[ 選択肢B ]
分岐B「正しかったはずの選択」
その日は、
少しだけ、焦っていた。
新体制になってから、
「判断ができる人」が評価される空気が、
はっきりしてきていたからだ。
午後、
例の◯◯社員が、声をかけてくる。
「ナコハさん、
この件、どう思います?」
資料は、
若手が泣いた、あの案件の続きだった。
ナコハは、一瞬だけ考える。
――ここで曖昧にすれば、
――また“選ばせる側”になる。
「この進め方でいいと思う」
口にした瞬間、
胸の奥で、何かがずれた。
◯◯社員は、満足そうにうなずく。
「ですよね。
ナコハさんが言うなら」
その言葉が、
予想以上に重かった。
―――
それでも、ナコハは迷わなかった。
「こちらを残します」
はっきりと、名前を指した。
理由も、数字も、揃っていた。
切られた側は、淡々としていた。
想定内だったのだろう。
問題は、残った側だった。
仕事はできた。
だが、顔色が日を追うごとに悪くなった。
「期待に応えなきゃ、と思って」
そう言って、無理をした。
断らなかった。
弱音を吐かなかった。
倒れたのは、突然だった。
ナコハは、自分の選択を思い返した。
論理的には正しかった。
情も、加味したつもりだった。
それでも、間違えた。
初めて、彼女は自覚した。
自分の判断が、直接、誰かを壊したのだと。
数日後、
別部署から正式なクレームが入る。
「現場を見ていない判断だ」
「責任者は誰だ」
名前が、
ナコハのところまで届く。
――私は、選んだ。
――でも、正しくなかった。
新社長との面談。
今回は、
最初から空気が違った。
「あなた、
“決める側”に来たのよ」
新社長は、淡々と言う。
「でもね」
一拍。
「まだ、自分の基準がないまま
人の正しさを借りた」
その言葉は、
はっきりとした失点だった。
ナコハは、否定できなかった。
「間違えるのはいいわ」
新社長は続ける。
「でも、
誰の基準で間違えたかは、
覚えておきなさい」
その日、
ナコハは初めて、
“評価が下がる音”を聞いた。
それでも、
逃げ場はもうなかった。
――私は、選んだ。
――間違って。
だがそれは、
「選ばない」よりも、
はるかに重い現実だった。
→もう一つの選択を読む:【13】
→物語を合流地点へ進める:【15】




