第一話
2014年八月、日本は夏の季節を迎えていた。暑い日射しが照りつける。69年前の八月も暑い日々だったに違いない。
そんな八月のある日、一人の青年が忽然と姿を消した。警察や世間は失踪者として認識されやがては青年の事も忘れ去られた。
そして物語は1903年八月から始まるのであった。
「……それで君は何者かね? 妖怪か?」
「いやいや妖怪じゃないですよ。普通に日本人ですはい……それと人を床に押し付けおいて言わないで下さい」
「黙れ小僧!! 陛下の寝室に侵入しておいて何たる態度だ!!」
数人の衛兵に、床に無理矢理押し付けられた青年と寝間着を着た男性が話をしていた。
「……自分は三好将和と言います。失礼ですが貴方は?」
「朕は天皇だ」
「……はい?」
「だから朕は天皇だ」
「……本気と書いてマジですか?」
「あぁそうだ」
「…………うしょぅ〜ん…」
「陛下に何質問しているのだ!!」
天皇?が力強く頷くと、青年は無茶苦茶頭を抱えた。
「(……これってネット小説にある逆行とか言うやつか? しかも天皇も何処で見たと思ったら明治天皇ぽいっし……)」
「何とか言わないかッ!!」
「まぁ待て……それで三好とやら。何故此処にいる?」
明治天皇(仮称)は衛兵を静めて青年――和将に問う。
「いや……それが自分にも分からなくて。気が付いたらこの部屋にいたので……」
「ふむ……」
「しらばっくれるな!! 何が気付いたらだ!!」
「ぐッ!?」
将和は衛兵に殴られた。かなり強く殴ったのか右頬が赤くなっている。
「止めないか!!」
「も、申し訳ありません!!」
衛兵が明治天皇に頭を下げた。
「君らは下がりたまえ」
「は、しかし……」
「下がりたまえ」
「……分かりました」
衛兵達は渋々と部屋を退出した。
「大丈夫かね?」
「は、はい。それで陛下、質問しますが今の年号は明治ですか?」
「うむ。今は明治三六年だが……」
「……西暦にすると1903年……か(おいおい……まさかタイムスリップってやつか?)」
「しかし……君は本当に何者かね?」
「……未来の日本人……と言ったら信じますか?」
「ハハハ、面白い話だな。君が未来の日本人というなら証拠はあるかね?」
「証拠……」
将和はそう呟きながら持っていた鞄を開ける。鞄の中には同人誌やパソコン、エロゲー等が多数入っていた。特にパソコンには多用途のソーラー充電器が付いているので将和が持っているスマホも充電出来る。
「……こんなところですかね……」
「……ふむ……」
陛下は熱心に同人誌やパソコンを見ていたが、やがて顔をあげた。
「済まないが暫く君を部屋で軟禁する。構わないか?」
「それは構いませんが……」
そして将和は衛兵に連れられて狭い部屋に軟禁された。
「陛下の命により食事等は簡素であるが我慢しておけ」
先程将和を殴った衛兵はそう言って部屋を出た。
「……一寝入りしたら夢から覚めた……とか落ちだよな?」
将和はそう思って布団に被って寝出した。その頃、陛下は二人の男を呼び寄せた。
「この夜中に済まないな桂に内海」
「いえ、構いません陛下」
「それで火急の件とは……?」
「我が寝室に未来から来たという日本人が来た」
「未来の……日本人ですか?」
「そうだ」
そして陛下は二人に経緯を説明した。
「……俄に信じがたし事ですな……」
「ですが総理。このパソコンとやらをどう説明致すのですか? それに同人誌とやらを見て下さい。助平ではありますが絵は綺麗ですぞ」
この頃の絵は月岡芳年やジュルジュ・ビゴーのような絵が有名である。月岡芳年は『日本書記』の神武東征等が有名であり、ジュルジュ・ビゴーは歴史の教科書に掲載される『魚釣り遊び』等が有名である。
「私どもは会った事がありませんが陛下はその青年が未来から来た日本人と認めるので?」
「それを君達にも判断してほしい。これは恐らく……」
陛下はそこで口をつぐんだ。翌日、三人は将和の部屋で会談をした。
「……それで君がいたという年代は?」
「平成二六年で西暦は2014年です(桂太郎ってマジかよ……)」
和将は桂太郎に驚きながらも質問に答えていく。
「……君の時代の日本は平和かね?」
「……平和……かもしれません」
「かもしれないとは?」
「……全てを話す事になりますが……」
将和はそう言って、簡単に三人に分かりやすいように日本の歴史を話した。
「……俄に信じがたし……」
「ですが総理。三好が所有している物はどう説明するので?」
「そ、それは……」
内海の言葉に桂は口をつぐんだ。三好が所有しているのは確かに今の日本は元より列強でも作れる事は出来なかった。
「では陛下は信じるので?」
「……うむ」
「……分かりました。陛下が信じるのであれば私も信じましょう」
「私もです」
そして桂と内海は将和を未来からの日本人と認めた。
「それで……君は帰れるのか?」
「……分かりません。そもそもどういった経緯で此処に来たのかも分かりません」
「しかし……日本が負けるとは……俄に信じがたし」
「(桂さん、それしか言ってないよな?)今から来年の日露戦争はギリギリのところで勝利したものです。ですがそれが崩れる可能性があります」
「崩れるとは?」
「自分もあまり詳しくはないのですが、過去の歴史に介入すれば何らかの力が及ぶ……と言われています」
「何らかの力とは?」
「よく言われているのが歴史の修正力です。本当に存在するか分かりませんし、そもそも此処が過去の世界か分かりません」
「……日本で言えば八百万の神々が邪魔をする……か」
「そのように考えてもらえば良いです」
将和はそう説明をする。将和自身は過去の日本ではなく平行世界の日本と認識していたが……。
「……では君が此処にいるとその歴史は変わる若しくは修正されて元に戻るかもしれないと?」
「自分自身としては歴史は変わってほしいですがね。特に大東亜等は……」
将和はそうぶつぶつと呟く。
「……兎に角だ。君の身柄は暫く朕自らが預かる。内海、適当に空いてる部屋を見つけておきたまえ」
「は、ですが宜しいので?」
「三好が未来に帰る事が出来ればそれで良し。我々も記憶から排除しよう」
「ですが帰られない場合は……」
「三好、君には残酷な結末だがこの明治の日本で生きてもらうしかあるまい」
陛下はそう言った。それから五日の時が経過した。将和は未だに皇居にいた。
「……これは帰られんよなぁ……」
将和はそう呟いた。映画等は時間設定があって元の世界に戻れたがそれはあくまで映画の中での話だ。
まぁタイムスリップも非現実的ではあるが……。
「……骨を埋めるしかない……か」
将和はそう決断するのであった。
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