エピソード 4ー2
リーシアとの逢瀬中に、セフィナとレーネが夜這いにやってきた。
それがなにを意味するのか、言い訳なんて思いつかない。いや、違う。言い訳なんてするべきじゃない。むしろ、もっと早く、正直に打ち明けるべきだったんだ。
「リーシア、その……すまない」
せめてもの気持ちで謝罪の言葉を口にする。
リーシアは俺を噛むのを止めると、まっすぐに俺を見上げた。
「セフィナさんと、寝たんですか?」
「……ああ」
「じゃあ……レーネさんとも?」
「関係を持っている。それに……他の女の子とも」
「――マ、マスターは……っ」
リーシアはなにかを言いかけ、その言葉をぐっと飲み込んだ。悲しみと怒りを呑み込むような顔。全部俺が悪いのに、リーシアに我慢させてしまっている。
俺はたまらずリーシアを抱きしめた。
リーシアはびくりと身を震わせ、それから不安そうな目で俺を見上げた。
「……マスターは、私とのこと、遊びだったんですか?」
「違う」
「じゃあ、セフィナさんや、レーネさんのことは?」
「遊びじゃない。……こんなこと言っても信じられないと思うけど、いいかげんな気持ちじゃないんだ。ただ、その……ごめん。どうしてこうなったか、俺にも上手く説明できない」
言い訳をするつもりはない。
だけど、以前の記憶がないという、レーネには打ち明けた言葉がなぜか口に出来なかった。腕の中で、リーシアはわずかに身じろぎをする。
彼女の髪からフワリとシャンプーのいい匂いがした。
「マスター、正直に言ってください。誰とするのが一番いいんですか?」
「それは、それぞれのよさが……って、え?」
いきなりなにを聞くんだと目を白黒させる。どういうつもりだと聞き返そうとしたその瞬間、リーシアが腕の中でクルリと身を翻した。
そして次の瞬間、彼女は馬乗りで俺を組み敷いていた。
「リ、リーシア?」
「マスター、私、怒っているんですよ?」
そう言ってふくれっ面になる、少し拗ねた様子のリーシアが可愛すぎる。だけど、そんなふうに思っていい状況じゃないと、俺は唇を噛んで表情を引き締めた。
「そ、それは弁解のしようもなく、悪いと思ってる」
「ええ、本当に。マスターから教えてもらったとおりにしてるのに、一番じゃないなんておかしいですよね? 他にして欲しいことがあるなら、どうして私に教えてくれなかったんですか!」
「――そっちっ!?」
思わずツッコミを入れるが、それ以上の言葉を続けることが出来なかった。
リーシアが俺を組み敷いたまま、「マスターが教えてくれないなら仕方ありません。その身体に聞くことにします」と言って、ちろりと唇を舐めたからだ。
――事後。
リーシアは俺の腕に掴まりながら、恨めしそうな顔で俺を見上げていた。
「むぅ……マスターを分からせようとしたのに、むしろ私がマスターなしでは生きていけないって分からせられました。酷いです、責任を取ってください」
「……責任は取るつもりだけど」
「でも、その相手は私だけじゃないんですよね?」
「あい」
弁明のしようもなく肯定する。
「私にあんなことまでさせておいて、私だけじゃ満足できないんですか?」
「……ホント、ごめんなさい」
俺が項垂れると、リーシアは「もう、仕方のない人ですね」と苦笑する。その雰囲気がさっきより少し和らいでいる気がして、俺はまじまじとリーシアの顔を見た。
「マスターは私を好き。だけど他の人も好き。そして、それらは決していいかげんな気持ちじゃない。これは全部本当ですか?」
「……ああ、誓って本当だ。最低なことをしてる自覚はあるけど、いいかげんな気持ちなんかじゃない。それだけは、絶対に嘘じゃない」
「分かりました。なら、私から言うことはありません」
「それは、どういう……」
もしかしたら、愛想を尽かされたのだろうかと焦る。だけど続けられたセリフは、俺の予想を上回る内容だった。
「私も、他の皆さんも、マスターに救われました。だから、マスターになら命だってなんだって差し出す覚悟です。だから、戯れで抱かれたのだとしても文句なんて言いません」
「いや、俺は戯れで手を出した訳じゃ……」
ないと言うより早く、リーシアは分かっているとばかりに微笑んだ。
「それならなおさら文句なんてありません。でも、マスターが本気だというなら、私を幸せにしたいと思ってくれているのなら、その本気を証明して欲しいとは思います」
「証明って……なにをしろと?」
「マスターが手を出した女の子に事情を話し、いまの関係を認められてください。そうしたら、マスターがいいかげんな気持ちで複数の女の子に手を出した訳じゃないって信じます」
「それは……」
無理だと思った。
セフィナとレーネの説得だけでも困難だ。
そして他の子は、許してくれるかどうか以前、手を出したのかすら把握できていない。そんな状況で、複数人に手を出していることを認めてもらう……?
それがどれだけ大変かは考えるまでもない。
だけど、俺がハーレムを拒絶していた最大の理由は、相手を悲しませたくなかったからだ。
なのに、いまの俺は既に多くの女性に手を出してしまっている。
つまり、皆を悲しませないための条件が替わってしまっている。なにより、彼女達と幸せな日々を過ごせるのなら、大変な目に遭うくらいなんてことはない。
であるならば、ハーレムを目指すことを忌避する理由なんてない。
「やるよ。それでリーシアを失わずに済むのなら」
「……べ、べつに、失敗してもマスターの側を離れたりは……しないですけど」
ぽつりと呟くリーシアが可愛い。
リーシアも、セフィナも、レーネも、他の誰も失いたくない。だから、たとえそれが間違っているのだとしても、俺はハーレムを目指すと決意した。
そうして自らの意思で一歩を踏み出す。俺はまだ、修羅場の入り口に立ったばかりだ。
――いや、修羅場の入り口にだけは、立ちたくなかったんだけどな。




