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[ 選択肢A ]

(分岐A)「選ばないことを選び、誰かを失う」



 その日は、特別な予定はなかった。


 定時まで、

 与えられた仕事を淡々と終えるだけ。


 午後三時、

 社内チャットに短いメッセージが流れた。


 > ◯◯さん、

 例の件で少し相談いいですか




 送り主は、

 あのとき廊下で資料を抱えていた若手だった。


 ナコハは、画面を見つめた。


 ――今は、私じゃない。

 ――そういう体制だ。


 それは、

 間違っていない判断だった。


 返事を打つ。


 > ごめんね

 今はその件、私の担当じゃないから

 ◯◯さんに聞いてみて




 送信。


 それだけ。


 数分後、

 チャットに「了解です」と返ってきた。


 それ以降、

 彼女からの連絡はなかった。


 翌週。


 若手の席が、空いていた。


 理由は、誰も詳しく言わなかった。

「合わなかったらしい」

「判断が遅かったらしい」


 ナコハは、

 その席を、見なかったことにした。


 見てしまえば、

 自分が何を選んだのか、

 はっきりしてしまうから。


 ―――


 異変は、数字に出なかった。


 業績は維持され、遅延もなく、クレームも増えていない。

 報告書は綺麗だった。



 ただ、一人だけ、静かになった。


 彼女は元々、声が大きいタイプではなかった。

 会議でも発言は少なく、頼まれれば引き受ける人だった。


「最近、見かけませんね」


 誰かがそう言ったとき、ナコハは気づいた。

 配置換えで、負荷が集中していたことを。


 切られなかった分、誰かが多く抱えていた。

 選ばれなかった分、誰かが選ばれ続けていた。



 彼女は、辞めた。


 理由は「体調不良」。

 引き継ぎは簡潔で、文句はなかった。


 ナコハは、送別のメールを下書きに残したまま、送れなかった。

 何を書いても、嘘になる気がしたからだ。

 送信ボタンを押そうとするたびに、ため息が漏れる。


 守ったつもりだった。

 切らないことで、誰も失わないつもりだった。


 だが、失われた。


 誰の判断でもなく、

 誰の悪意でもなく。


 選ばなかった、その隙間で。


 ―――


 新社長は、何も言わなかった。


 ただ一度だけ、

 フロアを歩く途中で立ち止まり、

 空席を見てから、ナコハを見た。


 視線が、ほんの一瞬、重なる。


 ――選ばなかった。

 ――だから、失った。


 それが、

 この世界で一番静かな別れ方だった。




 →もう一つの選択を読む:【14】

 →物語を合流地点へ進める:【15】

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