第二話裏
私は激しく落ち込み、心の中で泣き叫んでいた。
夢の中とはいえ、自分が主人公になっちゃたら、主人公の姿を気軽に見れないじゃないか!!
主人公であるクロノスは、目尻がするどく整った長身の容姿であり、将兵の信望を集めるにはふさわしかった。
ゲームで設定された時代では、人の上に立つ者にとって外見が貴重な資質となっていた。
戦に出れば負け知らずの名将であり、剣の腕も立ち、策略に関してもラスボスと負けずに劣らず策士でもあった。
負け知らずだとすれば、かなりの猛将かと思えば内面は心優しき人物でもあった。
プロローグでは戦で死んでいく両国の兵達を思い、人知れず涙を流している場面がある。
その場面はしんみりとお涙頂戴の回想で、個人の意見として結構好きだったのだが、自分が主人公だという事は一人芝居でそんな場面の再現などしたいとは思えない。
そもそも、この【帝国物語】を購入するきっかけは、パッケージに画かれていた主人公に一目惚れして買った私にしてみれば拷問に近い仕打ちだ。
私は主人公が大好きだ。
それは主人公の容姿が大好きだという意味であり、自分から主人公になりたいなどとは、一度も思ったことは無い。
大切な事だからもう一度言いたい、主人公になりたいとは普通に思わない。
【帝国物語】で用意されている主人公の運命はあまりにも波乱万丈すぎるからだ。
ゲームで最初に強制的に用意されている物語は、決められた内容で物語が進み、決められた内容のエンディングしか見ることができない。
ラスボスまでのシナリオの流れは悪くないし、逆に物語がしっかり作りこまれているので誰もが満足するだろう。
だが最初のエンディングを見るまではラスボスには絶対に勝てない設定となっており、どんなに頑張って育てても相打ちになって死ぬ主人公。
ある意味鬼畜であり「糞ゲー」と評価している人はこの場面が余りにも衝撃が強すぎたとしか言いようが無い。
このゲームの真価は最初の衝撃的な物語をクリアして主人公のレベルなどのデータを引き継ぎ、2巡目からが良作と言われるほどの魅力を出すのだ。
例えば一般庶民でエンディングを迎えたかと思えば、次の巡回では他国の王になったり、英雄になったりなど、当時では珍しいほどに何十通りもの物語とエンディング、数々の隠しイベントが盛り沢山用意されていた。
だからだろうか?
最初のエンディングの衝撃が強すぎて、他のエンディングを見なかった者からは「糞ゲー」と評価され、何種類ものエンディングを満足するまで見た者からは「神ゲー」と評価されていた。
だからといって私は、いつ夢から目が覚めるか解らないゲームの中だとして、どうやって物語を進ませようか悩んでも、そもそも最初の強制ルートであれば他のルートに進むことすらできない。
おまけに私が育て上げたデータの主人公であれば、選択できるルートが増えていくことになる。
どうしたものか?
黙ったまま考えていると、未だに心配そうに見つめている騎士の存在に気づいた。
「クロノス殿下…」
騎士の呟きで視線を送ると、騎士は私と視線が合い戸惑う様子を見せながらも話しかけてきた。
「殿下、先ほど辺りを見回していたようで何かございましたか?」
話を聞きながら私はプロローグの時に話しかけてきた騎士の名前を必死に思い出していた。
クロノスが最近招き入れた若き幕僚の一人であり、今回は護衛役を任し側に居た騎士の一人だったはず、たしか名前は…
「アレス、今の戦場を見てどう思う?」
「っは!タブナジア王国の軍は潰走にうつりつつあるかと思います!!」
私が問いかけるとアレスは数瞬の間を置いて、ゲームの設定どおりの言葉を自信有り気に答えてきた。
戦場に視線を移し今の進展を見つめた。
何やら膠着状態に陥っているような戦場に何故か見えるが、私は大して気にせずゲームのシナリオ通りのセリフを口にしていた。
「そうか、お前の目から見ても潰走に見えるか。だったらこの潰走をほんものの潰走にさせてやらねばならんな?」
「…殿下?」
困惑しているアレスを無視するかたちで、私は手綱を引き、自ら陣頭に馬を駆り立てながら声を出した。
「一兵も逃がすな!!」
将兵の人垣が馬で駆り立てる私に対して、一本の道を作るかのように将兵の波は避け、私は先導者になった気分でその道を駆け走り、さらに声をはげました。
「メリクリウスの首を取れ!奴はタブナジア王国一の宿将。生死を問わぬ。奴の首に金貨一千枚の懸賞をかけるぞ!!」
私の声に多くの将兵が歓喜の声を上げ、一部の集団から「サンドリア帝国万歳!クロノス万歳!」と言う合唱まで聞こえ始めていた。
夢の中とはいえ、こんなカッコイイ主人公を見てみたかったんだよね!!
ゲーム中の主人公は優しすぎて潰走する敵を見逃すんだけど、私は完璧な勝利を手に入れてスカっとしたいしね。
後は、これで主人公が私でなければ満足度100%なんだけど……。
それと使者からの報告が来ても、勝利が確実になるまでは聞きたくないから、プロメテウスが近くに来れないようになるべく前線よりの陣頭でいきますか。




