エピソード 3ー3
「――セフィナさん、どういうつもりですか!?」
リーシアが焦った声で問い掛ける。
だがそれも無理はない。ヴェルターラインとアスペリアと治安維持部隊。この三つ巴の状況下で、ホープギアは破壊するのが一番だという結論に達した。
それが一番――否、唯一とも言える平和的な答え。にもかかわらず破壊を反対する。それは、他の二つの組織を敵に回しかねない行為だ。
「てめぇ、どういうつもりだ?」
と、ヴァネッサが目を細め、リアナもまた「なにを考えている?」と警戒心を露わにする。せっかく纏まりかけていた場の雰囲気がまた破壊された。
正直、最近までただに社畜だった俺には荷が重い。でも、いまの俺はレン。ヴェルターラインのCEO。そんな俺がここから逃げる訳にはいかない。
そう覚悟を決めて一歩を踏み出し、セフィナのまえに立った。
「セフィナ、これが非道な装置だと分かっているんだよな?」
「ええ、もちろん。おぞましい装置だと思っているわ」
「ならばなぜ破壊を反対する?」
その問いに対し、セフィナは自らの腕にハマったリストレインを掲げてみせる。
「これは私がアーキライン文明の技術を応用して作ったリストレイン。MAHS患者の暴走を抑制する装置よ。これがあるから、私達は日常生活を取り戻すことが出来た。それは知っているわよね」
「ああ、もちろん知っている」
「なら、どんな技術を参考にしたか分かる?」
「それはもちろん、MAHS患者を治療する装置を――」
そこまで口にして思い出す。
アーキライン文明にMAHS患者は存在しなかった。患者ではなく、ハーモニア適正者として、支配階級に君臨していた選ばれた者達。
病人ではなく選ばれた存在。そんな彼らを治療する装置は存在しない。存在するのは――と息を呑み、答え合わせのためにセフィナに視線を向ける。
「分かったようね。私が参考にしたのは、ハーモニア適正者を暴走させる装置よ」
「……他にも、存在したのか」
このおぞましい装置が――と、吐き気を催す。
「そうね。――と言っても、私が見つけたのは兵器だったわ。恐らく、ハーモニア適正者による世界の統治を認めない人達が作ったんでしょうね」
「……そうか」
現代のレムナント文明を築き上げたのは、アーキライン文明を滅ぼした者達だ。つまり、評議会の先祖達がその装置を作ったことになる。
その事実に対して新たな疑問が浮かぶが、俺はそれを意図的に考えないようにした。いま重要なのは、彼女の話を聞いた上で、ホープギアをどうするかということだ。
「……セフィナ、この装置を持ち帰れば、MAHS患者を治療できるのか?」
「それは難しいでしょうね。ただ、リストレインの性能を上げることは出来ると思う」
「――そういうことか」
Chord MAHSの期間限定イベントでは、キャラのスペックをわずかに引き上げる装置を手に入れることがあった。おそらく、これはそういった類いの品だ。
そしてその技術こそが、アマリリスの容態を回復させる一因になる。これらが新章のエピソードだと考えれば、すべての点が線で繋がる。
なにより、セフィナはすべてを捧げてMAHS患者を救おうとしている。そんな彼女の言葉なら信頼に値する。彼女が、ホープギアを悪用するとは思えない。
「俺は、セフィナの言葉は信じるに値すると思う」
「マスター、私も同意見です」
即座にリーシアが応じてくれた。
それに勇気を得た俺は、続けてレーネ、他の部隊員達に視線を向ける。彼らはまっすぐに俺の視線を受け止め、そして静かに頷いてくれた。
ならばと、俺はリアナへと向き直った。
「――リアナ」
みなまで言わずに訴えかけた。
正直、難しい判断になるだろう。なにしろ、さきほどまでは、これが治療用のポッドではなく、評議会の望んだ装置ではないから破棄する、という方向で纏まっていた。
だが、これが治療用の装置になり得るのなら、前提条件が変わってくる。
とはいえ、これがMAHS患者を生体部品にする非道な装置であることに変わりはない。そんな危険な装置を評議会に預けることは出来ない。
俺とリアナ、ヴェルターラインと治安維持部隊のあいだに重い沈黙が流れる。
だが――
「おいおい。俺は装置を破壊するって言うから、ヴェルターラインに味方してやってもいいって言ったんだぜ。持ち帰るって言うなら、もちろん阻止させてもらうぜ!」
俺の選択は、さらに予想外の化学反応を引き起こした。
「マスターっ!」
殺気に反応したリーシアが、とっさに俺とヴァネッサの間に割って入る。一触即発の雰囲気で、次の瞬間にも戦闘に入りそうな気配を察した俺は慌てて口を開く。
「聞けっ、ヴァネッサ! これはMAHS患者の希望になるかもしれないんだ」
「はっ、それはただの妄想だ。現実は装置の中にある遺体が物語ってるじゃねぇか!」
痛いところを突いてくる。
実際のところ、評議会の手に渡れば危険な装置であることに違いはない。ヴェルターラインが適切に保管したとしても、その技術が漏れないとは限らない。
その危険があるのは紛れもない事実だ。
「だが、リスクがあるからと希望を捨てるのか? おまえも、アマリリスも、他のMAHS患者達だってそうだ。いつか、迫害されずに済む未来があるかもしれないんだぞ?」
「……あぁそうかもな。それは最高に素敵な未来だ」
ヴァネッサそう言って笑い、だが次の瞬間――グラトニアを発動させる。
それに反応したリーシアもまた魔装を起動した。
「マスター、危険です! 下がってください!」
リーシアに下がるよう促されるが、俺はそれを拒否してヴァネッサに訴えかける。
「ヴァネッサ、おまえだってアマリリスを気に掛けていただろう!」
「黙れ! アタイがどれだけ、その甘い希望に裏切られてきたと思ってる! いまさら、そんな言葉を信じられるか! あの装置はここで――壊すっ!」
身を翻したヴァネッサが装置に飛び掛かった。
離れていたリアナ、俺を守っていたリーシアは間に合わない。レーネがとっさに反応したが、それよりも早く、ヴァネッサはグラトニアの鉄甲を使った一撃をホープギアに叩き込んだ。
魔法生物の特殊装甲すら貫く一撃、俺はホープギアが破壊される瞬間を幻視するが――即座に展開されたシールドがそれを防いだ。
「んだとっ!?」
ヴァネッサが驚きの声を上げると同時、設備の中に警報が鳴り響いた。




