第5話 表
オーク材の扉が閉ざされる音が室内に響き渡る。
豪華な天蓋付きの寝台に横たわるサンドリア帝国16代皇帝アガメムノーン3世は、神経を尖らし待ち構えていた。
アガメムノーンは特殊な薬品で仮死状態に追い込み、気だるく感じていた体が更に重いものにかわっていた。
ここまでするのには理由があった、三番目の息子であるクロノスを試したのだ。
二番目の息子は何者かに戦場で暗殺をされ、皇太子であった一番目の息子は毒殺された。
二番目の息子が暗殺された時の戦場にはクロノスも参戦しており、一番目の息子が毒殺された時はクロノスが見舞いに来るたびに容態が急激に悪化していくのであった。
三人の息子の母である最愛の皇后すらも、脅迫文らしきものが届いたりなど命の危険性を感じ、五年前に僻地へと避難させた。
証拠も何も出てこない状態でアガメムノーンは誰も信用することができず、冷厳で猜疑心の強い人物になってしまった。
もしかしたら犯人はクロノス以外の廷臣たちかも知れない、いや本当はクロノスが犯人なのでは…
だから試すことにした、自分の命を賭けた試練という名の篩いを。
寝台の近くに置かれていたソファーにクロノスが座ったと思われる音が耳に入ってくる。
鉛のように重く感じる体は思うようにいう事を聞いてくれず、わずかに開いた瞼からクロノスが座っている場所を確認した。
喜ぶような仕草をしていればこのまま起き上がらずに、後で兵を送り牢屋に放り込むことは決めていた。
いくら皇帝という権力の座に目が眩んだとはいえ、二人の兄を殺害し母までも殺そうとした息子であれば、一生牢屋で過ごせるだけでも優しいものだ。
もしも悲しむような仕草をしていても、自分はまだクロノスを信用することはできないだろう。
さらにクロノスを試し、自分が信用できるまで試し続けてしまうかも知れない。
仕方ないかもしれない、クロノスが犯人であるという物的証拠は無くとも、現状での憶測からくる証拠なら山ほどある。
それにクロノス以外にも疑わしき人物は他にもいる事は確かな事だ。
この試練が無事に終われば、次はその疑わしき人物たちにも試練を与え、必ずや息子達を死に追いやり皇后を脅迫した犯人を血祭りにあげてやる。
アガメムノーンの正気を失いつつある目はクロノスを映し出した。
目に映るクロノスは顔を青ざめ、目を伏せ、小刻みに体を震わせ、今にも泣き出してしまいそうな自分を押さえ込んでいるように見えた。
その姿を見たアガメムノーンは、クロノスは無事に試練を乗り越えられたことに安堵のため息を吐くと、クロノスを安心させてやるために起き上がり声をかけることにした。




