エピソード 1ー5
『――セレスタリア治安維持部隊より出動要請。セクトラム旧都市、第五環、開発ブロックに魔法生物の侵入を確認、対象の撃滅を求むとのことです。マスター、指示を』
コネクトレインを通じてリーシアの声が響く。突然のことに浮き足立ちそうになる。
……落ち着け。セレスタリアとヴェルターラインは協力関係にある。そのセレスタリアに所属する治安維持部隊の要請なら受けるべきだ。
『リーシア、第一部隊を率いて敵の殲滅に向かってくれ。開発ブロックなら、隠れて暮らしているMAHS患者が暴走するかもしれない。俺も準備をして後を追う』
『――ダメです』
「ダメなのか!?」
コネクトレイン越しに却下され、思わず声に出してしまう。セフィナがどうしたのという目で見てくるが、俺はなんでもないと視線で答えてリーシアとの通話に意識を戻す。
『なにがダメなんだ?』
『また一人で無茶をするつもりですよね? せめて護衛を連れて行ってください』
『え? あぁ、そういうことか。なら……レーネを連れていく。それでいいか?』
問い掛けると、『分かりました。くれぐれも無理をしないでくださいね』と返ってきた。俺は『リーシアもな』と伝え、続けてレーネに護衛として同行するように指示を出す。
そうして通信を終えた俺は、セフィナに視線を戻した。
「第五環に魔法生物が現れたらしい」
「第五環に……それは心配ね」
第五環とは、いまは廃墟となった巨大円環都市の壁の外にある再開発ブロックだ。昔は下級市民が暮らしていたそうだが、いまは貧困層と、MAHS患者が素性を隠して暮らしている。
そこに制御を失った都市のガーディアン、魔法生物が現れ、住民の安全を脅かしている、という訳だ。
「ということで行ってくる。アマリリスのことを頼む」
「ええ、マスターも気を付けて」
その後、俺はすぐに出撃の準備をして、第一収容ベイへと移動した。
ちなみに、館内の案内図を見つけたので今回は迷わなかった。そして、装備はリーシアが用意しておいてくれたので、問題なく揃えることが出来た。
「マスター、早く乗り込むのよ」
第一収容ベイでは、首を長くしたレーネが待っていた。
彼女は黒を基調とした、胸元に穴の空いた扇情的なドレス風の戦闘服を身に着け、その下には黒いニーハイソックスを身に着けており、絶対領域には白い太股が見えている。
およそ戦闘には向かない格好だが、Chord MAHSのキャラは基本的に似たような格好だ。
これは、膨大な魔力で身体能力を強化した彼女達の身体が、その辺のアーマースーツよりも強固なため、動きやすさを優先しているという設定だった。もっとも、ドレス風の戦闘服で動きやすさもなにもない気がするんだが……その辺はゲームの設定ゆえだろう。
それはともかく、彼女に急かされ、車両の後部コンパートメントに乗り込む。魔石を動力源とするエーテルギア仕様のそれは、ほどなくして運転手の手によって走り出した。
左右に置かれているベンチシートの片側に座る俺は、揺れに身を任せながら向かいに座るレーネに視線を向けた。
公式設定によると18歳。金色の瞳に金色の髪、ドレス風の戦闘服に身を包んだ彼女は、元貴族令嬢で、MAHSを発症させて家を追放されたという重い過去を持つ。
心に傷を負った彼女は、自分を護るために他者に強く当たるようになった。そんな過去が好感度最大イベントで明らかになり、レンに心を開くようになる。
いわゆる、ツンツンキャラがデレた状態。こいつはこいつで、たまに見せる弱さが可愛いんだよな――と、そんなことを考えていると、不意にレーネが視線を上げた。
「治安維持部隊は、どうして自分たちで魔法生物を狩らないのかしら?」
「連中はあくまで都市セレスタリアの部隊だからな。第五環は管轄外なんだ」
――と、ゲームで知った知識を語るが、それを聞いたレーネは不満げな顔をした。
「でも、暮らしているのはセレスタリアの住民なのよ?」
「……貧困層やMAHS患者は別、ってことなんだろうな。それでも、ヴェルターラインに救援を依頼する辺り、連中にも葛藤はあるってことじゃないか?」
実際のところ、ストーリーではそういったことが語られている。
というか、治安維持部隊にもガチャで引けるキャラがいる。当然完凸して、好感度を最大にあげたうえで、課金指輪をプレゼントしたんだが……どういう扱いになってるんだろうな?
「ふんっ。連中には人の心がないのよ。葛藤なんてあるはずないに決まってるのよ」
レーネが悪態を吐く。その声を聞いた俺は我に返った。
いまは、別の組織にいるキャラのことまで考えている余裕はない。ひとまず、この状況を乗り越えよう。そんなふうに考えていると、ほどなくして車両が第五環に到着した。
第五環は車両の走れるような状態ではないので、車両は運転手に任せ、俺達は徒歩で奥へと向かう。ほどなく、ジメジメとしたカビっぽい匂いが風に乗って漂ってきた。
『こちらレン、そちらの状況は?』
『こちらリーシア、魔法生物を殲滅中です。ただ、襲撃を受けた一般市民の中にMAHS患者がいたようで、スラムの警備隊から救援要請が来ています』
『了解、俺達はそっちに向かう』
コネクトレインを切り、レーネに視線を戻す。
「魔法生物は問題なさそうだ。ただ、MAHS患者が見つかったようだ」
「……そう、どうするつもりなの?」
「いつも通り保護するだけだ」
俺の答えに、レーネはなにかを言いかけて――無言で小さく頷いた。
MAHSの発症条件は分かっていない。感染する類いの病ではないと言われているが、未知の病であるがゆえに恐れる者も少なくない。
なにより、感染した者は最後には暴走し、周囲に破壊を撒き散らして死んでゆく。
だから、MAHS患者は、再開発ブロックで感染者であることを隠して暮らしている。感染者であることがバレた人間は、再開発ブロックですらつまはじきにされる。
そうして行き場を失った人間の受け皿、それがヴェルターライン。
俺達は感染者の最後の希望なんだ。




