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未来彼氏*五つのストーリー*

未来彼氏*五つのストーリー*「プロローグ」

作者: カノン

短編集にしようと思っている物語のプロローグです。


「俺と…付き合って下さい」


夕暮れ時の放課後。私はオレンジ色に染まる教室で、同級生の男の子に告白された。

彼の頬が赤いのは夕日の所為なのか、それとも告白の恥ずかしさで赤いのか。


「えっと…考えさせてくれないかな。」


そう言った私の声は震えていた。少し頬も熱い。

告白の返事なんて今までしたこともなかった。寧ろ告白をされることなど皆無だった。けれどこの日、私はこんな返事の言葉を“五回”言った。――――


小さい頃から平凡で、周りから浮いた存在でもなく、物語の主人公キャラでもない私は言わば生徒Aや生徒Bの立ち位置だ。

そんな高校二年の私はこの日…最大のモテ期を迎えていた。


一人目は図書委員で一緒の「佐井菜さいな 悠李ゆうり」先輩。


「僕と…付き合ってくれない…かな?」


黒髪メガネという如何にもインテリな先輩は、とても大人しくいつも本を持ち歩いていた。無口かと思えば本のことになると熱く語る面白い人だ。そんな先輩に、私は告白された。


二人目は同級生の「甲斐かい 健人けんと」君。


「俺、お前のこと…す、好きなんだ!」


高校の球技大会では大活躍!スポーツをやらせたら右に出るものはいない!…なんてキャッチコピーの付きそうな彼は、坊主が特徴の野球が大好きな元気っ子だ。

席が隣で話すことの多かった私の、数少ない男の子の“友達”…だと思ってた。


三人目は後輩の一年生「夏目なつめ れい」君。


「俺、先輩のこと好きなんです。…付き合ってくれませんか?」


同じ美術部の子で、私が教えることになったんだけど…私より遥かに絵の上手なちょっと無口のクール系。他の子からはそこがカッコイイとモテているらしいのだが、告白されると全部即バッサリと断っているらしい。そんな彼が…私に告白を……。


四人目は「夏目なつめ 遙斗はると」先輩。


「僕の彼女になってくれない?」


悠李先輩と同じクラスの先輩で、成績優秀の如何にも優等生という感じの学校のアイドル。黎君とは兄弟で、黎君以上にモテている。

けれどお互いの話をすると険悪になるところは…私にはよく分かっていない。

そんな彼にも、私は…告白された。


最後の一人、五人目は…私の幼馴染「上条かみじょう 伊吹いぶき」。


「俺…お前のことが、ずっと好きだったんだ」


外見良し、頭も良くて、性格も優しくて…私とは正反対ってくらいに完璧な幼馴染。それでも私に話しかけてくれる…文字通り良い奴。たまに喧嘩もするけど…。

健人君と同じ野球部に入ってから、益々ファンを増やした彼が…私に、告白をした。


―――そんなこんなで、生まれて初めての告白を一日に五回もされ、私はパニックになりそうな頭で帰りの電車に乗った。


 * *  * *


ガタン、ゴトン…。という規則正しい音と、電車の揺れに身を任せていると襲ってくるのは……睡魔だった。


(いろんなことがあり過ぎて…疲れちゃったよ……)


ふう…と息を吐けば、自然と背もたれに体重を預ける。

握っていたスクバがずるりと落ちるのにも気づかず、私は眠りに落ちた。

初めての告白が、イケメン(私的の)五人から。ドキドキと高まる鼓動と、熱くなる頬。

何もかもが初めての経験で、私は失念していた。

今乗っている車両に、私以外…誰も乗っていないことに――――


『ねえ…』


「え…?」


まどろみの中、女性の声を聞いた私は目を覚ます。

いつの間にかトンネルに入ったのか、電車の外は真っ暗だった。けれど反対側の席に、乗った時はいなかった一人の女性が座っていることに気づく。


(あれ?今、呼ばれたような…)


辺りをきょろきょろと見渡せば、その女性と私以外は誰一人いなかった。

ならば必然的に、話しかけたのは…目の前のOL風の女性ということになる。


「あの…呼びましたか?」


意を決して話しかけた私に、その女性はニコリと微笑んだ。


『貴女は本当に好きな人を…選んで?』


「え?え??…それって、どういう――――」


意味を聞こうと聞き返した私の目に、オレンジ色の光が飛び込んでくる。

トンネルを抜け、夕日の光が電車内に差し込む。

その眩しさに目を閉じていた私が目を開くと、そこに…あの女性はいなかった。


(え、何これ…まさか…幽霊だったの!?)


さあっと血の気が引いた私は、目の前を凝視したままギュッと手を握った。

その時、終着駅であり私の下車する駅に着いたことアナウンスが伝える。

床に落ちていたスクバを掴むと、私は急いで電車から降りた。


(寝ぼけてただけかもだし…。うん!そういうことにしとこっ!)


改札を出て、私はふと違和感に気づく。

家からそう遠くない位置にある駅の周りは、古くから営む老舗が立ちならび、小さな商店街のような所だったと記憶している。

けれど今目の前に広がっている光景は、どの店にも錆びたシャッターが下り、やっているお店が一つも無かった。そして人の姿も一つとして無かった。


「何これ…まさか学校行ってる間に全部お店が無くなるなんてこと……」


あり得ない。とは思うものの、試しに頬を抓ってみる。


「いひゃい…」


赤くなる頬とその痛さが、目の前に広がる光景は間違いなく現実だと告げていた。

私は呆然と立ち尽くすしかなかった。…と、そこへ一人のスーツ姿の男の人が此方へ歩いてきた。

見た目二十代くらい、黒髪黒目の男性は私に目を止めると、驚いたように目を見開き駆け寄ってきた。


「君…こんな廃墟でなにしてる?」


「え…廃墟…っ?」


男性の言葉が信じられず、私はバッグを持つ手を握りしめると俯いた。

そんな私の尋常ではない様子に、男性は訝しげに眉間に皺を寄せると語りだした。


「此処は五年くらい前に閉鎖になったんだ。今は新しくショッピングモールを建設する予定地になっていて、一般人は立ち入り禁止だ。君は、どこから入って……」


「五年前…?そんなっ!だって昨日まで普通に商店街として、活気があったのに!」


声を上げて言った私の言葉に、男性は益々怪訝な目を向けてきた。

けれど私の持つ“何か”に気づくと目を見開いた。


「その…キーホルダー!」


「きゃっ!?」


突然男性は私のバッグい付いていた兎のマスコットを手に取る。

それは私の通う学園の購買でしか売っていない、学園の公証入りの首飾りをつけたマスコットだった。

私のはボディーカラーが限定色の水色で、他にピンク、黄、青、赤、緑色がある。


「君…もしかして兎高とこうの生徒か?」


「は、はい…」


兎高とは、私の通う学園「兎賀古学園とかこがくえん」の高等部の略称だ。

彼は私の頷きに、神妙な顔つきになるとマスコットを放し、私と視線を合わせた。


「君、名前は?」


「あ…えっと、三日月みかづき 詩穂しほです」


「三日月…やはり、か」


(やはり…って、何?)


男性の言葉に、私はその真意が知りたくて見つめ返す。

けれど男性は面倒くさそうに溜め息を吐くと、私の肩に手を置いた。


「落ち着いて聞いてほしい。」


あ、このパターンは嫌なやつだ。と思いながらも私は頷く。

そして男性は一つ息を吐くと、とんでもないことを話し始めた。


「いいか、此処はお前のいた世界から七年後の世界だ」


「…へ?……。ええぇ!!?」


「未来の、つまりこの世界の君が望んだ“願い”により、君は引きずられるようにしてこの世界にタイムスリップしてきたと考えられる。

本来同じ世界に同じ人物が存在すると時空が歪み、大変なことになるのだが…」


「ちょ、ちょっと待って!!」


すらすらと信じられないような説明をする男性の言葉を遮り、私は大きく手を振る。


「何かの間違いですって!そもそもタイムスリップなんて非現実的なこと起こるわけないじゃないですか!」


あはは。と現実逃避ぎみに笑うと、男性はグッと私の顔を両手で挟み込むようにして押さえた。

そしてグリンッと後ろを向かせると、そこにあるものを指した。


「今見えているものを、否定出来るのか?」


「っ!」


そこにあったのは先刻、私が出てきた駅。

外壁は今にも崩れそうな程ボロボロで、改札には植物のツタが絡み付いているものもあった。

電車が止まるホームには苔が生え、線路も錆びていた。

そしてついさっき乗ってきた電車は…何年も動いていないのか錆びたまま停車していた。


「でも、さっきは…動いて……」


混乱する頭で、私はそれ以上何も言えなかった。

少しでも言葉を発すれば、感情が溢れ、今の自分が壊れてしまいそうだったから。

けれど男性は顔にあった手を放すとさらに話を続けた。


「追いうちを掛けるようだが…伝えておく。何故君がこの世界に来てしまったのか…それは、この世界の君が……既に“亡くなっている”からだ」


「え……」


本当に追いうちだ。と思いながら目を見開き、私はゆっくりと男性の顔を見つめる。

そこには申し訳なさそうに揺れる黒い瞳があった。


「そして彼女は死ぬ直前…強く願ってしまった」


「なに、を…?」


震える口で、言葉を紡ぐ。

男性は一度瞼を閉じると、静かに言った。


「本当に好きな人と結ばれたい。…それが、君の……この世界の君の最後の願いだ」


「本当に…好きな……あっ!」


似たような言葉をつい先刻聞いたのを思い出す。

それはあの電車の中。反対に座っていたOLの女性だ。


「あれは…未来の私だった?」


幽霊かもしれない。…という自分の考えがあながち間違いではなかったことに気づき、私は青ざめる。

けれどそれだけではなく、今日私に訪れた人生最高だと思われるモテ期を思い出した。


(私は…あの五人の誰とも付き合わなかったのかな…。もしそれを後悔しての願いなら……私が未来ここに来た理由もなんとなくわかる…けど)


すこしづづ冷静になっていく頭で、私が考えを巡らせていると、男性は驚いたように私にグッと顔を近づけた。


「君、未来の自分にあったのか!?」


「え、はい…電車の中で会って、それで終点に着いたらこんなことに……」


顔の近さにドキドキしながらも、私はそう説明した。

それを聞いた男性は、顎に手を当てると、何かを考え込むように唸り始めた。


「なるほど…死の世界へ行く途中に、過去の時間と接触した…というわけか……イレギュラー尽くめだな」


「あ、あの…?」


「ん?ああ、そういえば自己紹介がまだだった。俺は『時先ときさき しゅん』…時間区間管理警察だ」


「時間くかん、かんり?…警察!?」


聞きなれない言葉の中に、聞き覚えのある名を見つけ大げさに反応する。

そんな私に時先瞬さんは警察手帳のようなものを私に見せてくれた。日本語ではないため、何と書かれているかは分からなかったが、日本の警察手帳と同じように顔写真が付いていたため私はまじまじとそれを見つめた。


「その名の通り、違法に時間移動する者を捕まえたり、君のように時間移動に巻き込まれ他世界、他時間に来てしまった人達を保護したりしている。仕事の内容的には君の知る“警察官”と同じだ」


「は、はあ…」


(話がぶっ飛び過ぎてて、ツイテイケナイ)


「俺はこの時間軸の此処の区間担当なんだ。けれど時間や空間の境目にブレが生じて、何かがこの世界に来たことを感知した…んだが」


「それが…私?」


自分を指さす私に、時先さんはコクッと頷いた。


「まあ、普通は記憶を消して元の世界に帰すんだが……」


「だ、だが…?」


言いにくそうにする時先さんに、私は固唾を飲んで見守る。

時先さんはふぅと息を吐くと、言った。


「君は無理。」


「ど、どうして!?」


彼の纏う雰囲気に何となく分かっていた答えが返ってきたため、私は声を上げる。

けれど時先さんは「落ち着け」と手で制すると、スーツの胸ポケットから四つ折りの紙を取り出した。


「とりあえず、此処に行ってみてくれ。…君は普通の迷い人と違って“呼んだ者”が未来の自分だ。異例のことだから、管理局本部に戻って帰す方法を考える。

それまで君を預かってくれそうな人たちが集まっているはずだから…行ってみて」


「あ、まっ…!」


私が紙を受け取ると、時先さんは忽然と目の前から姿を消した。


(此処にいても…何もならないよね)


そのことに驚いたのは一瞬で、私は不安に埋め尽くされた胸にその紙を抱くと、一歩踏み出したのだった。


 * *  * *


歩いて数分。やっと車や人の行き交う道路に出た。

見慣れた建物もあったが、殆どの建物が新しく、私は改めて“タイムスリップ”という現実を突きつけられた。


「考えてもしかたない!とにかく今は此処に…」


先程、時先さんに貰ったメモを開き、書かれていた地図通りに歩みを進める。

交差点を曲がり、細い道や大通りなど…複雑な道を進み私がたどり着いたのは…―――。


「…墓地?」


周りを森林に囲まれた開けた場所に立ち並ぶ墓石。その向こうには小さく海の見える…何とも神秘的な場所に思えた。その入口に立った私は、迷わず墓地の中に足を踏み入れた。


(なんだろう…こっちに…)


私はもうメモを見ていなかった。けれど何かに導かれるように、私は無我夢中で歩いた。

そしてある墓石の前で立ち止まった。そこには…「三日月」の名が刻まれていた。


「ここ…」


「あれ…君は?」


「え…?」


自分が眠っているであろう墓石の前に呆然と立ち尽くしていた私に、同じように入口から歩いてきたのか黒いスーツに身を包んだ男性が五人…私を見つめて立っていた。

一番前にいた人は花を持ち、振り向いた私の顔を見た瞬間…驚いたようにその花を落としてしまう。


「…し、ほ?」


五人の中の誰が私の名を呼んだのか、分からない。

けれど私も、彼らの姿を見て何故か確信した。


彼らはあの最大のモテ期に告白してきた、あの五人の男の子たちの未来の姿だと…―――――




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字など御座いましたら、お知らせ頂けると幸いです。



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