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ソシャゲで推し全員に課金指輪を贈っただけなのに、異世界で修羅場が始まった件 ~事後から始まる正妻戦争~  作者: 緋色の雨


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エピソード 4ー4

 ここはセレスタリアの街にあるカティアのお屋敷。彼女は向かいのソファに腰掛けている。だが、乱れたシャツは汗で肌に張り付き、彼女の頬は色っぽく上気している。

 言うまでもなく事後である。


 ……いや、違うんだ。

 まずは言い訳をさせて欲しい。

 いくら俺が、関係を持った推しキャラ全員をハーレムに加えると決意したからと言って、積極的に他の女性に手を出すつもりはなかった。


 ただ、その……ホープギアのデータと日記の件でカティアの屋敷を訪ね、案内された部屋に入るなりカティアから熱烈な歓迎を受けて、そのままソファの上に押し倒されたのだ。

 そして一言。


「私がMAHSを患っていても、抱いてくれるって言ったでしょ?」


 強気な口調、だけどその声はわずかに震えていた。ここで拒絶をしたら、MAHS患者だから抱くのを恐れている、みたいになる。


 この状況で、いや、俺は浮気をしまくってるから、まずはハーレムを認めてくれ。そうしたら抱けるから――なんて言えるだろうか? いや、言えない。というか、この状況でそんな告白をしたらただの鬼畜である。


 ――という訳で、俺は仕方なく、そう、仕方なく。彼女を心配させないために抱いたのだ。まあその……途中からは、俺もわりとノリノリだったんだけどさ。

 そうして彼女は事後特有の色気を漂わせながら、俺が提出した日記を読みふけっていた。それからほどなく、日記から顔を上げた彼女は日記を閉じ、その表紙を指先でそっとなぞった。


「……たしかに、これはご先祖様の日記のようね」

「そうか。その……なんて言えばいいか」


 カティアの先祖は旧文明を支えた天才技術者であり、娘を生け贄にしたマッドサイエンティストでもあり、旧文明を滅ぼして新たな支配者となった裏切り者。

 一つだけたしかなのは、決してオープンにしてはならない情報である、ということだ。


「レン、このことを知っているのは?」

「俺とセフィナだけだ」

「そう……なら、改めて口止めをする必要はなさそうね」

「それでいいのか?」

「ええ。というか貴方は、これ以上に重要な秘密を握っているでしょう?」

「そういえば……そうだったな」


 MAHS患者を排斥して築きあげた新文明の支配者。その一人である彼女がMAHS患者であることは特大の秘密事項だ。

 いまにして思えば、よく彼女が俺を口封じで殺そうとしなかったものである。


「それに、悪いことばかりではないわ。ご先祖は目的を果たしたのだから」

「目的? あぁ……もしかして?」

「ええ。ここに登場する二番目の男の子、それこそが私のご先祖様よ」

「……そうか。母と姉の執念が実を結んだんだな」


 母が娘を生け贄にした報われない話――だと思っていた。だけど、彼女達の執念が男の子を救うことに繋がった。そう考えれば……救いは、あったのかもしれない。


 もっとも、それを知った男の子がどう思ったかは分からないが、母と娘の気持ちが伝わっているのならいいなと思う。そんなふうに考えながら、俺は彼女にメモリーカードを投げ渡した。


「――と、なにこれ、メモリーカード?」


 とっさに空中で掴み取り、それがメモリーカードだと気付いた彼女はふっと笑みを浮かべた。


「……機材は発見できなかったという報告だったけど、やはり発見していたのね」

「別に嘘は吐いていないぞ。それはMAHS患者を生体部品にする非道な装置で、評議会から探すように命じられていたのは、MAHS患者の治療用ポッドのデータだったからな」

「詭弁ね」

「だが、嘘は吐いていない、そうだろ?」

「……そうね。治安維持部隊と話が付いているのなら問題はないでしょう」


 カティアはそう言って、メモリーカードを胸の谷間へとしまった。


「――それで、これを私に渡す理由は?」

「セフィナが解析の協力を求めてる。MAHS患者を暴走に追い込む装置の技術を応用すれば、MAHSを抑制する方法も見つかるはずだからって」

「……貴方、もしかして、私の――」

「いや、俺はなにも話していない」


 鋭い視線を向けられ、俺は先手を打って否定した。彼女はしばらく探るような視線を俺に向けていたけれど、やがて小さく息を吐いた。


「……まぁ、リストレインの開発者である彼女なら気付いてもおかしくはないわね。あらためて口止めも必要ないでしょう」

「いいのか?」

「ええ。藪を突く必要はないわ。代わりに、データの件を了承したと伝えなさい」

「……了解」


 様々な思惑が交錯している。さしずめ、これからも支援して欲しければ、余計な詮索はしないように――と言ったところだろう。

 セフィナもカティアも敵に回したくはない女性だとあらためて認識した。でも、そんな二人を相手に浮気しまくってるんだよなぁ……と、現実を思い出す。


「カティア、実は――」


 そろそろ覚悟を決めて伝えるべきだと口を開いたそのとき、カティアの通信機から声が響いた。彼女は俺に少し待つようにジェスチャーをすると、通信機に「なにかあった?」と問い掛ける。


『お嬢様、例の男を拘束しました』

「よくやったわ。去勢して荒野にでも捨てておきなさい」


 カティアが通信機に向かってとんでもなく物騒なことを口にする。だが、通信機から返ってきたのは、淡々とした『了解』の一言。

 一体何事と、通信を終えたカティアの顔を見る。


「待たせたわね――って、どうしたの?」

「いや、その……すごく物騒な言葉が聞こえたんだが?」

「あぁ、いまの通信? 秘書の婚約者がよそで女を作っていたのよ」


 思わず咽せそうになって、必死に平然を装った。


「へ、へぇ、そう、なんだ。秘書の婚約者が浮気を?」

「そうなるわね。だから、制裁を加えたってわけ」

「……な、なるほど。制裁で、切り落とすんだ……」


 浮気の末路が怖すぎる。というかこれ、俺も複数の女性に手を出していると打ち明けたら切り落とされるのでは? ……嫌だ、それだけは絶対に嫌だ。


「それより、さっきなにか言いかけなかった?」

「い、いや、えっと……そう。リストレインを改造したくてな。それに、そのホープギアの解析データが必要なんだ。だから、なにか分かったら早めに教えてくれ」

「あら、そうなの。なら、出来るだけ早く教えてあげるわ。ほかならぬ貴方の頼みだもの」


 カティアはそう言って投げキッスをした。その姿はすごく魅惑的だけど――さきほど聞いた浮気者の末路が怖すぎて恐怖しかない。

 もちろん、複数の女性と関係を持っているなんて打ち明けられるはずもなく、俺はカティアとの会話を終了。そのまま逃げるように、ヴェルターラインへと帰還した。


     ◆◆◆


 セレスタリアの中心にある議事堂の一室。評議会の面々をまえに、治安維持部隊の隊長であるリアナが報告を続けていた。


「つまり、指定の場所にMAHS患者を治療するポッドはなかったと言うのだな?」

「その通りです、ノクサリオン侯爵」


 リアナはそう言って胸を張る。

 その姿は堂々としていて、とても嘘を吐いているようには見えない。だが、レンから報告を受けているカティアは、それが嘘ではないだけのお為ごかしであると知っている。


 それゆえに、カティアはノクサリオン侯爵を始めとした、他の評議会メンバーの反応をうかがっていたのだが――ノクサリオン侯爵は「ふむ、そういうことならば仕方ない」と口にした。


「……ノクサリオン侯爵、いまの報告を信じるのですか?」


 評議会メンバーの一人がいぶかしげに問い掛ける。


「信じるもなにも、もとより不確かな情報だったのだ。現場に向かった者がそんな装置はなかったというのだ。それを信じるほかあるまいて」

「……まあ、ノクサリオン侯爵がそうおっしゃるのなら」


 他の面々は疑っているようだが、ノクサリオン侯爵の不興を買ってまで追及しようとする者はおらず、それ以上の疑問の声は上がらなかった。

 カティアもまた、「ノクサリオン侯爵のおっしゃるとおりですわね」と白々しく続いた。


 こうして、リアナの報告はあっさりと終わった。彼女は退出を命じられ、評議会も解散。カティアもまた屋敷に帰るべく席を立つ。


 そうして廊下を歩いていると、背後から呼び止められた。カティアが振り返ると、そこにはノクサリオン侯爵の姿があった。彼は七十歳を超えたとは思えない鍛え抜かれた姿でたたずんでいる。


「これはノクサリオン侯爵、わたくしになにかご用かしら?」

「いやなに、この後、わしと食事でもどうかと思ってな」

「あら、せっかくのお誘いですが――食事だけで済みそうにないからお断りしますわ」


 カティアはそう言って妖艶に笑う。それは、『なにを企んでいるの、この古狸』的な揶揄であったのだが、ノクサリオン侯爵はどこ吹く風で顎に手をやった。


「ふむ、フラれてしもうたか。わしも、あの男に負けんくらい、嬢ちゃんを悦ばせてやれると思うんじゃがの?」


 ストレートなセクハラ。だが、この世界に彼のセクハラを咎める法はない。カティアは笑みを深めて、「彼は貴方と違って見境がなかったりしませんので」と返す。


「ふむ? あやつには、若かりし頃のワシと同じ気配を感じるんじゃがな」

「ご冗談を。彼は誠実ですわよ」


 レンが聞いていれば胃痛で倒れそうなセリフ。ノクサリオン侯爵は「そうかのぅ?」と考える素振りを見せ、それからふっと悪い顔をする。


「――それで、ポッドのデータは受け取っておるのか?」


 いきなりの核心。

 だがそれでも、カティアは顔色一つ変えなかった。


「ついに耄碌してしまわれたんですか? 治療用のポッドはなかったと、治安維持部隊のリアナから報告を受けたばかりではありませんか」

「惚けることはない。カティア嬢はヴェルターラインの支援者じゃろう? であれば、秘密裏に入手したデータを受け取っていてもおかしくはないと思ってな」

「あら、なんのことですか?」

「ふっ、上手く隠しておるようじゃが、金の流れを見れば明白じゃ」


 カティアは内心で、『この古狸』と悪態を吐きながらも、表情を変えずに沈黙を守る。そうして見つめ合う二人。静かな廊下の中、空調の音だけが響いている。

 そんな沈黙を破ったのはノクサリオン侯爵だった。


「……そんな顔をせずとも、追及はせん。せいぜい、この街のために有効活用したまえ」


 ノクサリオン侯爵はそう言うと、おもむろに時計に視線を落とした。


「さて、そろそろ行かねば、娘とのディナーの遅れてしまうわい。あぁもちろん、実の娘ではないぞ。いわゆるパパ活という奴じゃ。朝までしっぽりだから邪魔するでないぞ」

「早く行きなさい、このエロじじい」


 カティアがたまらず悪態を吐くと、ノクサリオン侯爵は笑いながら去っていった。それを見送り、カティアもまた車へと乗り込む。

 そうして車が走り出すと、秘書の女性がおもむろに口を開いた。


「ノクサリオン侯爵のあれは探りでしょうか?」

「いいえ、あの男ならすべて把握しているでしょう。ホープギアの正体についても、最初から知っていた可能性が高いわ。最初から、こうなることを予測していたのよ」


 カティアは車のシートに身を預けながら忌々しげに呟いた。だが、その言葉が予想外だったのか、秘書の女性は少し不思議そうに首を傾げる。


「予測した上で、我らを泳がしているというのですか?」

「少し違うわね。それがセレスタリアの利益に繋がると判断した結果よ」

「……利益、ですか?」


 察しの悪い秘書を前に、カティアは思わず溜め息を吐きそうになった。だが、秘書が婚約者に浮気されて気落ちしていることを思い出し、「仕方ないわね」と呟く。


「今回の件、治安維持部隊がホープギアの隠蔽に協力している。つまり、治安維持部隊がヴェルターラインに貸しを作ったと言うことでしょう?」

「それを後押しした、と?」

「ええ。それはセレスタリアの利益に繋がるからね」


 セレスタリアはMAHS患者を恐れ、排斥している。それはMAHS患者が高い戦闘力を有しているにも関わらず、いつ暴走するか分からないからだ。

 だが、だからこそ、統制されたヴェルターラインは高く評価されている。


 そんなヴェルターラインに貸しを作る意味は大きい。カティアが影ながらヴェルターラインに支援をしているのも同じ理由である。


「そして二つ目は、それを黙認したノクサリオン侯爵は、治安維持部隊に対しても貸しを作った、ということになる。あるいは、弱みを握ったと言い換えてもいいわね」

「……たしかに、おっしゃるとおりですね」


 秘書の女性は小さく頷き、「では――」と口を開く。


「三つ目は、貴女に貸しを作った、と言うことですか?」

「ええ。黙認してやるから、データを上手く使え、ということでしょうね。しかも、私がデータを入手したということは、評議会が目的のデータを手に入れたということでもあるわ」


 つまり、ノクサリオン侯爵は目的を達成した上で、セレスタリアに有利に働く貸しを多方面で量産している。


「食えない御仁ですね」

「ええ、セレスタリアにとって必要な人物であることも間違いないわ」

「ただのエロじじいじゃないってことですね。……エロじじい、もげればいいのに」


 ぼそりと呟く。秘書の言葉には深い恨みが込められていた。いや、恨みの相手は婚約者なので、これは単なる八つ当たりなのだが。


「貴方の希望通り、婚約者には制裁を加えたから落ち着きなさい」

「それは感謝していますが、男は信用できません」

「あら、それはレンのことを言っているのかしら?」


 その問いに、秘書は沈黙を返した。

 そうして一呼吸置いた後、ぽつりと思いの丈を吐き出す。


「……お嬢様には、私のような思いをして欲しくありません」

「ありがとう。でも大丈夫よ。レンは貴方が思っているような人間じゃないから」


 カティアはそう言って薬指に輝く指輪を掲げる。だが、秘書は不満げな態度を崩さない。しばらく秘書の視線を受け止めていたカティアは不意に小さく息を吐いた。


「仕方ないわね。そんなに心配なら調べればいいわ」

「……いいのですか?」

「レンがどういう人間か気になるのでしょう?」


 レンが聞けば過呼吸になりそうなやり取り。

 カティアはわずかに身をよじると、「それに……その、私も、レンが普段どんなふうに過ごしているか、少し気になるから」と乙女のようにはにかんだ。

 

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