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ソシャゲで推し全員に課金指輪を贈っただけなのに、異世界で修羅場が始まった件 ~事後から始まる正妻戦争~  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー5

 いきなり起こった暴走をまえに多くの者達が狼狽える。そんな中、さっきまで戦っていたにもかかわらず、リーシアはヴァネッサを気遣うような素振りを見せた。


「ヴァネッサさん、意識をしっかり持ってください!」

「リーシア、無駄だ。ヴァネッサは自分の意志で魔力を暴走させている!」

「なっ、そんな、まさか――っ」

「わざと暴走させるなんて正気の沙汰じゃないのよ!」


 リーシアに続き、レーネまでもが信じられないと取り乱す。彼女らだけでなく、この場にいる全員から動揺が伝わってくる。

 だが無理もない。なんの訓練も受けていないアマリリスの母親ですら、暴走中は一流の戦士に匹敵する戦闘力を手に入れた。

 一流の戦士であるヴァネッサが暴走状態になったら――と焦るのは無理もない。


「狼狽えるな! あれは擬似的な暴走だ。本来の暴走ほどの出力はない! 落ち着いて当たれば、対応することは可能なはずだ」

「――了解です、マスター」

「その言葉、信じるのよ!」


 そう言い放ち、二人は同時に近接戦を仕掛けた。その一撃がヴァネッサに吸い込まれる――寸前、ヴァネッサの周りに漂う赤い魔力が二人の攻撃を受け止めた。


 直後、ヴァネッサが獣のように咆哮、魔力による衝撃波が周囲に吹き荒れる。

 リーシアは直撃を食らって吹き飛ばされるが、空中でクルリと回って足から着地。レーネもまた、死神の鎌を地面に突き立てて着地した。

 その余波が近くの窓を破壊、天井からはパラパラと破片が振ってくる。


「~~~っ。なんて出力なの。――マスター、指示をください!」


 リーシアの焦った声。俺は必死にゲームの知識から必死に対策を考える。ピックアップを引く前で、詳細なスキルの内容は把握していないけれど、アスペリアに所属するユニットの傾向だけなら把握している。


「擬似的とはいえ、暴走していることに変わりはない。安全を考えれば長くは維持できないはずだ。レーネと連携して、距離を取りながら牽制を続けるんだ!」

「――分かりました。レーネさん!」

「言われずとも、おまえに合わせてやるのよ!」


 二人が連携を取り、交互に牽制を始める。

 レーネが狙撃をすれば、レーネが回避で出来たヴァネッサの隙を突く。反撃、牽制、その一撃一撃が淡い光を纏った衝撃波を放ち、余波が建物を破壊する。

 不意に、コネクトレインを通じて、リーシアから心の声が届いた。


『マスター、無事に帰れたら、たくさん可愛がってくださいね』

『――っ。そんなことは、無事に戻ってから言え!』


 彼女の言葉がまるで死亡フラグに聞こえて拒絶する。

 だが、リーシアは静かな想いを伝えてくる。


『マスター、ヴァネッサさんは強いです』

『そう、だな』


 正直、ヴァネッサがここまで強いとは思っていなかった。この戦況が、自分の判断の甘さが引き起こした結果だと思うと嫌になる。


『リーシア。無事に帰ったらいくらでも可愛がってやる』

『……マスター? ホント、ですか?』

『ああ。だから、必ず生き延びろ!』

『――はいっ!』


 答えると同時、リーシアは緋響を狙撃モードに移行。魔力を纏わせた一撃を放った。深紅に染まったその一撃がヴァネッサを弾き飛ばし、研究所の壁をも破壊する。


「ちょ、リーシア、私ごと吹き飛ばすつもりなのよ!?」


 爆心地の近くにいたレーネが声を荒らげた。


「私は、レーネさんを信じます!」

「――この子は……毎回、信頼が重いのよ!」


 レーネは再び悪態を吐くが、その顔は笑っていた。だが次の瞬間、その表情が引き締まる。爆煙が晴れた中心にたたずむ人影が見えたからだ。


「……あれの直撃を受けて、ホントに化け物なのよ」

「――さっきから見え見えなんだよ!」


 爆煙の中からヴァネッサが飛び出し、狙撃モードのリーシアに躍りかかる。


「させないのよ!」


 レーネがあいだに割って入り、真正面からヴァネッサの鉄甲による一撃を受け止めた。

 そして次の瞬間、レーネの冥響――死神の鎌がその刃に紅い光りを纏った。


「リストレイン、限定解除――今度は、こっちの番なのよ!」


 レーネのエクストラスキル。

 ヴァネッサのスキルほどの倍率はないが、安定感と持続時間では圧倒的に優れている。全身に魔力をみなぎらせたレーネは冥響を構え――ヴァネッサに反撃を開始した。


 再び一進一退の攻防が始まる。

 それを横目に、俺は周囲の状況を確認する。既に魔法生物は入り口に押し寄せており、魔装部隊とリアナの率いる治安維持部隊が迎撃に当たっている。


 味方は奮闘している――が、いかんせん敵の数が多すぎる――と、気配を感じて上を見上げれば、通風口から小さな魔法生物が流れ込んでくるところだった。


 次の瞬間、通風口から降り立った魔法生物の一体がセフィナの方へと向かった。俺は即座にエーテルギアを起動、腰から剣を抜き放ってその魔法生物を切り裂いた。


「通風口からも魔法生物が来る! 手が空いている者は対処に当たれ!」


 とっさに警告を出すと、防衛ラインから数人が救援に駆けつけてくれた。その者達に魔法生物の対処を任せ、俺はセフィナに向き直った。


「無事か、セフィナ!」

「え、ええ、ありがとう」


 戦闘ユニットの一人であるが、設定的には後方支援キャラ。

 彼女の顔は恐怖に引きつっている。


「セフィナ、後どれくらいだ?」

「資料はあらかた回収したわ。でも、データの吸い出しは三十パーセントといったところよ」

「……分かった。出来るだけ時間を稼ぐ」


 時間にしたら、あと数分といったところだろう。

 だが、その数分を稼ぐのが絶望的に感じられる。


「――マスター!」


 リーシアの警告。

 とっさに振り向けば、迫り来るヴァネッサの姿。腰から剣を抜いて迎撃しようとした直前、俺とヴァネッサのあいだの空間をリーシアの放った魔力弾が撃ち抜いた。


 ヴァネッサがそれを回避して足を止めた瞬間、レーネが「マスターはやらせないのよ!」と間に割って入る。そこにリーシアも加わり、再びヴァネッサは距離を取った。

 だが――


「壁の向こうからも来るぞ!」


 リアナの警告が響く。

 リーシアがぶち抜いた壁の向こうに魔法生物の姿が見えた。


 既に四方が囲まれている。なにより、壁の多くがぶち抜かれ、天井の一部では崩落が始まっている。これ以上留まるのは自殺行為だ。


「セフィナ、悪いがタイムリミットだ」

「――っ。ダメよ、いまのままだと必要なデータが取れない! せめて三分……いえ、一分でいい。だからどうか、もう少しだけ時間をちょうだい!」

「気持ちは分かる。だが、このままじゃ全滅する!」


 声を荒らげれば、セフィナは悔しげに唇を噛んだ。


「マスター、お願いよ。MAHS患者の未来のために、アマリリスの未来のために必要なの!」

「……俺だって、アマリリスは救いたい。だが……」


 ここにいる他の誰かだって失いたくない。なにより、セフィナを失えば、MAHS患者の未来はここで潰える――と、俺は唇を噛んで葛藤した。


「……分かった。一分だな。なんとかしてみる」

「――感謝するわ、マスター」


 セフィナはそう言ってすぐに端末に視線を落とした。その横顔は真剣そのものだ。彼女は自分が出来ることを必死にやっている。

 ならば俺も自分が出来ることをと覚悟を決めた直後、三度、ヴァネッサが襲い掛かってきた。それを阻止しようと、リーシアが再び射撃モードに移行する。

 その瞬間、ヴァネッサがたしかに笑った。


「リーシア、罠だ!」


 俺が叫ぶのとほぼ同時、ヴァネッサが目標を変えてリーシアに躍りかかった。


「――なっ!? 換装、斬撃モードへ移行――」

「おせぇ!」


 リーシアがモードを換装するより早く、リーシアを鉄甲で殴った。

 リーシアはとっさにスナイパーライフルで防ぐが、その勢いまでは止められずに吹き飛んだ。脆くなっていた壁を突き破り、そのまま廊下にまで飛ばされていく。

 それを見た俺は頭が真っ白になった。


 いまの、生きているのか?

 ゲームなら、やられても死ぬことはない。任務から帰還すれば回復する。でも、いまのは、人間が耐えられるような衝撃じゃなかった。

 もしかしたら――と、そんな恐怖を抱いて身体が強張った。


「よくもリーシアを! 許さないのよ!」


 冥響を覆っていた紅い魔力の光りが、レーネの全身へと広がっていく。それは彼女のスキルじゃない。エピソードで何度も見た、無茶をして暴走寸前に陥ったときの状態だ。


「レーネ、無茶をするな!」


 これがゲームのストーリーなら、どれだけ暴走しても最後は正気に戻るかもしれない。でも、現実となったこの世界でそんな保証はない。

 ここで取り乱してレーネまで失うわけにはいかない。すぐに使用を止めさせようとするが、彼女は「ここで無茶をしなくていつするのよ!」と拒絶の意思を返してきた。


 そこにコネクトレインを通じて『マスター……』とリーシアの声が聞こえてくる。


『リーシア、無事か!?』

『……はい、なんとか……リアナさんが救援に来てくれています』


 その言葉に心から安堵する。

 同時に、もしかしたらリーシアを失っていたかもしれないという恐怖に駆られる。ゲームでなら敗北したってやり直すことが出来るけれど、現実ではそうはいかない。

 大切な仲間が死ぬことだってあり得るのが現実だ。


『マスター、ごめん、なさい。いますぐ、戦闘に復帰を……っ』

『無理をするな。それより、頼みがある。合図をしたら――』


 俺が思い浮かべた作戦を伝える。

 途端、リーシアから拒絶の意思が伝わってきた。


『――無茶です!』

『無茶でもやるしかない』

『でも――』

『頼む、リーシアしか出来ないことなんだ』


 リーシアの悲痛な想いがコネクトレインを通じて押し寄せてくる。だが、次に彼女の発した言葉は、『マスターを信じます』の一言だけだった。


 どんなに不利な状況でも、どんなに無茶な内容でも、リーシアは全幅の信頼を置いてレンに従ってくれる。俺はそれを、ストーリーを通じて知っていた。


 だけど――彼女の信頼で得られる高揚感はレンに転生しないと分からなかった。

 俺はリーシアから信頼されることへの高揚感とプレッシャーを抱きながら、作戦を始めるべく顔を上げた。


「――セフィナ!」

「ええ、いま終わったわ!」


 みなまで言うより早く、セフィナはホープギアから端末と繋ぐコードを引き抜いた。


「よし! おまえはリーシア達と合流して撤退。以降、おまえが本隊の指揮を執れ!」

「え? それじゃマスターは?」


 その問いに対し、俺はギュッと拳を握りしめた。

 Chord MAHSにおけるレン――プレイヤーキャラは指揮官で、ユニットとして戦闘をすることはない。ゲームなら、ここはセフィナ達と撤退するところだろう。

 だけど、俺は自分の意思で動ける。

 だから――


「俺はレーネと殿を務める」

「――馬鹿言わないで! 魔装もないくせに殿なんて、死ぬわよ!?」


 予想以上に苛烈な反応。

 本気で俺を心配してくれているのが伝わってくる。だが、俺の覚悟は変わらなかった。むしろ、そんな彼女達を護りたいとより強く想う。


「勝機はある。それに、レーネ一人に任せる訳にはいかない」

「……本気、なのね?」

「ああ。だから、リーシアを頼む」

「~~~っ。分かった。二人で帰ってきなさいよ!」


 セフィナは絞り出すような声でそう言って、踵を返してリーシアの元へと駈けていった。セフィナがなにか指示を出し、リアナやリーシアの頷く姿が見て取れた。


 ……さて、後は俺達が頑張るだけだな。

 そんなふうに意気込んで、レーネへとコネクトレインを繋ぐ。


『――レーネ、まだ意識はあるな?』

『マスター、リーシアはどうなったのよ!?』

『無事だ』


 そう伝えると、レーネの安堵の想いが流れ込んできた。

 だが次の瞬間、苛烈な言葉が飛んでくる。


『だったら、マスターもとっとと逃げろ、なのよ!』

『ああ、おまえと一緒に、な』

『それは無理なのよ! 私が撤退すれば、こいつは間違いなくセフィナを追うのよ!』

『大丈夫だ。それは俺がなんとかする』

『なんとかって……本気で言ってるのよ?』

『ああ。少し無茶になるが――俺を信じてくれるか?』


 この作戦を実行するに当たって、レーネには命を預けてもらう必要がある。そんな思いで問い掛ければ、レーネの呆れるような想いが伝わってきた。


『いまさらなにを言ってるのよ。いつものように無茶ぶりでもなんでもすればいいのだわ。そうしたら、私がそれを死ぬ気で実行してやるのよ!』

『……そうか。やっぱりいい女だな、おまえは』

『なっ!? マスター、いま――』


 レーネがなにか言おうとするが、俺は問答無用で通信を切った。それからリーシアに繋ぎ直し、『リーシア、やれ』と命令を下す。


『――はい!』


 感情を押し殺したようなリーシアの声。それから、入り口の側、セフィナに支えられたリーシアが、狙撃モードの緋響を施設の天井に向けて構えた。


『マスター、レーネさん。必ず、生きて返ってきてくださいね』


 彼女は祈るようにトリガーを引く。天井で爆音が響き、俺達とリーシア達を隔てるように空から瓦礫が降り始めた。

 

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