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ソシャゲで推し全員に課金指輪を贈っただけなのに、異世界で修羅場が始まった件 ~事後から始まる正妻戦争~  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー2

 アスペリアからの共闘の申し出。

 ヴェルターラインと治安維持部隊のパワーバランスが一気に入れ替わった。

 ヴァネッサがリーシアの隣に並び掛け、向かいに立つリアナの額に一筋の汗が流れた。


「……リーシア、アスペリアと手を組む、つもりなのか」

「貴方こそ、非道な装置を持ち帰ることに良心の呵責はないのですか?」


 互いに引くことは出来ない。だが、致命的な対立は避けねばならない。そんな想いが、互いの言葉の端々に滲んでいる。

 息の詰まるような駆け引きが続く中、リアナは言葉を選ぶように口を開いた。


「……たしかに、評議会がこの装置をどうするつもりかは分からない。ならば、MAHS患者を装置の部品として使う可能性も……否定は、できない」

「それを知りながら、貴方は装置を持ち帰るというのですか?」

「……そうだ」


 魔装部隊の面々が息を呑んだ。

 そして彼らの怒りが爆発する寸前、リアナは再び声を張り上げる。


「――だが、評議会は愚かではない! わざわざ協力関係にあるおまえ達を生体部品にする道理はない。生体部品に選ばれる者がいるとすれば、それは重罪を犯した者達だけだ!」


 リアナはそう言って、リーシアの隣に立つヴァネッサを睨み付けた。


 罪人ならなにをしても許される訳ではない――と、日本人としての俺は思う。だけど、レンとしての俺は、ここはそういう世界だと告げていた。

 少なくとも、魔装部隊の面々はわずかながらに敵意を弱めた。

 だが――


「リアナさん。罪を犯した者だからと言って、なにをしてもいいという訳ではありません。少なくとも、このように非人道的な装置の犠牲には出来ません」


 リーシアは罪人にも掛ける慈悲を持ち合わせていた。リアナは「綺麗事を……」と苦々しげに呟き、続けて俺をちらりと見た。


「――リーシア、いいのか、そんなことを言って」

「なにが、ですか?」


 不意に笑うリアナに対して、リーシアは戸惑うように胸の前で拳を握った。


「おまえはたしかにヴェルターラインのエースで、仲間から絶大な信頼を得ていることは知っている。しかし、代表はレンのはずだ。おまえの独断で、我らと敵対してもいいのかと聞いている」

「それは……」

「勝手ばかりしていたら、レンに嫌われるぞ?」

「――っ、マ、マスターはそんな人じゃありません!」


 途端、リーシアの瞳が大揺れに揺れた。周囲から、「リーシア隊長、やっぱり……」とか、「諦めろ、おまえじゃ釣り合わない」なんて声も聞こえて来た。

 ますます狼狽えるリーシアをまえに、リアナが勝機と畳みかけてくる。


「おまえは同じ部隊にいながらレンのことをよく分かっていないようだな。そいつが我らとの対立を望むと、本当にそう思っているのか?」

「そ、それは、思って、いません。……ですが! このような非道な装置が評議会に渡ることも臨んでいません。マスターのことを分かっていないのはリアナさんの方です!」

「……ほう、私がレンのことを知らないと?」


 意味深な笑み。

 あ、これ、不味い流れだと思うのと同時、リアナが俺を見た。


「ならば、どちらの意見が正しいか、レンに聞いてみようではないか」

「望むところです! 私の意見に賛成ですよね、マスター!」


 リアナが、そしてリーシアが詰め寄ってくる。副音声で、どっちを選ぶんだと聞こえてきそうだ。

 リアナの左の薬指に課金指輪が填められているのがちらりと見えた。

 この瞬間、なんとなく察した。俺はたぶん、リアナとも関係を持っている、と。


 ここからの俺の選択一つで、ヴェルターラインと評議会が対立するか否か。そして、俺の浮気がバレるか否かが決定する。

 絶対に、選択を誤る訳にはいかない!

 絶対にだ!


 ならばどうするのが正解か。

 評議会はもちろん、治安維持部隊と敵対するのは論外だ。俺達ヴェルターラインがここまで大きくなったのは、評議会に存在を容認されているからに他ならない。


 だが、ホープギアを評議会に渡す訳にもいかない。最大幸福を優先するノクサリオン侯爵の手にホープギアが渡れば、ろくな結果にならないのは目に見えている。

 だとしたら――と、俺はリーシアの頭にぽんと手を置いた。


「心配するな、リーシア。俺も同意見だ」

「マスター! はい、そう言ってくださると信じていました!」


 目をキラキラさせるリーシアが可愛すぎる。

 だが、いまはそれよりも――と、リアナに視線を向けた。


「……レン、それがヴェルターラインの代表としての意見なのか?」

「そうだ」

「……我らの敵になる、と?」


 それは最後の確認だったのだろう。

 リアナは緊張した面持ちをしながらも、その右手はエーテルギアの起動デバイスに伸ばされた。彼女がそれに触れる直前、俺は「リアナ」と静かに彼女の名前を呼んだ。

 リアナの指先がエーテルギアに触れる直前でピタリと止まる。


「……なんだ?」

「俺はここにあった資料を読んだ。ホープギアの設計者は、都市の機能を維持するために、愛娘をあの装置の中に入れたそうだ」

「娘? それはもしや……」

「恐らく、装置の中にあった子供の遺体だ」

「……そうか」


 リアナは痛ましげに顔を伏せた。

 それだけでも、彼女がこの非道な装置に存在をよしとしていないことが分かる。


「俺は、アーキライン文明の悲劇を繰り返したくない。あの装置を使い、子供をあのような姿に変えてしまう装置を認める訳にはいかない」

「……だから、我らと違う道を歩むと?」


 その問いに答えず、俺はこの場にいる面々の姿を見て回る。

 ゲーム登場するモブキャラはみんな同じ顔だった。だが、いまここにいる面々は一人一人の顔が違う。

 ここは現実だ。

 ゲームが元になっただけの現実だ。ゲームのように割り切った選択をすることは出来ない。

 それに――と、リアナに視線を向ける。

 ソシャゲのプレイヤーだった俺は、クールビューティーな彼女が、実は虚勢を張っているだけの優しい女性であることを知っている。

 だから、彼女と手を取り合う道はきっとある。


「リアナ、聞かせてくれ。おまえ達が受けた依頼は、あの装置の回収なのか?」

「なにを言っている。おまえもブリーフィングルームにいただろう」

「ああ。だからおまえに聞いているんだ。俺が受けた依頼は、MAHS患者の治療用ポッドの回収だった。だけど、おまえ達が受けた任務は違ったのか?」


 俺達にだけ偽りの任務を伝え、ホープギアの回収を命じられていたのなら打つ手はない。だが、彼女らもまた間違った情報を伝えられていたのだとしたら、そこに活路があるはずだ。


 だが、リアナの答えによっては今度こそ戦闘が始まる。そうなれば、ヴェルターラインと評議会の戦闘は避けられないものとなるだろう。


 それは、ゲームを知る俺でも予想できない結末に向かうかもしれない。

 交渉決裂と共に『おまえと私の関係もここまでだな』とか言われて、なし崩し的にリーシアとセフィナ、それにレーネとの関係もバレて、その場で私刑に処され可能性だってある。

 そんな緊迫した雰囲気の中、リアナは小さく息を吐いた。


「そうだな。我らが受けた任務も、治療用ポッドの回収だ。ゆえに、おまえ達があれを壊してしまったとしても、我らはなんら感知しない」

「――リアナ隊長!」


 彼女の言葉に緊張感が薄れた。

 そう思った瞬間、彼女の部下の一人がリアナに詰め寄った。


「わきまえろ、分隊長」

「いいえ、言わせてください! 評議会の思惑がなんだったとしても、指定された場所にあった装置はあれだ。であるならば、我らはそれを――」

「――分隊長!」


 リアナが口調を強めて制止する。

 それから険しい顔で、明らかに納得の言っていない分隊長に視線を向けた。


「おまえの言い分は分かる。だが、ヴェルターラインは決して侮っていい相手ではない」

「だから怖じ気づいたとでも言うつもりですか!」


 その瞬間、リアナの怒気が膨れ上がり、分隊長は一歩後ずさった。


「……いまのは聞かなかったことにしておいてやる」


 彼女はそう言い放ち、それから俺達に背を見せて部下を見回した。


「ヴェルターラインをこの任務に引き入れたのは他ならぬ評議会だ。その彼らが、ホープギアの正体を知って黙っていたと思うか? ヴェルターラインと対立すると分かっているのに?」


 リアナの問い掛けに対して、治安維持部隊の面々がざわつく。

 もしも評議会が事情を知っていたら、俺達と対立を前提としていることになる。だが、そんなことはあり得ない。そんなことをしても、なんの利益にもならないからだ。


「つまり、評議会は装置の正体を知らなかったと判断するのが妥当だろう」

「だ、だとしても、それを放棄する理由には……」

「たしかにならないな。だが、考えても見ろ。これが不測の状況であるならば、独断でヴェルターラインと敵対した我らを評議会はどう思う?」

「それは……っ」


 分隊長は息を呑んだ。

 自らの選択が、評議会の不興を買いかねないと気付いたのだ。


 もちろん、他の可能性もあるだろう。だが、そのどれもが治安維持部隊にとって好ましくない。

 そのことを、治安維持部隊の面々は理解した。

 そして――


「ここに、評議会の望む装置はなかった。異論のある者はいまここでまえに出ろ!」


 リアナの問いに異論を唱えるものは現れなかった。それこそが、事を荒立てない唯一の選択であると理解したのだ。そうして、部下の意思を纏めたリアナは再び俺達へと向き直る。


「待たせたな。聞いての通り、ここに評議会の望む装置はなかったと判断する」

「……恩に着る。リーシア、聞いての通りだ。いまからその装置を――」


 破壊しろと、リーシアに命じようとした。だがそれより一瞬早く、セフィナが「待って。この装置を壊すのは反対よ」と装置を背に立ちはだかった。

 

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