第3話 トマト地獄
トマト地獄
私はキュウリとトマトが嫌いだ。
キュウリが苦手な理由は単純で、
基本的に加熱する食べ方が存在しないからである。
(ないことはないのだろうが、少なくとも私は知らない)
そしてトマトは、
農業大学に入ってからさらに嫌いになった。
農業大学に通う連中のほとんどは、
野菜を食べるのも、作るのも好きな奴らばかりである。
そんな奴らは、
平気な顔で私の隣でトマトを齧る。
しかも質が悪いことに、
野菜嫌いの私を異端児扱いしてくる。
「なんで食べれんのか、わからん」
人の好き嫌いでそこまで言えるのが異常だと思うが、
奴らには奴らなりの理由がある。
水や肥料の量で味が変わるのが農業だ。
実際、雨後のイチゴと晴れが続いた日のイチゴでは、
味がまるで違う。
つまり奴らは、
自分たちの野菜に強い自信を持っている。
自分たちの作った野菜は世界一おいしい。
それを素面で語れる程度には。
その結果、どうなるか。
「このトマトは市販のと比べて全然味が違うから」
っと、試食を勧めてくる。
私の野菜嫌いを克服してもらおうと考えているのだろう。
有難迷惑である。
ただ実際、農業大学に通ってから、
市販の野菜と取れたての野菜は別物だと知った。
イチゴもトマトも、
完熟したものは出荷に適さないが、
味は圧倒的に良い。
「そこまで言うなら……」
一口食べる。そして理解する。
うん、不味い。
ただ生産者の目の前に言うのもなんなので、
オブラートに包んで二度と食わさないことをお願いした。
が、それがよくなかった。奴にオブラートは通用しない。
そもそも風邪すら引かない奴らが、オブラートの使い方を知るわけない。
「今回は前回より格段においしい。
一口だけでいいから食べて」
また来た。
断るとうんちくが始まる。
いかに前回と比べて改良したか、の雑学だ。
そうまで言われると少し興味が出てくる。
食べる。美味しくない。
それがトマトが終わる時期まで繰り返すことになる。
ていうか学部の雰囲気が
「アイツに旨いと言わせることができれば、一流」
みたいな空気感が出来上がっていた。
勝手に人を審査員にするな!!
こうして私は、
済し崩し的に、
大玉。
小玉。
ミディ。
フルーツトマト。
ありとあらゆる品種を食べさせられた。
もちろん、どれも苦手だった。
その日から、私のトマト嫌いは加速した。
ちなみにトマトに関しては、
加工すれば食べられる。
そのため私は、
秋になるまでトマトジャムという
よく分からない物体を生産し続けていた(それなりに好評だった)。




