◆ [分岐から合流] リザルト、そこから(小さな成功と、最初の失敗/「だから、私が決める」)
小さな成功と、最初の失敗
二つの結果は、同じ場所へ戻ってきた。
「切らなかったこと」も、
「切ったこと」も、
どちらも“正解の顔”をしていたが、結果は同じだった。
誰かが、静かに壊れた。
新社長は、会議で初めて言葉を選んだ。
「制度は、まだ未完成です」
それは弱音でも、謝罪でもなかった。
事実の確認だった。
ナコハは、その場で何も言わなかった。
だが、胸の中でははっきりしていた。
――私は、支える役に向いていない。
善意の調整は、
誰も救わないことがある。
「だから、私が決める」
その朝、
ナコハはいつもより早く出社した。
理由はない。
正確に言えば、
理由を作らないためだった。
フロアは静かで、
人の気配が薄い。
分岐Aを通った読者には、
「空いた席」が見える。
分岐Bを通った読者には、
「居心地の悪い沈黙」が聞こえる。
どちらも、同じフロアだ。
ナコハは、自席に座る。
机の上には、
もう共有されない資料、
誰も確認しないメモ、
一人分として最適化された配置。
――私は、
――ちゃんと仕事をしている。
その事実だけが、
逆に浮いていた。
午前中、
社内に小さな連絡が回る。
> 本日午後、
全体方針の再確認ミーティングを行います
誰もざわつかない。
もう、そういう空気ではない。
ナコハは、その文面を見て、
なぜか昨日の二つの選択を思い出す。
・選ばなかった日
・間違って選んだ日
どちらも、
「自分の基準が曖昧だった」という点では、
同じだった。
違ったのは、
失ったものの形だけ。
昼。
輪っぱの弁当を開ける。
今日は、
特別な米でも、
控えめな米でもない。
家にあった、ごく普通の米。
それが、
なぜか一番、落ち着いた。
――私は、
――誰のために遠慮していたんだろう。
――私は、
――誰の基準を借りて、選んでいたんだろう。
答えは、
まだ言葉にならない。
午後、
ナコハは呼ばれる。
三度目の面談。
今度は、
「選択」ではなく、
「確認」のためのものだった。
合流後の面談
新社長は、
いつもと同じように座っていた。
だが、
今日はコーヒーが一つだけだった。
「あなた、
ここまで来たわね」
評価でも、
皮肉でもない。
事実確認。
「人を失うやり方も」
「信用を失うやり方も」
新社長は、
両方を並べるように言う。
「どちらも、
あなたが“自分の基準を持たなかった”結果」
ナコハは、うなずく。
否定する余地が、
もうない。
「でもね」
新社長は、
ここで初めて、少しだけ笑った。
「両方を通った人は、
次に進める」
ナコハは、顔を上げる。
「次、ですか」
「ええ。
“選ぶ/選ばない”の二択じゃないところ」
その言葉で、
ナコハは理解する。
――ここまでは、
――試用期間だったのだ。
「あなたが、
誰も守らない自由を選ぶのか」
「それとも、
誰かを切る覚悟を持つのか」
新社長は、
一拍置いてから続ける。
「それとも――
切らない構造を作るのか」
その瞬間、
ナコハの中で、
すべてが一本につながる。
・遠慮してきた過去
・一人用の快適さ
・選ばせてしまった責任
・間違って選んだ痛み
どれも、
「自分の基準」を持たなかったために、
起きていた。
「答えは、
今日じゃなくていい」
新社長は立ち上がる。
「でも、
あなたはもう
“戻れない側”よ」
扉が閉まる。
ナコハは、一人残る。
フロアに戻ると、
相変わらず人は少ない。
それでも。
――私以外、居なくなってた。
その言葉の意味が、
初めて変わった。
「だから、
私が決める」
小さく、
しかしはっきりと、
ナコハはそう思った。




