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第六話 裏

「クロノス、クロノス…」


それは低い、生気を欠く空気の波立ちのようであった。


私は声の主は誰だか分かっていた。逆に声の主が起き上がり私に対して声をかけてくれたことで、私はバットエンドの一つを回避できたことに安堵しつつも、ゆっくりと視線を動かした。


それは予想していたよりも恐怖と不快感をともなった存在の父帝が、両眼を見開いて凝視していた。

もろいガラスの破片と化した理性を素早く修復させながら、クロノス大公としてのセリフを記憶の中から探り出していた。


「父上、これはどういう事情でございますか?」


問いかけはしたものの、私はこ何度もこのシーンをゲームで見てきたので知っていた。


父は子を試したのだと。


生き残った最後の息子の心を、自らの訃報によってもてあそんだのだ。

自分の死が息子をどう反応させるか、戦場を捨てて病床へ駆けつけるか?それとも欲望のままに権力へと駆けぬけるか?舌なめずりしながら見守っていたのだ。


私は嫌悪感からくる嘔吐を堪えながら沈黙し、父帝を見つめていた。


設定通りに淡々と物語が進むかと思っていたが、夢の中のはずなのに父帝の一言が一句が、私の肌をなでまわし最後には氷水を頭からかけられた様な、妙な感覚を受けることとなった。


「もしもお前が、わしの死を喜ぶような素振りを見せれば、お前は無事ではすまなかった」


老いた老帝は正気を失った者が放つ独特の光を両眼にちらつかせている。


「そのときは、お前の両眼はつぶされ、僧院で虚しい生涯を送ることになったであろうな。だが、お前の孝心がお前を救ったようじゃの。さしあたってお前はわしの試練に耐えた。この次はわからぬが、いまはとにかく試練に耐え抜いたと言っておこうかの」


ゲームの本編設定では、父帝のこの言葉がきっかけでクロノスが決意を固め、いや…生まれてからの20年間に及ぶ忍耐の堤防が決壊し、ついに父帝の所業に耐え切れなくなったクロノスが、怒りと言う名の流れ出す溶岩の熱さと勢いで「ためらい」をも押し流し、正気に戻ったクロノスの目の前には、自らの手で父帝の頭を枕に押さえつけ、そのまま窒息死させてしまった父帝の遺体があった、というのが話の流れであった。





僧院で虚しい人生と言っていたが、実際に喜べば斬首してくる父帝の言葉を真に受けてはいない。

それに私は20年もの間、父帝の言う数々の試練を乗り越えてきたクロノス本人ではない。

私が知っている試練は物語の中でもこの一つだけなのだ。

だから実際に試練を受けたのは今回の一つだけだし、これから先に起きると言う試練を私が受けることは無いだろう。


ゲームでの設定について考えていた私を無視するように、父帝は、肉が削げ落ち水気にとぼし体を起こし、彼のいわゆる試練の対象を、主だった廷臣全員に拡大する計画を、だらだらと語り続けていた。


試練に耐えられなかった廷臣は、まとめて処刑するという恐ろしい計画を。


私は物語のクロノスとは違い、身動きできずに沈黙し見守っていた。

設定通りならば、父帝の寿命は後数ヶ月の命だから。

書き終えて読んだら暗!

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