第1話 生トウモロコシで生き延びた話
これは私が農業大学に通っていた頃の実話である。
全寮制の大学で、学生が食糧難に陥った話だ。
皆さん、収穫したてのトウモロコシは生で食べられる、という話をご存じだろうか。
私は大学在学中に、身をもって知った。
我が農業大学では、朝食が事実上存在しない。
食堂は八時オープン。
だが作業は朝五時から始まる。
早朝から作業している学生の多くは、
品質上出荷できなかったキュウリやトマトを齧りながら働いていた。
農業らしく、のどかな光景に見えるかもしれない。
だがこちらは必死である。
まだまだ食べ盛りの我々にとって、
野菜より肉のほうが食べたかった。
なんなら肉用牛コースの牛を夜な夜な解体しようかと、
割と本気で話し合っていた。
さて、問題はここからだ。
私は生野菜が嫌いだった。
特にトマトとキュウリは全く食べられない。
しかし夏場、生で食べられる野菜と言えば、
だいたいその二つである。
つまり私は、
朝食抜きで三時間労働する人間だった。
ある日、友人が言った。
「トウモロコシ、生で食えるらしいぞ」
渡されたのは、
虫に食われて出荷できないトウモロコシだった。
最初は、これで自分を殴れという意味かと思った。
友人曰く、テレビで見たらしい。
私は九割疑っていた。
そもそも聞いたことがない。
こいつには何度も騙されている。
食えるならお前が先に食え。
だが空腹が勝った。
多分、ナマコを初めて食べた人間も、
これくらい追い込まれていたのだと思う。
齧った。
甘かった。
収穫したてだからなのか、
育て方が良かったのか(認めたくないが)、
理由は分からないが、とにかく甘かった。
空腹補正も込みで、
今でもあれ以上うまいトウモロコシに出会ったことはない。
それ以来、私は友人の作業を手伝い、
報酬としてトウモロコシをもらうようになった。
その年、
「トウモロコシは生で食える」
という、豆知識が学生間の常識となった。
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