表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜のおじさんは今日もパーカーの君と公園でしっぽりする  作者: こうと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/11

第7話 月曜日 魔法のみたらし

月曜日の朝ほど、この世に不要なものはないと思う。


 日曜日の昼過ぎまで泥のように眠り、溜まった洗濯物を片付け、気づけば外は暗くなっていた。

唯一の休みは、砂時計からこぼれ落ちる砂のように、あっけなく消え去った。


 そして迎えた今日。案の定、仕事は山積みだった。

 週末に溜まったメールの処理、週明け早々の会議、そして上司の機嫌取り。

 

「……ああ、死ぬ。今週はもう、今の時点で限界だ」


 22時。重いカバンを肩に食い込ませ、俺は夜の街を彷徨う。

 向かう先は、いつもの公園だ。

 今夜の「しっぽりセット」は、スーパーで見つけた三本入りの『みたらし団子』。それと、渋めの『濃いお茶』。

 なんだか無性に、ベタベタに甘くて、少ししょっぱいものが食べたかった。


 公園に入ると、いつものベンチに「彼女」の影を見つけた。

 パーカーのフードを被り、スマホをいじることもなく、ただ夜の闇を眺めている。


「……パーカーちゃん。生きてたか」

「あ、おじさん。……お帰りなさい」


 彼女の声が、いつもより少しだけ低く、掠れている気がした。

 俺は隣に腰を下ろし、みたらし団子のパックを開ける。


「ほら。今日は和菓子だ。月曜から飛ばしすぎた俺たちには、これくらいのご褒美が必要だろ」

「わぁ……お団子だ。おじさん、分かってますね」


 彼女は一本、お団子を手に取った。

 とろりとしたタレが、街灯に反射して琥珀色に輝く。


「……昨日、お仕事大変だったのか?」


 俺が尋ねると、彼女は団子を頬張りながら、小さく頷いた。


「ん。……朝から晩まで、ずっと別の自分を演じてました。カメラの前で笑って、可愛いこと言って、ファンの人に手を振って。……さっき楽屋で鏡を見たら、顔が笑ったまま固まってて、ちょっと怖かった」


 彼女は団子をゆっくりと噛み締め、それから深く、深く溜息をついた。

 

「……でも、ここでお団子食べてると、やっと顔の筋肉が緩んでくる感じがします」

「それは良かった。俺も、さっきまで部長の顔を思い出すだけで吐き気がしてたが、君のパーカー姿を見たら、ようやく『夜』が始まった実感が湧いてきたよ」


 俺たちは並んで、お茶を啜った。

 みたらしの甘辛い味が、疲れた身体に染み渡る。

 

「ねえ、おじさん。……一つ、わがまま言ってもいいですか?」

「なんだ。高いものは買えないぞ」

「そうじゃなくて。……少しだけ、手を貸してください」


 彼女はそう言うと、俺の左手を取り、自分の両手で包み込んだ。

 彼女の手は驚くほど冷えていて、けれど、微かに震えているのが分かった。


「……おじさんの手、あったかい。……パソコンばっかり打ってるからかな」

「ただの血行不良かもしれないがな。……冷えてるな。今日は風が強いから」

「いえ、そんなことないですよ?」


 俺はそのまま、手を引かずにいた。

 恋人同士のような繋ぎ方じゃない。ただ、凍えた小鳥が温もりを求めているような、そんな切実な温もりの共有。


「……これで、明日も『可愛い私』になれそうです」

「そうか。なら、好きなだけ握ってろ。俺の手で良ければ、いくらでも貸してやる」


 月曜日の夜。

 絶望から始まった一週間だったけれど。

 手のひらから伝わる微かな体温と、みたらし団子の甘い香りが、俺たちの夜を優しく、しっぽりと包み込んでいた。


「……明日は、何を持ってきてくれるんですか?」

「そうだな。……温かい『たい焼き』なんてどうだ?」

「最高です。……あんこは、つぶあんでお願いしますね」


 彼女の少しだけ明るくなった声を聞きながら、俺は冷たい夜風が、さっきより少しだけ心地よく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ