第五話:繋がり
「浩二…?」
「愛美?」
「ねえ、浩二、本当に浩二なの?」
震えが止まらない…。即死する程の大事故に巻き込まれた浩二が、綺麗に、見慣れた服を着て目の前にいる。
幽霊なのかはわからないけど、ここに実際にいるのは確かだ。
「浩二、やっと…」
「なんでここにいるんだよ!!もしかして自殺したのか?」
浩二が手を伸ばすと、肩が何物かに触られたような圧迫を感じさせ、ユサユサと揺らされている。
何これ…?
「何言ってるの。ここは…私達がよく買い物していた商店街だよ」
「お前こそどうしたんだよ!!ここは…死者の世界だぞ!!」
「えっ?」
私はとりあえず浩二に今さっきまで起こっていた事を説明した。
「私は眼鏡を取ったらこの世界は見えなくなるの」
「その時、俺の世界では愛美が実体化しているんだよ。ちゃんと触れるんだ」
あの時私を揺らしていたのは、浩二だった。
「じゃあ、私が眼鏡を掛ければ私は浩二の世界に行って、浩二は私の世界に行けるって事?」
「たぶんな」
でも、私は浩二と会えた…。
今まで言えなかった思いや、今まで貯めていた寂しさが一気に放出された感じ。
優しい声で『好き』と囁かれたい。
あの筋肉質な腕で抱き締めて欲しい。
「浩二…」
んっ?と返事する前にギュッと抱き締めた。
ゴツゴツした腕。
どれだけ強く抱き締めても、浩二は痛い表情を見せない。
「好きだよ…」
「愛美…」
「もう謎解きなんかどうでもいい…。もう浩二と一緒にいられる…私はそれだけで嬉しいよ」
すごく幸せだよ…。
朝目覚めてすぐに眼鏡を掛けると、もう浩二は起きていた。いつもは寝坊してばっかりで困らせてたのに…。私はなんか幸せ過ぎて笑顔になった。
「おはよ、早いね」
「なんか寝なくても疲れないし、栄養も失われないんだ。死んだから」
「…なんでそんな事言うの!?浩二と私は繋がってるじゃん。この眼鏡で」
この眼鏡がなければ、私はどうしていたのだろう。
死んでたかもしれない。
人殺しをしてたかもしれない。
いるはずもない浩二を求めて、行方不明になっていたかもしれない。
でも浩二はここにいる。
この眼鏡さえあれば、ずぅっと私と浩二は繋がっている。
大好きとか。
愛してるとか。
好きなだけ言える。
私の思いが、浩二に届く。
浩二に会いたかったから…。
会いたかった…。
「ねえ、浩二」
「ん?」
「今から色んな人に会うけど、びっくりしないでね」