妄想×自愛×皮肉
夜10時ちょっと前。寝起きの悪い、あおばの出勤は、いつも時間ギリギリ。
「おはようございます!」
あおばのバイトは、アミューズメントスタッフ。
カラオケ、水商売なんかも、そうだが、出勤時間が、朝方以外でも、あいさつは、
「おはようございます。」になる。
札幌の繁華街に勤めている人間の大半は、これで通用するだろう。
あおばの仕事は主にクレーンゲームのフロアでの接客、雑用などた。
ファンシーなキャラクターに囲まれながら、アニメ声で
「このチァーミーちゃんは、キティちゃんのペットの猫ちゃんなんですよ〜。今回は、妹のハニーキュートちゃんも一緒ですっごく可愛いですよねぇ。」
てな具合に商品アピール。
もぉ、キャラが違うんじゃないかってくらい、テンション上げてくのが、あおばの営業スタイルだ。
どうやら世間様には、キャラが濃く映ったらしく、プラベ(プライベート)際私服で、ススキノをうろついても、
「あっ!ゲームセンターの人だ!!」
珍しい動物か、田舎者が、外国人見つけた様なリアクションで、指をさされる。
珍獣になった気分だ。
こんな、あおばにも、少し前まで、まともな恋人いた。
名前は、深水海
福祉介護系の経営者で、あおばより3〜4才年上。誠実で真面目で優しい男。
常識人で、世間帯を気にする男だが、いい男だった。 別れる間際まで、オツムの足りない、あおばを心配してくれた男だ。
嫌いになって別れたのではない。
ただ、あおばには、もったない男だったたけだ。
二度と合う事は、ないけれど
『モウ、誰モ好キニナラナイ』
本気で そう想えた。
それでも未練はない。
一生分の恋愛を出来た事に感謝している。
二度と恋が、訪れなくても、けして後悔しない。
『コノ別レハ、意味ノアル別レ』
あおばは、普通の恋愛に興味を持たなくなったのは、恋愛に嫌気が、さしたからではない。
ホストにハマる女は、
ヤレ
「寂しい女」
ヤレ
「病んでる女」
などと、是か非でも皮肉テイストに仕上げたがる輩が多い。
そのせいだろうか?
最近流行りの漫画や小説に登場する女達の大半は、不幸なふりばかりしている。
あおばは、深水との恋愛に満足している。
次に恋する時は、
深水より、いい男と
深水より、いい恋を
そう決めている。この世の男が全て、
深水以下なら必要ないし
この世の恋が全て、
深水以下なら、満たさないだろう。
『アオバは満タサレタ』のだ。
知らない人様から見れば、愚か者に映るだろう。
しかし、あおばから見れば、寂しいだけで、誰かと繋がれる女、焦りを感じただけで、結婚を願う女の方がずっと愚か者に見える。
ほんの少し、考えて方が偏っただけで、目に映る者が、愚かな存在に見えてくる。
アンパンマンのクッションが入っている、ブース(ゲーム機)の前で、タムロしている二人組の男達。
ゲームする気などなく、明らかにナンパ目的だ。
自分の身を削って、勇気と元気を与えくれる国民的ヒーローの前で、今正に『男の恥』をさらそうとしている。
ターゲットは、斜め向かえ正面入口付近のマリーちゃん(ディズニーキャラクター)のブースの前で、煙草吸いながら、しゃがみこんでいる二人組。 ジーンズから見たくもない汚い尻が、見えている。
無造作に置かれたヴィトンのモノグラムとダミエのバックは、本物か見分け出来ない位、高級感がない。
後ろで、可憐にすましているマリーちゃんとエライ違いだ。
周りの目を気にしない彼らが、くっつけば、お似合いのカップルが出来上がりだ。
まぁ、害はなさそうだが、見たら不快に感じるカップルになるだろう。
店にとって彼らは、営業の邪魔で、ウザイ。
あおばもウザイと感じる。
しかし同時に優越感を与えてくれる存在だ。
なんでかって?
それは、彼らと深水を比べたら あおばは、“男に恵まれている”と想えるからだ。
どんなに、見栄はってブランド品持ち歩いても、お水ばりの巻き髪で、ばっちり着飾っても、寄って来る男が、あんなのばっかりじゃ気の毒だ。
『同じ女として同情しちゃいます』
あおばは心の中で彼女達に、話しかけた。
心ない言葉で…。
こんな事感じでしまう時、あおばは自分でも
「性格悪いな〜。」
と思う。
けど、それが本音だから、素直にひねくれている自分を、あおばは受け入れている。
こんなに可愛いらしいキャラクターに囲まれたファンシーな空間で、何故人間は、見苦しく、自分勝手な妄想に浸れるだろう。
あおばは『皮肉』を、
彼らは『自愛』を、
元をたどれば、あおばと彼らは同種なのかも知れない。
最も一緒にされたくはないが…。
「本日も当店を、ご了承いただき、誠にありがとうございます。」
店内アナウスが流れた。
「当店はナンパ行為は、禁止しています。」
注意アナウスだ。
彼らは、自分の事だと気づいていたが、気にしていない。
しかし相手側が難色を示していた。
どうやら彼女達は、非常識だが、馬鹿ではないようだ。
緊急時は、社員対応だ!
一歩間違えば、警察に関わる事は、バイトでは、責任が重い。
たかがナンパと思うが、店内で禁止と言ってやめないのなら、悪質と見なされて当然だ。
直接注意されれば、大抵の男は食い下がる。
それで、効き目がないのなら
『警察呼びます。』の一言で、退散する。
まれに逆切れする、どうしようもない輩もいる。
どう切れようが、反論しようが駄目なものは、駄目なのだ!
何故解らないの?
きっと解ろうしないのでしょ?
そんな奴に女が寄ってくるはずないでしょ?
まぁ言っても解らないだろうけど。
彼らは、あえなく退散した。
ターゲットにされた彼女達は、立ち上がり、
「ありがとうございます。」
と社員に、お礼を言った。
……以外だった。
非常識だと、思っていた彼女達が、人並みにお礼を言える事が以外だった。
『なんだか誤解してて、ごめんなさい。』
あおばは、心の中で少し反省した。
きっと全ての男が、こんなのではないのだけど、日常的に、目につく男なら、あおばは、一生独りでいい!
世界中の女性に、この有り様を見せてやりたい。
世界中のラブソングと、恋愛小説の需要が著しく低下するだろう。
きっとあおばも、恋愛しようとしなくなるだろう。
事実男に魅力を感じずに、いる。
「もう男なんて、ウンザリだ。!」
ずっとそう思っていた。
ホストの玄人に出会うまでは……。