いや、時代についていけないとかじゃないよ。【改訂版】2010.8.11
「喉・・・乾いたな・・・」
男は何故、働くのか。
やりがい? オレは仕事にやりがいを感じたことなどない、多分。
家族のため? こっちが正解か。オレは家族が食って行くため、仕方なく毎日汗をかく。
それで幸せか。
「おい、もうできたか?」
この野太い声の主はパートナーとでも言うのか、まあ仕事はできて頼れるし、それに賢い奴だ。
「いや、まだだ。もう少しだがな。」
「早く頼むよ、今日は応援部隊もいるんだから。ほら、そろそろ来る頃だ。」
「でも、いるかコレ? 昔はこんなものに頼らなかったがな。」
「安全策だよ。こいつが出来てから、効率が良くなったからな。」
「オレはこんなもん使わなくたって、やってみせるがね。」
すると野太い声の主はクスリと笑った。
「みんな、お前みたいに野性的じゃないの。」
おいおい、人をジャングルの王者みたいに言うなよ、そう思ったが口ばかり動かしても仕方がないので手を動かすことにした。
「お、いいね。じゃ、頼むよ。」
「あいよ。」
しばらくして応援部隊が辿り着く頃、オレは作業を終えていた。
応援部隊に何人か若いのがいる。今回は恐らく出来る奴が集まってるはず、若くてもやり手なんだろう。
その中の一人がオレに近付いてきた。
「お噂はかねがね・・・」
「は? 噂? なんの?」
「語り種ですよ、あなたの活躍は。今日だってあなたの野性的なところに憧れて僕はわざわざ志願してやってきたんです。」
「おいおい、人をジャングルの王者みたいに言うなよ。」
おっと、つい口から出ちまった。
「なんです? ジャングルの王者って?」
さらにジェネレーション・ギャップか。説明が面倒だ。
「えっと、それはな・・・・」
「おおい皆、そろそろ出るぞ。ひとつずつ持ってくれ。」
「また今度教えてやるよ。」
ふー、助かった。
「あれ、人数分無くないか?」
「あー、おれはいいよ。この弓ってヤツはなんだか性に合わねえ。オレは石オノで十分だ。もちろん便利な道具で、良さも分かってる。便利な世の中になったもんさ。こういうもんは若い奴らのほうが得意だろうしな。あと、力任せにぶっ叩いた方がやりがいあるだろ?」
「ふっ。まあ、お前なら大丈夫だな。期待してるよ、ジャングルの王者。」
「若い奴、ソレ知らねーみたいだぞ。」
「え? そうなの? 今の子供は何して遊ぶんだ?」
「今度、うちの子に聞いてみるよ。歳とったなオレたち。時代はどこまで進むのかね。」
家族のため、食うため、今日もオレたちはマンモスを追い掛ける。
新しくて便利な道具には疎くなってきたけど、気付かないところで実はやりがいも感じていたようだし、オレは幸せだ。
処女作「いや、時代についていけないとかじゃないよ。」を若干書き直してみました。