級が二隻はいるな。ならここで叩いて負担を無くす!!)
将和は右拳を握りしめた。
「一に空母、二に空母、三四も空母で五も空母だ!! 全機発艦!! 始めェ!!」
一航戦、二航戦から零戦54機 九九式艦爆72機 九七式艦攻54機の第一次攻撃隊が発艦した。勿論、将和の長男である将弘も飛龍艦攻隊長として参戦している。
「さぁて、久々の敵空母か」
『隊長、いつもみたいに沈めますか』
「馬鹿野郎結城、奴等の対空砲火はキツいぞ。何機帰ってこれるかだ」
偵察席の結城一飛曹を諌める将弘である。攻撃隊は先に先行した彩雲の電波を受信しつつ米機動部隊へ向かうのであった。
一方、米機動部隊も第一機動艦隊への攻撃隊を出していた。
「キルミヨシ!! キルミヨシ!! キルミヨシ!!だ」
空母イントレピッドの艦橋で米機動部隊司令官のハルゼー中将は吠える。彼が送り出した攻撃隊はF6F 54機 SBD72機 TBD60機である。
「再編した米機動部隊、舐めるんじゃねーぞミヨシ!!」
ハルゼーはニヤリと笑う。更に上空にはF6F60機が飛行していた。
「勝てるぞ」
その言葉は何を意味したのかハルゼーにも分からなかった。そして日米機動部隊が南太平洋にて衝突するのであった。
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