第四話:不思議な眼鏡
私は会社を辞め、自宅に引きこもる事が多くなった。たまに浩二の家族にご飯の誘いがあるけど、浩二の匂いがあると、泣きたくなるから断っている。
「あっ、みかんが腐ってる」
浩二の大好物でお供え物のみかんが、緑色に変色している。こんなものを浩二に食べさせる訳にはいかない。
「みかん買ってくるね」
私はゆっくりと部屋を出た。
浩二のみかんに対する執着心は、計り知れないぐらいだった。明日世界が無くなるとしたら、浩二は私と一緒にみかんを食べるんだって。
それだけみかんが大好きで、大好きで…。でも、『やっぱり一番は愛美だよ』と言って抱き締めてくれたっけ。
浩二の思い出を話すと、きりがない。
おじいちゃんになって、そんな思い出話に華を咲かせたかった。
会いたいよぉ。浩二に会いたいよぉ。
私はしゃがみ込んで嗚咽まじりに泣いていた。通りすがりの人もなんだこいつ?と思っているかも…。
そんなの気にせずに私は泣いていた。
しばらく泣いて、顔を上げると、まるで水の中に入ったように視界がぼやけている。
そしたら、ぼやけた視界の中で光る物を見つけた。
私は目を擦って、涙を拭き取り、もう一度見るとそれは眼鏡だった。
なんでこんな所に眼鏡?近くに眼鏡屋さんも無いし、誰かが落としたって感じでも無い。
しかも不思議な事に誰もこの眼鏡を気にしてない。
みんな眼鏡に視線を向けない。
まるで道路に一体化しているかのように。
でもなんか、オーラがすごい。
もしかして…私しか見えない?
私はなんだかこの眼鏡をもっと調べたくなった。
レンズの端に、『KK6580234』と記されている。商品番号かなと思って、しばらく様々な所を見た。
オーラ以外は普通の眼鏡。
私は…、ゆっくりと眼鏡をかけた。
なんか、癒される。なんかストローで邪気を吸われたかのように疲れが抜ける。
私は、温泉に浸かったような顔になった。はぁ…気持ちいい…。
そして…ゆっくり目を開けた…。
「!!…えっ?」
そこは商店街では無く、殺風景な荒れた土地だった。
「えっ?何?ここ?」
私はびっくりして眼鏡を外した…。
あれ…?普通の商店街だ。
私は立ち尽くした。
なに…この眼鏡?
眼鏡のオーラは大きくなっている。
私は気持ち悪いのを我慢してまた眼鏡を掛ける。
殺風景な土地…。赤く染まった空に稲妻が走っている。所々に人の影がある。
気持ち悪い…。
…。あれ、誰か立っている。
身長は高めで、見覚えのある服を着ている男。誰だかわからないけど、とても暖かい。
私は顔を確かめる為、ゆっくり顔を上げると…。
いきなり出てきた涙…。
何度拭っても拭っても出てくる涙。
泣きすぎて声も出ない。
でも私が凄く言いたい言葉…。
ボロボロ出てくる涙を必死で拭いながら私は呼んだ。
「浩二…」
「愛美…?」